入居者との思い出:生活に困窮していた高齢入居者

賃貸経営入居者との関係づくり

第37回 生活に困窮していた高齢入居者 絶縁状態だった娘との和解勧める

 10年ほど前、金子英樹オーナー(群馬県桐生市)は所有するアパートで生活に困窮していた高齢の入居者をサポートし、感謝された経験がある。

 当時、金子オーナーはそのアパートの一室を自身の事務所兼仮住まいとしていた。程なくして、入居者から「夜の7~8時ごろになると水が出ない」とクレームが入るようになった。その時間に貯水槽を見に行くと、貯水槽のポンプのコンセントに炊飯器のプラグを差し、お米を炊いている人がいた。Mさんという高齢の男性入居者だった。事情を聞くと、電気もガスも止められたため、そのようなことをしていたのだという。

 「真冬のことでした。仕方なく、電気はたこ足配線にして使ってもいいけど、ポンプのプラグは抜かないでくださいねと言って、食べ物とカイロを渡しました」(金子オーナー)

金子英樹オーナー(51)群馬県桐生市

[プロフィール]かねこ・ひでき
1973年、群馬県桐生市生まれ。ドラッグストア、電機設備会社勤務を経て総合建設企業に入社。同時に24歳から不動産投資を始めて徐々に物件を増やし、37歳で専業家主に。アパート12棟、戸建て20棟、合計90戸を自主管理中。

▲アパート外観。貯水槽のポンプのコンセントを使いお米を炊いていた

 その後もMさんは外でお米を炊き続けており、見かねた金子オーナーは自分の部屋に招き入れ、話を聞いた。すると、酒やギャンブル、浮気、さらに借金が原因で、家族とは縁が切れていることがわかった。妻は亡くなったが、娘が1人いるという。そこで金子オーナーは、娘に連絡してみることを勧めた。Mさんは最初渋っていたが、連絡すると娘からすぐに送金があり、一緒に暮らす提案もしてくれた。

 ほっとした金子オーナーが、しばらくしてMさんの部屋を訪ねると、見慣れない男性が中にいた。Mさんの娘の夫だった。ぎっくり腰で緊急入院したMさんは、院内で感染症にかかり、わずか1週間で亡くなってしまったのだという。そのため、部屋を片付けに来ていたのだ。

 Mさんは連帯保証人がいなかったので、敷金を多めに預かっていた。残ったお金を返金したいと娘に連絡したが「お世話になったので、受け取ってください」と言われた。考えた金子オーナーは、そのお金を香典として現金書留で娘に送ることにした。すると、それが届いたであろう頃に夢の中にMさんが出てきて「大家さん、ありがとう。お世話になりました」とお礼を言われたのだという。

 「生前『本当にお世話になったから、よろしく言ってくれ』と娘夫婦に話していたそうです。今でも忘れられない入居者です」(金子オーナー)

(2025年 2月号掲載)

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