いざという時に頼れる味方が住宅環境を支える -メモリーズ

賃貸経営賃貸管理

<<不動産市場で光るプレーヤー>>

賃貸住宅は孤独死の発見が遅れがち
いざという時の味方が住宅環境を支える

 消臭を得意とする清掃事業者であるメモリーズ(堺市)。ごみ屋敷の清掃や、生活に困難を抱える人のための福祉整理、遺品整理、特殊清掃などを行っている。2008年に横尾将臣社長が立ち上げた会社で、現在18期目だ。「恐らく、私が孤独死の清掃対応数、日本一だと思います」と話す横尾社長は、社員数が37人にまで成長した今も現場に立つ。

メモリーズ(堺市)
横尾将臣社長

遺品整理事業の現在地

 24年の清掃数は、大阪本社と横浜支社の合計で約2000件、そのうち孤独死の現場は1割ほどだ。孤独死は分譲住宅でも賃貸住宅でも起こり得るが、1人暮らしが多い分、賃貸住宅のほうが発見が遅れがちで特殊清掃に至ることが多い傾向だという。

 事業を行ううえで横尾社長が大切にするのが、徹底的に顧客に寄り添うことだ。どんなに凄惨
せいさん
な現場でもプロとして心を込めるところに信頼を寄せる顧客は多い。

 例えば費用面では、清掃の後に不用品をリユースするノウハウを確立することで請求額を減らすようにしている。「そうすることで価格競争力が生まれますし、何よりお客さんの利益になります。不用品が思わぬ利益を上げた現場では、清掃費用を差し引いた売却益100万円弱をお支払いしたこともあるんですよ」(横尾社長)

 一件一件から得られる利益は少ないが、この18年間、数多くの現場を効率良く丁寧に仕上げることで利益を伸ばしてきた。

 清掃事業は人件費以外の販管費があまりかからないこともあり、営業利益率が高い傾向にある。同社もその例に漏れず理想的な経営状況だ。前期の売上高は約6億8000万円で、営業利益は約1億円。営業利益率は15%ほどの高い水準である。

 「これから今以上の高齢化社会を迎えますし、1人暮らしの人も増えていくでしょう。この市場が成長局面だというのは明らかなので、多くの事業者が参入してくると思います。その中でも顧客目線を失わずに生き残っていく必要があると考えています」(横尾社長)

祖母の遺品整理がきっかけ

 横尾社長がメモリーズを立ち上げたのは08年、38歳の時のことだった。それまでの経歴は実に異色である。

 20代の頃はオールディーズブームをけん引した「ケントス」というライブハウスでプロサックス奏者として生計を立てた。その後はリゾート会員権の営業を行う会社員として働いていたという。

 それまで全く無縁だった遺品整理。この業界を意識したきっかけは、33歳の時に祖母が入浴中に孤独死したことだった。「祖母の死後、遺品の整理をしたのは母でした。母は膠原こうげん病の持病があったので、葬儀だけでも大変な負担。体が動かない中行った遺品整理は本当に大変そうで…。遺品整理だけでも誰かが代わってあげられたらいいのにと感じました」と思い返す。

 だが同時に、遺品整理は家族の結束が強まる瞬間であることも実感した。「全国でばらばらに暮らしている兄弟姉妹が、思い出の品や写真を囲んで和気あいあいと話す。これがとてもいい光景でした。思い出に向き合うことはすてきだなと素直に心に響いたのです」(横尾社長)

 こうして「世の中に必要だ」と感じる業界と出合った横尾社長は、まずは社員として遺品整理事業を行う会社で働いた。もっと依頼者の満足度を高めたい、心に寄り添いたいとの理由で独立したのは、それから3年後のことだった。

遺品整理を行う横尾社長とメモリーズの社員たち

 事業の資金は100万円の貯金だけ。メンバーも会社員時代の盟友と事業のアドバイザーという小所帯だった。運転資金は心もとなかったが、現場に必要な品は段ボールが20~30個と袋、工具、レンタカー程度。利益率の高さと誠実な仕事により順調に業績は伸びていった。「この事業における品質は、誠実な考えと、作業する自分の手でつくり上げることができるものです」(横尾社長)

業界の未来に尽力する

 横尾社長には夢がある。それは、清掃業界の標準化だ。横尾社長は現状を嘆く。

 「残念なことに、相手の無知につけこんで法外な作業料を請求したり、例えば体液が染み込んでしまった部分に重曹をかぶせるだけといった適当な作業で終わらせたりという事業者はいまだに多くあります」(横尾社長)

 この現実に手をこまねいているのでなく、横尾社長は業界に対して積極的に働きかける考えだ。その一つが、同社が誇る消臭技術の伝承である。22年に「オドロック」という消臭フィルムを開発。24年には本来さび止めに使用していたプライマーを消臭用にアレンジし「シャダーン」として一般販売を開始した。特殊清掃で例を挙げれば、RC造の柱は、構造に関わる躯体なので、臭いが染み込んでしまっても取り換えることができない。だが、しっかりコーティングすることで、臭いを完全に消失させることができる。またシャダーンについてはフィルムを圧着した上から壁紙を貼ることも可能で、即効性・利便性共に高い。

シャダーンを塗付する様子。ペット、たばこ、カビなどの頑固な悪臭を遮断

 「この二つは手頃な金額で、当社スタッフのレクチャーにより家主や管理会社でも簡単に使えるものです。特殊清掃が必要な部屋に限らず、カビやペット臭にも有効なので広く使ってほしいと思います。高い消臭技術をスタンダードにすることで、日本の住環境を高めたいというのが願いです」(横尾社長)

 居住支援法人が行うことができるようになった遺品整理についても、基準が必要だと考えている。

 「改正住宅セーフティネット法では、都道府県の認可を受けた居住支援法人は残置物の処理ができるとされました。しかし、多くの居住支援法人には遺品整理のノウハウはないでしょう。国から十分なガイドラインも示されない中、制度だけができてしまうのは怖い。この状況を受け、私たちも業界のガイドライン化には力を入れていきたいと考えています」と横尾社長は話す。

 自身の事業が軌道に乗った今、考えるのは業界や国の未来だ。

(2026年2月号掲載)

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