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アメリカ不動産で資産のスピード拡大 「セラーズファイナンス」で資金調達
小嶋啓一オーナーは、国内外で不動産投資を展開する投資家だ。国内では戸建て賃貸と鉄筋コンクリート造(以下RC造)マンションを合わせておよそ20戸を保有し、海外ではアメリカに2棟の戸建てを持つ。
「国内では安定収入を確保し、アメリカでは資産を増やす目的で投資をしています。両方にそれぞれの意味があります」(小嶋オーナー)
その言葉の背景には、失敗と挑戦を繰り返しながら築いた17年の軌跡がある。
小嶋啓一オーナー(さいたま市)

アメリカの「資産で生きる人」
小嶋オーナーが不動産投資に興味を持ったのは、2000年ごろ、20代の頃までさかのぼる。そのころ、経営学修士号(MBA)取得のため渡米したことがきっかけだったという。
「現地でゼネラルモーターズ(GM)元エグゼクティブの井沢敬氏に会ったことは大きな転機でした。彼は50歳ほどで早期退職し、合気道を教えながらアメリカで暮らしていたんです。驚いたのは、その生活の基盤が『家賃収入』だったことでした」(小嶋オーナー)
井沢氏の、家賃収入で自由に生きる姿を見て、いつか自分もこうなりたいと思ったと小嶋オーナーはいう。
利回りの罠を越えて
留学を機に抱いた不動産投資への思いを胸に帰国し、最初は国内で経験を積んだ。小嶋オーナーが最初に投資物件を購入したのは07年。会社員として働きながら、埼玉県熊谷市にある16戸の中古木造アパートを利回り16%で購入。金融機関のプロジェクトローンによって、建物の資産価値以上の金額の融資を活用して取得した。
「数字に引かれたんです。表面利回りが高かったので、これはいけると思いました。また、当時尊敬していたオーナーのお勧めということもあって買いました」(小嶋オーナー)
しかし現実は厳しかった。金融機関からの建物評価額が低く、融資残高とのバランスが崩れて帳簿上債務超過に陥った。
「結局、資産性を見ずに『利回りの数字だけ』で判断していました。これは投資ではなく投機だったと思いました」(小嶋オーナー)
その失敗を経た後、今度はさいたま市に3戸のメゾネット型アパートを購入。その後、12年にはさいたま市の実家の土地を活用し、戸建賃貸を3戸新築した。メゾネット型アパートは資産性・収益性共に優れていたが、入退去時の原状回復コストなどのリスクを懸念し、13年を迎えるころには戸建て賃貸3戸以外を売却した。「国内はキャッシュフローは出るけれど、資産としてみると増えにくいのです。そこに限界を感じました」と小嶋オーナーは語る。
正直なアメリカ不動産
そして13年、リーマン・ショック後のアメリカ不動産の価格下落局面を機に、アメリカ不動産投資をスタートさせた。
「賃貸物件について、日本は情報の透明性が弱い。一方、アメリカは合理的で、うそがつけない市場です」と語る小嶋オーナー。アメリカ不動産市場に引かれた理由は、透明性と成長性だったという。
アメリカは人口が増え続け、住宅需要が安定している。さらに築年数が古くても価値が上がる文化が根付いている。
「築100年の家でも評価が付く。日本の『耐用年数切れ=資産価値無し』という考えとは真逆でした」(小嶋オーナー)
加えて、アメリカではRedfin(レッドフィン)などのインターネットサービスを使うことで、不動産の取引履歴が誰でも確認できる。「価値をごまかせない透明性」が日本の不動産市場との違いだという。
セラーズファイナンスを活用
ここで、アメリカ不動産を購入する際の資金調達の方法として小嶋オーナーが活用したスキームに、「セラーズファイナンス」という仕組みがある。売主が銀行の代わりに融資を行う、アメリカ特有の仕組みだ。買主は売主とローン契約を結び、直接返済していく。モノ(不動産)を先に受け取り、代金を後々支払っていくことから、買主からすると分割購入に近いイメージだという。
「19万ドル(約2800万円)の物件を頭金4万ドル、残り15万ドル(約2200万円)を売主から借りる形で購入しました。その後の支払いについては単純に分割して払う形ではなく、5年間は金利6%のみの支払いとし、元本は据え置きで設定。そして5年後に同物件をほかに売却して残金15万ドルを支払う約束でセラーズファイナンスを組みました」(小嶋オーナー)
残金を支払うタイミングに合わせ、小嶋オーナーは同物件を32万5000ドル(約4900万円)で売却することに成功。金利については賃料収入から充分賄えていたため、頭金4万ドルのみで5年後には約17万5000ドル(約2600万円)の利益を手にした。家賃収入が少なくても、資産価値の上昇によってリターンを得るという考え方がアメリカでは可能となる。「家を買うことがゴールではなく、価値を育てることが目的です」と小嶋オーナーは話す。
▲セラーズファイナンスなどを利用し購入したアメリカ不動産
ほかにも、アメリカでは資産価値が上がればその上昇分を担保に再融資が受けられるのも特徴だ。そして、その資金で次の物件を買えば、資産形成スピードが一気に加速すると小嶋オーナーは言う。アメリカはキャッシュフローよりも、資産全体の成長スピードを重視する市場としてうってつけだった。
実際に小嶋オーナーはこれらの手法を用いて13〜18年にかけて6棟を購入。2倍以上の価格上昇を実現した物件も複数あるという。
「約2000万円で買った物件が5年後に資産価値の上昇に伴い約4000万円で売れました。これがアメリカ市場の面白さです」(小嶋オーナー)
国内市場への回帰
このままアメリカ市場で投資を続けるかと思いきや、小嶋オーナーは改めて日本国内に目を向けた。
「アメリカはリターンが大きいけれど、為替や金利などの不確実性もある。また、市況や制度も変わっていく。だからこそ、国内の安定した賃貸経営も欠かせません」(小嶋オーナー)
19年ごろから国内での賃貸経営も再開。さいたま市で戸建2棟、茨城県日立市でも戸建てを2棟取得した。また、25年には東京都足立区に12戸のRC造マンションも新築した。
「国内では安定してキャッシュフローを確保し、海外では資産価値の増加を狙っていく。この両輪で考えています」(小嶋オーナー)

▲25年に新築した東京都足立区のマンション
(2025年12月号掲載)









