エリア集中で「北千住のドナルド・トランプ」を目指す

賃貸経営不動産投資

<<ビルオーナー物語>>

「北千住のドナルド・トランプ」を目指す
エリア集中でビル30棟所有が目標

東武鉄道伊勢崎線北千住駅近くで不動産事業を営む小寺拓央オーナー(東京都足立区)は、同エリアを中心にビルや賃貸住宅16棟を所有する。2001年に父親の勧めでビルを購入したことが不動産の世界へ足を踏み入れたきっかけだったという。その後も積極的に物件の売買を行い、24年間で地元では有数の不動産オーナーになった。小寺オーナーは「今後もさらに北千住で集中的に不動産を増やし『北千住のドナルド・トランプ』を目指す」と話す。

小寺拓央オーナー (東京都足立区)

 小寺オーナーが代表を務める小寺グループ(同)は、不動産事業を柱に、宅建業、教育事業、そして外食フランチャイズチェーン(FC)などを展開している。現在の所有物件は一部個人名義も含めて16棟だが、事業開始以来これまで24年間に30棟以上の物件を購入し、20棟の売却を経験してきた。

 売買の差額で増えた現金を元手に所有物件を増やし、今では地元北千住の有力不動産オーナーとして知られる存在になっている。だが、元々は不動産事業とは全く無関係の仕事をしていた。

 大学卒業後英語講師として働いていた小寺オーナーが不動産賃貸事業に関わるようになったきっかけは、01 年に現在本社がある北千住のビルを購入したことだった。

 当時まだ28歳でビルオーナーになるには早い年齢だったが、その背景には、父からの強い勧めがあったという。

ビル購入を後押しした父

 当時、結婚目前だった小寺オーナー夫婦は、結婚後、父の所有する埼玉県三郷市のマンションで、管理を引き受けながら暮らす予定だった。しかし、ちょうど売りに出ていた現在の「小寺ビル」を父が見つけたことで、父からの資金援助を受けてビルを購入し、最上階の5階に住むことを決めた。

 小寺オーナーの父親は、その父である祖父が早くに亡くなったため、20代から一家の家計を支えてきた。家業の米穀店を継いだものの、1995年からのコメの取引自由化の波に翻ほん弄ろうされ、大変な苦労をしながら、資産を不動産で増やしていったという。それだけに、息子の小寺オーナーにも若いうちから不動産経営の経験を積ませたかったようだ。

 「父は昔から『住宅ローンなんて組むやつは破門だ。不動産を買うなら収益物件を買って、オーナーズルームに住みなさい』と言っていましたから、子どもが若いうちに不動産を買って資産を得ることにはとても協力的でしたね」(小寺オーナー)

 購入時のビルの価格は1億円。購入にあたって、銀行ローン7000万円分を除いた3000万円を父が貸してくれた。こうして、小寺オーナーは不動産賃貸事業の経験ゼロのまま、ビルオーナーとなったのだ。

 

反発を受けつつもビルを経営

 だが、結婚生活と共に始まった小寺オーナーのビル経営は、決して順風満帆とはいえなかった。

 当時、5階建てのビルには夫婦の居住部分を除いた4フロアすべてにテナントが入居していた。ビルの名前を変えて最上階に住み始めた若いオーナー夫婦に対し、長年このビルでテナントを営業してきたベテラン経営者たちの態度はなぜか冷たかったという。ビルオーナーと呼ぶには若すぎる新オーナーに対して反感を持ったのか、オーナー抜きの経営者会議が開かれ、共益費の使い道に関する質問状が自宅ポストに押し込まれていたこともあったほどだ。

 やがて、2階のテナントが突然退去してしまった。小寺オーナーは「泥棒が入ったと言われましたが、あれも嫌がらせの狂言だったのではないかと思っています」と話す。

 当時、私立校で英語を教えていた小寺オーナーだったが、2階の退去を機に学校を辞め、その空いたテナントで自ら英語専門塾の経営を始めた。

 幸い塾の経営は順調だったが、5~6年が経過した頃、また事業について考えることになった。子どもが成長してきて、塾の講師という夜型の仕事に限界を感じ始めたのだ。

 そんな時、たまたま小寺ビル1階のテナントが退去し、そこに大手不動産会社の入居申し込みがあったことで、自分の物件が立地的に不動産会社の店舗に適した場所にあることに気付いた。

結局その契約は成立しなかったが「この場所に自分たちで不動産会社を設立しよう」と考えるきっかけになったという。

センチュリー21との出合い

 2006年に小寺オーナー、07年に妻の百恵氏が宅地建物取引士(宅建士)資格を取得。百恵氏が試験会場でもらってきたセンチュリー21・ジャパン(東京都港区)のFC募集チラシが現在の不動産会社ハーベスター地所(東京都足立区)設立の大きな後押しとなった。

 「若い頃にアメリカへ留学し、現地の不動産会社の様子も何度か目にしました。そのため、不動産事業というと、アメリカ式の、女性が生き生きと活躍する業界というイメージがあったのです。それだけに、女性のスタッフがベージュのジャケットを着てビシッと決めたセンチュリー21のチラシのビジュアルは、私の不動産会社に対するイメージにぴったりでした」(小寺オーナー)

▲小寺オーナーのデスクにはトランプ氏の人形が置かれている

リーマン・ショック当日に開業

 加盟を決めた小寺オーナーは、イメージどおり百恵氏を社長としてセンチュリー21加盟店、ハーベスター地所をオープンした。

 08年9月15日、小寺ビル1階で開業した。当日、小寺オーナー夫婦の元には何通もの祝電が届いた。そこには「この波乱の時代と共に始まる門出に」という一文があったという。その日はまさに、後に歴史に名を残す大不況の幕開けである米国の大手投資銀行、リーマン・ブラザーズが倒産した当日だったからだ。

 「今思うと本当にとんでもない日に開業したものです」と振り返る小寺オーナー。不動産価格が雪崩を打つように暴落する中、売買仲介の対象を収益不動産に絞り、銀行との関係醸成によって融資条件を聞き出し融資が下りる属性の客へ売り込むなど、工夫して難局を乗り切った。

 「『自分はリーマン・ショックの申し子だ』と割り切って、あの時代に合わせた経営を行いました。不動産価格が下がったタイミングを逃さず、自らも積極的に物件の購入に踏み切ったのです。ピークには75億円までの借り入れを行い、都内で30棟まで所有物件を拡大させました」(小寺オーナー)

 こうして大きく資産を増やした小寺オーナーの不動産事業は10年目の2019年、新たな契機を迎えた。師と慕っていた人物から「幸せの基準が物の豊かさだった時代はもうとっくに終わっている」と諭されたのだ。

 「それを聞いて感銘を受けた私は、所有するすべての不動産を売却しようとしました。『そりゃあおまえ、極端だよ』と笑われて、間を取って半数を売却することに決めたのです」(小寺オーナー)

 この判断が、結果的に20年からの新型コロナウイルス感染症による打撃を回避することにつながった。そして、不動産の半数を整理したことに加えて、コロナの流行を契機としてそれまでの投資方法を改めて見直すことになる。都内各所の不動産を整理し、北千住に資産を集中させることに決めたのだ。

▲新築ビルでの竣工式に参加する小寺オーナー(中央)と百恵氏(右)

北千住の不動産王を目指す

 現在、小寺グループ全体で所有する物件は個人名義のものを含めて16棟。そのうち北千住エリアに所有している物件が10棟となる。土地勘があり、情報も得やすい地元エリアを中心に展開させてきた結果だ。ここからさらに拡大を図り、北千住エリアだけで30棟のビルを所有することが小寺オーナーの目標だという。

 大手の不動産会社では、30棟を一つのエリアに集中して所有することはリスクヘッジの観点からやりたがらない。逆に、地域の地主も地元のしがらみがあり、資産を拡大させることは難しい。そこで、しがらみがなく、地場の不動産会社やビルオーナーとして得た情報と信頼を活用できる自分なら、エリアの不動産王になれると考えた。

 「私の目標は、ずばり『北千住のドナルド・トランプ』になることです。ほかの不動産関係者に『北千住といえば小寺』と認識してもらえれば、物件情報はどんどん入ってくるようになりますからね。トランプ氏はえげつないこともしている人物ですが、不動産を取り扱っていると彼の人生から学べることがたくさんあります。初めて人から『北千住のトランプ』と言われたときは『やめてくださいよ』などと言っていました。しかし今では、仕事机の上に彼の人形を置いて『こうなるぞ』と自分に言い聞かせながら働いていますよ」(小寺オーナー)

 現在は新築テナントビルを中心に展開している。北千住エリアの新築は需要が高く場所が良ければ坪4万円でも貸し出せるため、中古の物件やほかのエリアでの購入に比べて利益が出るという。

 「宅建業者としても営業していますから、北千住エリアの情報はほかのビルオーナーより敏感に察知することが可能です。逆にいえば、レジデンスはともかく、ほかのエリアでビルを取得するのは怖くてできませんね。情報が手に入る強みを生かします。長期の融資を受けられる物件を購入し、高く売れるものは売りながら、『北千住に30棟』の目標を達成していきたいです」(小寺オーナー)

100点満点にこだわらない物件

 小寺オーナーはこれまで24 年間で20 棟以上の物件の売却を経験している。現在も借地権付き物件2 棟と、サブリース中の物件1 棟を売り出し中だ。保有を前提に30 年先を見越して購入、融資を受けるが、5年から10 年で売却することがほとんどだという。

 保有中の賃料収入と売却益により、手元に現金を残す。その売却で得た資金を次の物件購入費用に充てている。売却のこつについて小寺オーナーは「気に入っている物件から売り出すこと」を挙げる。自分が気に入っている物件ほど、買い手の目にも魅力的に映り、いい条件で売却できるからだ。

 「不動産はお金を稼いでくれる働き手だと思って、愛着を持ち過ぎないことが大切です。かわいい子から優先して売りに出せば、高くてもその値段で買いたいという人が必ず現れます」(小寺オーナー)

 実際、東京都墨田区で周辺相場よりかなり高く売り出していたレジデンスが、民泊経営目的の投資家のオーナーに言い値で売れたことがある。

 また売却と同時に新しい物件の購入を行い、借入先の銀行に不利益が出ないよう取り計らってもいるという。購入時には、物件の立地が良ければ利回りが5 〜6% でも購入する。

 100 点満点の物件を探すのではなく、立地や利回り、外観など、80 点を満たす物件を見つけたら購入する方針だ。

(2026年1月号掲載)

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