<<地主の歩み>>
地主家系の長女として父からの資産を相続した中村美雪オーナー(埼玉県草加市)。古い建物の活用に頭を悩ませたこともあったが、試行錯誤を通じた出会いによって、まちづくりに関わるようになった。
中村美雪オーナー(埼玉県草加市)

若者との出会いで変化した
受け継いだ建物との向き合い方
中村家は埼玉県草加市新田地区で続く農家系地主の家系だ。中村オーナーは、三姉妹の長女として土地と建物を引き継いだ。
現在、2棟のアパートと3棟14戸のファミリー向けマンションのほか、コインランドリー2店舗とトランクルーム、私設図書館として活用されている倉庫を経営している。所有物件のうち1棟と一部の空室をつなぐば家守舎(同)に貸し出し、シェアオフィスや私設図書館として活用している。
- 所有するマンションの1つ
- 1階のコインランドリーも中村家が運営している
江戸時代から続く地主の家系 父は市議会議員としても活動
中村家の歴史は、過去帳では承応までさかのぼることができる。以前は一帯の農地を広く所有していたが、父の代までに相続によって少しずつ減少していった。中村オーナーの幼少期には兼業農家だったが、平成初期に相続対策として一気に賃貸住宅を建設した。
「自分で引き継ぐまでは、実家の賃貸経営についてそこまで興味がなかったのです。家賃の受け取りを手伝ったことがあるくらいでした」と話す中村オーナー。
コインランドリーやトランクルームは父の代に始めたもので、中村オーナーは父について「今思えば先見の明があった」と話す。
父は1936年に生まれ、地域の子ども会や少年野球チームの創設に関わった。60歳で市議会議員になり、それまでも地域の顔役として市役所との交渉を引き受けることがある人物だったという。中村オーナーは「地主として地域に貢献していた人でしたが、子どもの頃は『お父さんは家族より他人のことばかりやっているな』と焼きもちを焼いたものです」と振り返る。
相続後の経営に悩んだ時期 古いアパートに価値を見出す
9年前に父が死去。三姉妹の長女として経営を引き継いだ中村オーナーは、老朽化が進みつつあった物件の、それまで知らなかった問題を知ることになった。壁に穴が開いたまま貸している物件や、2年間の家賃滞納が発覚したこともあった。相続後3年ほど経つと外壁塗装が必要な建物が出てきた。同時期に貸し出し中の一室で雨漏りが発生。雨漏り被害には保険が下りず、20万円ほどの持ち出しがあった。
また仲介会社に「客付けのために必要だ」と言われ、3DKの部屋で5万円まで家賃を下げられた。現在では設備を入れ替え、駐車場代を別にして、6万円程度で賃貸している部屋だ。
家賃の減額や退去が続いたが自主管理ゆえに相談先がなく、孤独感が募っていったという。
- シェアアトリエつなぐばの看板と目の前に立つ3本の木
そんな中で、築40年ほどの老朽化が進んだ軽量鉄骨アパートについて、草加市役所の職員に「どうにかできないだろうか」と相談したことで転機が訪れた。この建物は社員寮として貸し出していた過去があり、接道が狭く売却にも苦労することが予想されていた。
だが、同市役所の産業振興課が主催するリノベーションスクールの講演会に参加し「古い物件にも価値を見いだせる」ということを学び、職員への相談に至ったという。市役所からの紹介により、つなぐば家守舎の小嶋直代表、松村美乃里氏たちと知り合った。
「問題の物件の目の前が公園で、三本の木が見えるのです。それがつなぐば家守舎のロゴにある3本の木と同じで『運命を感じる』と言ってくれました」(中村オーナー)
その後「子連れで働けるしシェアアトリエ」というプレゼンを受けて正式に事業を応援することに決め、アパート1棟を貸し出した。設備に関して中村オーナーの持ち出しはなく、その代わりに少し安く貸し出すことにしたのだ。
現在、このアパートは1階がキッチン付きのシェアアトリエ、2階に美容室や設計事務所が入居し、親子が遊べるスペースもある。
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シェアアトリエ前のマルシェの様子
(2025年10月号掲載)
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