不動産再生学講座:行政の中にいる立場からゼロ予算で不動産活用に挑戦

賃貸経営不動産再生

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組織の中から動かす不動産再生
『大組織の中から、新たな不動産再生のしくみを創りだすひとたち』

不動産業界において大きな変化が起こりつつある。そうした中、「不動産オーナー井戸端ミーティング」を主宰する𠮷原勝己オーナー(福岡市)が中心となり、貸し手と借り手、そして地域にとって「三方よし」となる、持続的でブランディングされた不動産経営を目指す勉強会を有志で開催している。

当連載では、建築・デザインを学ぶ学生たちと、全国から集まったプロフェッショナルが一緒に受講する場として、九州産業大学建築都市工学部において行った全14回の「不動産再生学」と題した寄附講座を紹介。今回は、行政の中から、ゼロ予算で不動産活用に挑戦する長崎県土木部住宅課の牧田悠依氏の講演をレポートする。

長崎県土木部住宅課 主任技師
牧田 悠依氏(長崎県長崎市)

小さく、楽しく始める! 不動産活用の試み

私は長崎県庁の建築職として、主に空き家対策や住宅施策に携わっています。予算がない中でも、行政という大きな組織の中でいかにクリエイティブに不動産を再生していくか、私たちが長崎で挑戦してきた事例をお話ししたいと思います。
なぜ私が不動産や建築の世界に興味を持ったかというと、少し特殊な経緯があります。高校時代にアメリカへ留学した際、ホストファザーがDIY(日曜大工)を大変好む人で、彼が家を常に改修しているのを見て過ごしました。私が滞在した10カ月の間にも、バスルームの改修や窓を出窓へ変更など、さまざまなDIYが行われていました。

そのホストファミリーの家は築80年ほどのレンガ造りでしたが、DIYや定期的なメンテナンスによって資産価値を維持しており、当時、中古住宅でも3000万円から4000万円で取引されていました。日本では築20年ほどで固定資産税評価上の価値がなくなってしまうことが多いのに、なぜアメリカでは古い家でも資産価値が保たれるのだろうか、と疑問を持ったのが、私の建築・不動産への興味の原点です。

大学では、理系が苦手ながらも建築学科に進みましたが、有名建築家の作品よりも、自然発生的な集落や市場に惹かれていました。卒業後、長崎県庁に入庁したものの、当初は「予算がないと何もできない」と痛感しました。特に、高度経済成長期に有効だった市街地再開発事業のような大規模な手法には限界を感じていました。

長崎県の深刻な課題と空き家バンクの限界

長崎県は、離島や半島が多いという地理的特性から、空き家率が2023年調査で17.3%と、全国平均(13.8%)を大きく上回る深刻な状況にありました。

こうした状況の中、空き家対策として市町村が導入しているのが「空き家バンク」です。これは市場に出ていない空き家情報を公開し、移住希望者を募集する仕組みですが、多くの課題を抱えています。

まず、移住希望者のニーズに合わないという点です。離島半島部では賃貸物件自体が少なく、空き家バンクに登録されているのは、リフォームが必要な古い物件ばかりで、選択肢が非常に少ないのが現状でした。また、移住者は知らない土地で工事業者を探し、リフォーム費用を負担しなければならない、という手間と時間がかかります。

一方で、空き家所有者の負担も大きいです。誰に貸すか不明なため、家財道具が残っていたり、リフォーム費用がかかったり、手続きが煩雑であることから「どうせなら放っておこう」となり、なかなか物件登録が進まないのです。

空き家活用団体と公的ストック

この課題を解決するため、長崎県ではいくつかの施策を試みてきました。

一つ目は、空き家活用団体によるサブリース方式でのマッチング。移住希望者と空き家所有者の間に立ち、双方の課題を解決する「空き家活用団体」の設立を支援しました。

この団体は、移住者の住まいのリクエストを聞き(ニーズの把握)、所有者から承諾を得た空き家をまず団体が借り上げます。そして団体がリフォーム(DIYも可)を行い、その後、移住者に転貸するサブリース方式を採用しました。これにより、所有者は追加負担なく物件を登録でき、借り手も事前に決まるため安心できます。

先行する事例として、五島市(NPO法人五島空き家マッチング研究所)と雲仙市(雲仙市まちづくり株式会社)の活動は目覚ましい成果を上げています。これらの団体は、市からの空き家バンクの業務委託を受けたり、カフェ併設の相談所を運営したりすることで、地域に根差した活動を展開。空き家バンクの登録数・成約数を県内平均に比べて大幅に伸ばしています。

二つ目は、公共空きストックの活用。団体が民間空き家を整備するのは時間がかかります。そこで次に目をつけたのが、県が保有する古い空き職員住宅でした。

「ナガサキReborn(リボーン)ハウスプロジェクト」では、長年空き家となっている老朽化した県職員住宅を、団体が費用を負担してリノベーションを実施し、移住者や子育て世帯などの住環境確保に活用するという「ゼロ予算」での取り組みを始めました。県としては、この住宅を高齢者など住宅確保要配慮者の入居を拒まない「セーフティネット住宅」としても登録し、公共性を担保しました。

雲仙市や五島市では、このプロジェクトにより、築年数の経った木造やRC造の住宅がおしゃれにリノベーションされ、比較的安価な家賃(4~5万円程度)で貸し出されており、入居状況は良好です。

さらに24年度からは、改正された空家法に基づき、市町が指定する「空家等管理活用支援法人」と連携する事業を始めました。これはこれまでの住宅利用だけでなく、空き家を店舗、宿泊施設、飲食店といった非住宅としての活用や売却、解体、跡地活用まで含めて、運営費や改修費を行政が支援するものです。これにより、空き家対策をより多角的に、採算性の低い分野にも踏み込んで推進できると考えています。

旧県営魚の町団地活用プロジェクト

私が現在力を入れて取り組んでいるのが、長崎市魚の町にある旧県営魚の町団地活用プロジェクトです。これは戦後最古級の現存するRC造の公営住宅で、築75年を超えています。

ここでも県は「ゼロ予算」を前提としましたが、難易度が高かったのは、有償貸付け(年間200万円程度を県に支払う)である点と、賃貸借期間満了時の原状回復義務を不要とする点でした。

このプロジェクトは行政だけで計画を立てたのではなく、20年から市民団体や大学、県が協力して立ち上げた「長崎ビンテージビルヂング」という活動からスタートしました。

活動コンセプトは、「無理なく楽しく!」です。保存か解体かの二極論ではなく、ビンテージな建物を愛で、リノベーションして活用したり、あるいは「建物の幸せな終わり方」を考えたりすることを目指しました。

私たちは、まず建物見学会やワークショップ(ペンキ塗り、びわの収穫など)を地道に実施し、その建物の存在を地域に周知しました。

行政には、公平性・透明性の確保、前年度からの予算準備、そして担当者の異動(通常2~3年)といった「スピード感のなさ」を生む特有の事情があります。計画を立てて予算化するのを待っていたら、何年もかかってしまいます。

しかし、市民参加型の活動を積み重ねた結果、建物見学会の反響を見た県議会の方から「有効活用しないのか」という質問をいただきました。これにより、行政は市民の意見に対応するという形で、耐震診断やサウンディング調査(市場調査)といった次のステップを踏むことができました。

このように、計画を立てるのではなく、身近でできる小さなことの積み上げを行う「スモールスタート」方式で、公共の視点(ゼロ予算で何とかしたい)と民間の視点(公益性のある事業をやりたい)をすり合わせ、実現へと向かっていったのです。

行政は不動産オーナーへ

人口が減少する社会において、行政側もこれまでの「行政財産」(公用・公共用に供する財産)の管理だけでなく、用途を終えた「普通財産」(行政財産以外の一切の公有財産) を、いかに活用するかという「不動産オーナー」としての視点を持ち始めています。

これまでは、普通財産となった建物はほかの部署での利用がなければ解体して売却するしかありませんでした。しかし、今後はこの普通財産を民間の人に「公益的な用途」で使ってもらう方法が重要になります。

私たちが取り組んできた魚の町団地プロジェクトは、もし成功すれば、全国の行政が所有する動かせない空き物件を再生するための初のモデルケースとなり得る、非常に重要な挑戦です。

行政の仕事は、一見、決められたことを淡々とこなす「お役所仕事」に見えるかもしれません。しかし、現在の空き家対策や街づくりの分野では、民間ノウハウをもって事業性を確立し、地域の課題解決やイノベーションを求めるといった、非常に面白い局面に立っています。

公務員であっても、自分の熱意と小さな行動の積み重ねによって、周りの理解を得て、大きな組織を動かし、地域の未来を変えることができるのです。

魚の町団地は現在改修工事が進んでおり、壁に大きな穴が開けられるなど、大胆なリノベーションが行われています。入居希望者が内装工事にDIYで関わり、原状回復不要とすることで、かつて私がアメリカで見たような、住む人が手をかけて資産価値を生み出すという循環が、長崎の公共ストックでも生まれることを期待しています。1月末のオープンをぜひ楽しみにしていてください。

(2025年11月公開)

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