Vol.9 木や土のイメージを抱かせる茶色
安心感のある部屋をつくり出す
地に足の着いた暮らしを連想
 今回のテーマは「茶色」。茶色は、木や土といった自然を思わせる色であり、空間に重厚感やぬくもりを与えられる、建築物において非常に使いやすい色です。そして、物件を内見した際、入居希望者が無意識に「安心感」や「信頼感」を抱く背景には、これまで説明したほかの色と同様に、この茶色の力が作用していることがあります。
 茶色の最大の魅力は「安定感」です。例えば木目調のフローリングや建具は、日本の賃貸住宅でも定番として取り入れられています。これは単なるデザインの流行ではありません。「木=住まい」「土=基盤」というイメージが、人の深層心理に〝安定した暮らし〟として根付いているためです。そして視覚から得られるこの安定感は「ここなら落ち着いて暮らせそう」と思わせるのです。

落ち着いた雰囲気をつくり出す茶色
さらに茶色には、汚れや経年劣化を目立たせにくいという実用的な利点もあります。築年数の古い物件でも、床や建具に濃いめの茶色を用いれば、空間が引き締まり、古さをカバーすることができるでしょう。明る過ぎず暗過ぎない木目調の茶色であれば、白やグレーとも相性が良く、ナチュラルで上品な印象に仕上がります。
より上質になる組み合わせ
 茶色をさらに魅力的に使うためのポイントは、質感との組み合わせです。例えば、最近では硬質な風合いを持つ石目調やモルタル風の内装が人気ですが、木目の茶色を一つ加えるだけで、無機質な印象の中に「住まいらしさ」を取り込むことができます。スタイリッシュなのに、どこか温かみを感じる、そんなバランスが生まれるのです。
 また茶色は、素材の良さを引き立てる色でもあります。木目調のクロスや建材に取り入れることで、視覚的な奥行きやぬくもりが加わり「丁寧に整えられた空間」という印象を与えることができます。
 「茶色=地味」と感じる人もいるかもしれませんが、実は「誠実さ」や「落ち着き」といった信頼感を感じさせる色です。この落ち着いた色調は、気持ちを穏やかにします。そして、意識的に茶色を取り入れ、異質な素材との組み合わせを工夫すると、心に残る住まいの演出にもつながるのです。
 今回の色彩の力はいかがでしたか? 次回は、人気はあるけれど使い方が悩ましい「ピンク」を取り上げたいと思います。
眞井彩子(さないさいこ)

プロフィール
色と旅をこよなく愛するカラーコンサルタント。自らも賃貸物件の運営を行い、色の力で満室を継続中。不動産のカラーコーディネートのほか、パーソナルカラー診断やカラーセラピー、色がテーマのまち歩きなど、色彩を通じて空間や人生に彩りを添える専門家として多方面で活躍中。著書「365日の色 彩暦」シリーズで、多くの読者から支持を得ている。
(2025年 9月号掲載)






