<<【連載】教えて!弁護士さん 賃貸経営お悩み相談>>
賃貸経営に関する法律のポイントをQ&A形式で解説します。
Q. サブリース会社に委託している物件の家賃が上がらない。家主から賃料増額の交渉や契約解約はできる?
私はサブリース会社に所有するアパートを賃貸し、入居者を募集してもらっています。「サブリース会社が入居者を探したうえで賃料を保証するので、家主さんも安心!」というキャッチコピーに引かれてサブリース会社に間に入ってもらいました。ところが現在は、周辺の家賃相場はかなり高くなっているのに、私がサブリース会社からもらえる家賃は安いままの状況です。賃料を上げてもらうか、サブリース契約を私のほうから解約したいのですが、このようなことは可能でしょうか。

A. 値上げに応じてもらえない場合は裁判で争うことも 費用対効果を考えるとハードルが高い
多くの賃貸アパートでは、家主が入居者と賃貸借契約を直接締結していることが多いと思いますが、質問者のアパートは「家主⇆サブリース会社⇆入居者」のような関係になっています。このうち「家主⇆サブリース会社」は賃貸借契約、「サブリース会社⇆入居者」の部分は転貸借契約といいます。
入居者を探すのは家主ではなくサブリース会社の役割です。入居者が退去して転貸借契約が終了しても、家主とサブリース会社との間の賃貸借契約は終了せず、家主はサブリース会社から賃料を支払い続けてもらうことができます。家主としては、信用の置けるサブリース会社との契約であれば、家賃や原状回復費用の未払いといったリスクを抑えられるかもしれません。

一方で、賃貸借契約と転貸借契約は別々の契約なので、転貸借契約の家賃が上がれば自動的に賃貸借契約の家賃が上がるという関係にはありません。サブリース会社が賃借人であり続ける限り、家主がサブリース会社からもらえる家賃が安いまま据え置かれてしまう可能性があります。家賃の値上げに応じないサブリース会社も多いですし、賃料増額請求権(借地借家法32条)を行使して裁判で争うのも費用と労力がかかるでしょう。
またサブリース会社は建物の賃借人という立場になり、借地借家法で手厚い保護を受けます。その結果、サブリース会社からは賃貸借契約の更新拒絶や中途解約が簡単にできる一方で、家主からの更新拒絶や中途解約には正当事由(借地借家法26条)が必要となり、非常にハードルが高くなります。
サブリース会社が任意に応じてくれないのであれば、裁判で賃料増額や賃貸借契約書の違約金条項を踏まえたうえで正当事由を争うことになると考えられます。賃貸アパートを前提とする質問者の場合には、費用対効果の観点を踏まえると、裁判を起こしてまで要求することは難しい可能性が高いのではないでしょうか。この点は、サブリース会社に一括賃貸する際の注意点として押さえておきましょう。
私たちが答えます
TMI総合法律事務所(東京都港区)
- 野間敬和弁護士
- 辻村慶太弁護士
野間敬和弁護士:1995年、同志社大学大学院法学研究科修了。97年、弁護士登録。2003年、バージニア大学ロースクール修了。04年、ニューヨーク州弁護士資格取得。同年、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に出向。08 ~11年、筑波大学大学院ビジネス科学研究科講師、12年、証券・金融商品あっせん相談センターあっせん委員。11~14年、最高裁判所司法研修所民事弁護教官。
辻村慶太弁護士:2014年、一橋大学法科大学院修了、15年に弁護士登録。
(2025年10月号掲載)