<<INTERVIEW 不動産市場で光るプレーヤー>>
大規模修繕の見積もり支援から工事保証まで無料で実施
マンションやビル、工場などの建物の大規模修繕は、多額の費用がかかる。しかし、適正な工事金額がわかりにくい。そんなオーナーの悩みを解消するサービスが登場した。専門家が伴走しながら見積もりから契約締結、工事中の品質チェックまでを無料で行う「スマート修繕」だ。スマート修繕(東京都港区)の豊田賢治郎社長は自身の苦い体験をきっかけに同サービスをつくった。
スマート修繕(東京都港区)
豊田賢治郎社長

オーナーの依頼は前年の3倍
大規模修繕は頻繁に行う工事ではないだけに、見積もりを見てもその内容が妥当であるか否かの判断をするのは専門知識がないと難しい。
スマート修繕は、マンションやビルなどの共用部の工事をする際に、工事会社探し、複数社からの見積もり取得、比較・選定、契約をコンサルタントがサポートするサービスだ。エリアは全国が対象で、大規模修繕からエレベーターや給排水設備などの工事まで、さまざまな共用部工事に対応する。
2022年に設立した同社はこれまでで2000件を超える見積もりを取得。見積もり依頼は分譲マンションの管理組合からが全体の6〜7割を占める。25年に入って増えているのがマンションやビルのオーナーからの依頼だ。全体の2割ほどで、依頼数は前年の3倍以上に増加した。
既存見積もりよりも安くなる案件が95%以上の確率という実績。実際に、80戸の物件のインターホンとオートロックの取り換え工事において、1000万円以上のコスト削減を実現した例もあるという。
コンサルタントが伴走
「当社の強みは見積もりデータベースによる査定と、専門家であるコンサルタントが伴走して工事を進めることです。それにより適正かつリーズナブルな工事を実現できます」と豊田社長は話す。
同社では過去に取得した大量の見積書を各工事種別の明細レベルで登録し、データベースを構築。このデータベースを活用し、各見積書を単価レベルで査定し、適正価格を算出する。
各工事会社の見積書を、担当コンサルタントだけでなく、専門のチームが分析する。見積もり間違いの是正処置や前提条件の統一、工事内容の差分や金額の比較分析レポートを作成し、提出する。そのうえで担当コンサルタントが依頼者に説明、質疑応答、再見積もりの条件確認と手配を行うのだ。
見積もりを取る工事会社の選定は、同社が事前に審査した登録事業者の中から行う。豊田社長は「提案内容や金額面において登録事業者内での公正な競争を促しています。また定期的に登録事業者への指導や見直しを行うことで、さらなるサービス品質の向上につなげています」と話す。
大規模修繕については、工事の品質チェックまで同社が行う。専門コンサルタントが工事中に複数回にわたり工事の仕上がりの品質チェックを実施する。改善事項がある際は、工事会社に指導もする。同社が紹介した工事会社が工事期間中に倒産、民事再生などにより、工事完成が困難となってしまった場合、契約済みの工事内容および予算で工事を完成できるように保証する。
こうした一連のサポートを同社の社員であるコンサルタントが伴走しながら行っていくのが特長だといえる。なお同サービスの利用料は無料だ。一方、工事を受注した工事会社にはマーケティング費が発生する。
サービスは自身の体験から誕生
スマート修繕の設立前、豊田社長は、同社の親会社でゲームをはじめとするインターネット事業を幅広く手がけるディー・エヌ・エー(東京都渋谷区)に在籍していた。その時に自身がマンション管理組合の理事長を務めた経験から、工事会社が出す見積もり内容がわかりにくい状況を課題だと感じたという。「私が自宅マンションの管理組合の理事長をしている時に、管理会社から情報の非対称性を逆手に取ったような、要するに金額的に不明瞭な提案をされました。代替案を探してもなかなか難しくて、憤りを覚えたのです」と豊田社長は当時を振り返る。
もともと起業に興味がなかった豊田社長だったが、会社の新規事業関連のアンケートに回答したところ、創業支援チームからオファーを受け分譲マンションの共用部工事についてリサーチを開始することになった。
2年間にわたるリサーチの結果、ニーズがあることを把握し、社内ベンチャーの仕組みを活用してスマート修繕を設立した。

ニッチなビジネスで成長を目指す場合、事業者ネットワークやコンサルティングプロセス、チームの構築のほか、やはり資金の確保が課題だろう。同サービスは成果報酬型のため、話が途中まで進んでいても、依頼者が同社が紹介した工事会社と契約するまでは売り上げにならない。この資金の確保という点でいえば、ディー・エヌ・エーの社内ベンチャーであることがアドバンテージになっている。
現在は東京本社のほかに、宮城県、愛知県、兵庫県、福岡県に拠点を置く。
「1棟オーナー様の需要はまだまだあります。問題は人員的に対応しきれるかです…」と話す豊田社長。今後はマンション管理組合以外の建物へのサービス提供にも注力していく。
(2025年 10月号掲載)