入居者の理想の部屋を実現 -人と不動産

賃貸経営空室対策

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投資リスク抑えながら、入居者の理想の部屋を実現

入居者自身が賃貸住宅の改装プロジェクトに参加する。人と不動産(大阪市)が手がける「自分好み賃貸」は、そんなユニークな事業モデルでオーナーと入居者の思いをマッチングしている。

人と不動産(大阪市)
小上馬大作CEO

「自分仕様の住まい」提供 5~6年目処に施工費回収

 「築古で和室があり、設備も古いが、すべてを刷新する勇気がオーナーは持てない。一方で、理想の部屋を見つけられない入居者がいる。それぞれの問題を解決できれば、ちょっとした市場が生まれるのではないか」。自分好み賃貸は、小上馬大作CEOのこのような考えから生まれたアイデアだ。

 オーナーが大きな投資に踏み出せないのは、改装しても入居者が決まるという確約がないから。自分好み賃貸では、工事の前に入居者と賃貸借契約を結ぶことで投資リスクを抑える。

 改修までの流れは以下のとおりだ。まず、入居者に保証会社の審査を受けてもらった後、オーナー、設計士、入居者を含めた 者で打ち合わせを行う。ここで間取りや内装デザインを決める。平面図のイメージができたら設計委託契約を締結し、詳細平面図や電気配線図など工事に必要な図面を作成していく。この段階で 10万円の設計費用が発生するが、賃貸借契約締結時に初期費用から差し引かれる。

▲改装前の打ちあわせ風景

 詳細図面を基に壁紙や床材、塗装色などを具体的に決めていき、問題なければ正式に工事を発注。その後、賃貸借契約を締結する。2~3カ月の工事期間を経て竣工、引き渡しという流れだ。入居者からはすぐに入居できない点が敬遠されそうだが、「すぐにでも引っ越したいわけではなく、気分を変えたい、今よりも少しいい部屋に住んでみたい」という人は多いため、大きなデメリットにはなっていないという。

 運用にあたり、いくつかのルールを定めている。奇抜なデザインや特殊な間取りは、次の入居者の募集時に影響するため受け付けない。配管の状況によっては浴室やキッチンが必ずしも希望の場所に設置できないことも事前に説明する。

 オーナーには、工事の予算として400万円程度を見込んでもらう。「今は工事費が上がっているので、回収まで5~6年かかることを伝えている。予算を超える内容については、賃料などの条件を見直すか、入居者負担にするか、諦めるか、いずれかの方向で話し合う」(小上馬CEO)

 2019年9月に大阪府豊中市にあるマンションで第1号案件を竣工。同一マンション内の空室で改装工事を20件以上手がけたほか、大阪市内のマンションや戸建てなど、25年9月までに24件の実績がある。兵庫県芦屋市では80㎡のファミリー向け物件の改修プロジェクトも進行中だ。

▲女性入居者の希望から、白色の天井塗装と無垢フローリングでカフェのような空間に仕上げた改修事例

物件に関わる人同士 顔が見える関係性大事に

 人と不動産の設立は2015年。売買・賃貸仲介や物件管理も行うが、主軸事業は空室対策の提案だ。アイデアの源泉になるのは、オーナーや入居者との会話。関わる人の個性や趣向をくみ取った物件づくりが、その場所に人を呼び寄せるとの考えからだ。

 本社から程近い大阪市中央区谷町六丁目は小上馬CEOの出生地でもあるが、父が兵庫県内に家を建てた関係で生後すぐに転居。高校卒業後はすぐに上京したことから、故郷の歴史には疎かった。

 戦前は米屋を営んでおり、同地周辺に数筆の土地を持っていた小上馬家。その管理や運営を父が引き継いできた。いずれはそれらの不動産や事業を自分が継ぐことを覚悟して08年に帰郷。物件の清掃などを手伝う中、不動産との関わりにおいて転機になったのが、築古長屋の再生を手がける任意団体「からほり倶楽部」との出合いだ。

 からほり倶楽部は、谷町にある空堀商店街周辺でまちづくりを行う非営利団体で、ネット上でその存在を知った。「『机上の空論』を振りかざすのではなく、長屋の再生と運営を実践していることに魅力を感じた」と活動に参加するようになった。3軒の長屋をシェアオフィスに改装して運営するなど、活動に携わる中で「まちや人が魅力的だから、そこに新たな人が集まる」ことを実感。単に物件情報を持っているだけではなく、関わる人同士の顔が見える関係を大事にしたいとの思いが、人と不動産の設立や自分好み賃貸の構想につながった。

唯一無二の体験を通じて そこにしかない価値つくる

 25年9月より新規事業として始めたのが、インバウンド(訪日外国人)を対象にした「わっぱ弁当作り」の体験提供だ。日本を訪れるのが2回目、3回目という外国人が増える中、そこでしかできない体験に価値があると考えた。

 ヒントになったのは、物件を仲介したすし屋が始めた「すし握り体験」。「大将が握るすしのほうがおいしいに決まっているが、自分で握る体験はそこでしかできないし、周りに自慢することもできる」(小上馬CEO)。折しも、運営するシェアスペースの稼働率が高まり、物件の傷みが目立つようになっていた。単価を上げて稼働率を落とそうと考える中で、これまでとは違うリターンが得られる場所にしようと思い、「日本のお母さんと作る唯一無二の弁当」の構想に至った。民泊プラットフォーム「Airbnb(エアビーアンドビー)」のほか、会社周辺のホテルへのチラシ配布で集客しながら、サービスを少しずつ広めていこうとしている。

▲シェアスペースでのわっぱ弁当作り体験

(2026年1月号掲載)

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