賃貸経営お悩み相談:自力救済禁止の原則

コラム賃貸経営お悩み相談

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賃貸経営に関する法律のポイントをQ&A形式で解説します。

Q.音信不通の家賃滞納者と賃貸借契約を解除しました。 契約書のとおり「承諾なく残置物を処分」してもいい?

 私のアパートに住む入居者が家賃を長期滞納しています。先日、入居者に内容証明郵便を送付して賃貸借契約を解除しましたが、その後もアパートを明け渡してくれず、連絡もつきません。契約書には「契約が終了した場合には、賃貸人は、賃借人の承諾を得ることなく、物件に立ち入り、残置物を処分できる」と定められています。契約書に書いてあるので、これから部屋の残置物を撤去して入居者を退去させて、新規募集の準備をしたいと思いますが、問題ないですよね?

A.権利を自力で回復する「自力救済」は禁止 再度コンタクトを試みるか、保証人に連絡してみよう

 賃料不払いは賃借人の債務不履行として賃貸借契約の解除事由になります(民法541条)。そして賃貸借契約が解除された場合には、賃借人は原状回復義務を履行したうえで目的物である部屋を明け渡さなければなりません(民法621条)。悪いのは入居者であり、質問者が被害者であることは間違いなさそうです。

 しかし、だからといって、質問者が自らの力で被害の回復を図り、権利を実現させるようなことは許されません。これを「自力救済の禁止」といいます。自力救済を認めてしまうと、社会が無法状態になってしまうからです。また人の住居に無断で侵入してしまうと、住居侵入罪(刑法130条)に問われる可能性もあります。

 一方で、質問者の場合には、賃借人の承諾を得ずに物件に立ち入れる旨や残置物を処分できる旨が賃貸借契約に規定されています。そのため、質問者自らがアパートの部屋に立ち入って残置物を撤去してもいいように思われます。

 もっとも、契約書に書けばどんなことでも許されるということはなく、このような規定は、禁止されている自力救済を可能にするものとされ「公序良俗違反」(民法90条)として無効になると考えられます。

 そのため、質問者としては①引き続き入居者にコンタクトを試みて、任意に部屋を明け渡してもらう方法②保証人に入居者本人に連絡を取ってもらい、入居者に明け渡し手続きを促してもらう方法が考えられます。
①や②の方法が取れないのであれば③明け渡し訴訟を提起して勝訴判決を取得し、裁判所に強制執行してもらい、強制的に明け渡しを実現することが必要になると考えられます。(入居者と連絡がつかなくても、訴訟を進めること自体は可能です)

今回のポイント

自力救済の禁止
 法的手続きを経由せずに自力で権利を回復することは認められない

 契約書に記載すればどんなことでも許されるということはない


私たちが答えます

TMI総合法律事務所(東京都港区)

野間敬和弁護士:1995年、同志社大学大学院法学研究科修了。97年、弁護士登録。2003年、バージニア大学ロースクール修了。04年、ニューヨーク州弁護士資格取得。同年、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に出向。08 ~11年、筑波大学大学院ビジネス科学研究科講師、12年、証券・金融商品あっせん相談センターあっせん委員。11~14年、最高裁判所司法研修所民事弁護教官。

辻村慶太弁護士:2014年、一橋大学法科大学院修了、15年に弁護士登録。

(2025年11月号掲載)

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