VOL.4 長期優良住宅の認定基準を満たし長寿命化
「資産価値を維持する高性能住宅」とはどのようなものかについて、省エネルギー以外の視点から取り上げていく。高気密・高断熱住宅を手がける建築会社を家主に紹介する住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)の高橋彰代表取締役がわかりやすく解説する。
安定的な賃貸経営のため 3世代、75~90年の耐久性
新築住宅における長期優良住宅の認定取得率は、一戸建て住宅の場合は年々上昇しており、近年は約30%に達しています。一方、共同住宅では、2022年度は0・5%にとどまっています。
戸建て住宅に比べて、税制などのメリットが少ないため、コストをかけて認定を取得する必要は少ないかもしれません。しかし、長期にわたって良好な状態を保ち、安定的な賃貸住宅経営を目指すのなら、基本性能として、長期優良住宅の認定基準を意識するべきでしょう。
長期優良住宅の認定を受けるためには、耐震性(耐震等級3)、省エネルギー性(断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6)、居住環境、維持管理・更新の容易性、劣化対策などの各基準をクリアする必要があります(図1)。

特に、劣化対策については、「劣化対策等級3」が求められます。これは、国が3世代が住み続けることができる、すなわち75~90年の耐久性を持たせる性能と定義しています。
具体的には、数世代にわたり住宅の構造躯体が使用できる基準として以下七つの劣化対策が必要です。
(a)外壁の軸組など(b)土台(c)水回り(浴室および脱衣室)の壁、床および天井(d)地盤の防蟻(ぼうぎ)措置(e)雨のはね返りによる土台などの木部の劣化を防止することを目的とした基礎の立ち上がり(f)床下の防湿および換気措置(g)天井断熱を施工している場合の小屋裏換気措置。これに加え、劣化対策等級3の場合は(イ)床下点検口(ロ)小屋裏点検口(ハ)床下有効空間の確保の三つが求められます。
これらは、いずれも住宅の長寿命化のためにはとても大切な項目です。新築時には、これらの項目を満たしているかどうかを確認するべきでしょう(図2)。

木造で75年以上の耐久性に 腐朽と蟻害のリスクを低減
夏涼しく、冬暖かい省エネ性能に優れた住宅を経済的に建てるのであれば、3階建て以下ならば木造が前提になります。
ただ、木造住宅の大きな弱点は、腐朽と蟻害リスクです。75年以上の耐久性の確保のためには、この二つのリスクを十分に低減する必要があります。
長期優良住宅認定制度はとてもいい制度です。ただ、この二つのリスクに対しては、認定基準では不十分であると筆者は考えています。防腐・防蟻については、長期優良住宅が求めている仕様では、75年の耐久性を確保できない可能性があるのです。
75年続く薬剤効果が必要 永続する防腐・防蟻処理
木造住宅の場合、長期優良住宅が求めている(a)外壁の軸組などの劣化対策は、地面から1m以内についていくつかの選択肢が定められています。一般的に採用されているのは製材、集成材などまたは構造用合板の使用と薬剤処理(現場処理可)です。この薬剤処理は、ほとんどの住宅メーカーは合成殺虫剤系の薬剤を塗布しています。
合成殺虫剤系の薬剤は有機系の薬剤なので、おおむね5年以内には自然に分解され、防腐・防蟻の効果はなくなります。そのため、たいてい5年ごとの点検および有償の再施工が必要です。
ただし、地面から1m以内の構造材は、竣工後は、柱と柱の間には断熱材が施工され、柱の内側は室内側の仕上げ材、外側も外壁材で覆われています。つまり、壁を壊さない限り、再施工は困難です。そのため、竣工から5年たつと、シロアリに対して無防備な状態になってしまっているのです。これでは、75年の耐久性を備えているとはいいにくい状況となります。
急増する外来種の被害 従来にない対策が必要
また近年、アメリカカンザイシロアリという外来種のシロアリによる被害が急増しています。このシロアリは、今までのイエシロアリやヤマトシロアリとは全く生態が異なります。在来種と異なり、乾燥木材中のわずかな水分で生きられるため、住宅の構造材自体に巣をつくります。在来種のように地中の巣から侵入するのではなく、飛来してきて自ら羽を落として侵入し、小屋裏などに巣をつくります。
そのため、従来の地面から1mの防蟻処理では通用しません。アメリカカンザイシロアリの被害は、まだ地域によって濃淡がありますが、1都3県(東京、神奈川、千葉、埼玉)は被害が大きくなりつつあります。
被害が集中している地域も出てきています。現在の木造住宅は、ほぼアメリカカンザイシロアリに対しては無防備な状態です。そのため、今後、被害はより深刻になっていくものと思われます。
次回以降、シロアリ対策について、詳しく説明したいと思います。
住まいるサポート (神奈川県鎌倉市)
高橋 彰代表取締役

全国で180社以上の工務店などと提携し、家主とのマッチングを中心に高気密・高断熱住宅に特化した住まいづくりのサポートサービスを提供。性能にこだわる建築家の紹介や、高断熱賃貸住宅プロジェクトサポートも手がける。東京大学大学院修了。現在、同大博士課程で高断熱木造建築について研究中。
(2025年 2月号掲載)
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