<<嫁ぎ先を盛り立てる>>
【借金発覚に放火の被害、連続で訪れるピンチ】に続き、祖父にしっかりと教えられた不動産経営の「いろは」を生かし、婚家を守り抜くのが湊祐貴子オーナーに話を聞く。
所有物件の中でも自慢の2棟 品質と収益性にこだわる
こうして家業として不動産を経営することになった湊家。物件の質や収益性にこだわり、世代を超えて引き継いでいける事業計画を立てて実行している。
いくら青果仕分け業よりも仕事の負担が減ったといっても、最初が肝心だ。「中古で購入したマンションは、入居者が入れ替わるたびにトラブルが起きないよう品質を上げられるような修繕を施しました。それまでは突発的な対応が多く、とても手がかかったのです。一方で、新築から手がけた物件は本当に楽です。でもそれは新築段階で手間と労力をかけて『ある程度放っておいても大丈夫』なように仕上げたからです」と湊オーナーは話す。
所有不動産の中でも稼ぎ頭であり、湊オーナーの自慢となっているのが20年と21年に竣工した2棟のマンション。20年竣工が先ほど紹介した婚家の工場跡地を活用した物件、21年竣工が底地を借りて建てたものだ。
メイン工場だった場所に立つ9戸のマンションは、大阪メトロ中央線の高井田駅から徒歩8分ほどの好立地。どの部屋も1LDK・約42㎡となっている。「単身やカップルで暮らすのに、このくらいの広さを確保したものは少ないので、差別化になっています」と湊オーナーは話す。コンセプトは和モダンで、あえて琉球畳の部屋もある落ち着いた雰囲気の内装となっている。総工費は工場の解体費1300万円込みで7900万円。30年のフルローンで購入した。家賃は9万2000円(共益費込み)ほどで、利回りは実に12%を超える優良物件だ。
- ▲共用部には花を飾る ◀階段にもグリーンを
もう1棟、21年に竣工したのはJRおおさか東線「鴫野」駅から徒歩2分の場所に立つマンション。鴫野駅周辺の土地を持つ地主から土地を借りて新築した。こちらも工場跡地の物件と同じ施工事業者に依頼。1LDK・42㎡ほどの広さの単身者やカップル向けで、全9戸で仕上げた。総工費は地盤改良費込みで8400万円。家賃は9万3000円ほどで、借地料などを支払った後の実質利回りでも9%を上回る。こちらのデザインのコンセプトはコート・ダ・ジュールで、外観・内装ともに涼しげな配色。南欧の雰囲気が漂う。
この2棟の新築の際には住宅の質、安全性にこだわった。
両物件とも物件種別は木造ながら、断熱材や防火材などの建材にこだわっている。その結果、防音性も高いうえ、劣化対策等級は3と非常に高品質だ。床にはクッション性が高い素材を採用したことで下階への音漏れも防いでいる。またペットは小型犬か猫1匹まで飼育可なので、柔らかい床材が動物の健康にもいいと好評だ。
- ▲エントランスを入るとすぐに手洗い場
- ▲琉球畳の部屋
「賃貸だからこれくらいでいい、安かろう悪かろうという考えは私の好みではありません。相場よりは少し高い家賃を頂く分、入居者には安全や安心、住んで満足する体験をお返ししています」(湊オーナー)
不動産は社会的意義の高い仕事 同じ志の人を集めて業界を変えたい
幼少期から祖父に鍛えられ、不動産業界歴はすでに50年以上。その経験から「正直に言って、不動産業界自体が一般社会から怪しい商売だというイメージを持たれていることは否定しようがないでしょう」と湊オーナーは言う。しかし、その一方では「不動産事業こそ住まいを提供するという社会的意義の高い仕事だ。オーナーにも借主にも納得感のあるような気持ちのいい付き合いができれば少しずつ変えていけるのではないか」と考えている。
湊オーナーの願いは良質な賃貸住宅を世に出していき、適切な対価をもらう平等な関係を築くことだ。
そこで湊オーナーは、オフィスフェイム(大阪府吹田市)が展開する賃貸ブランド「RYO‐CHIN®」(リョーチン‐良質賃貸住宅®)に参画。RYO‐CHINは良質な賃貸住宅を提供する事業者やオーナーが集まり、一定の基準を満たした高品質な賃貸住宅を提供。それを求める入居者とつながるプラットフォームをつくっている。オーナーにはブランディングできることや共同で入居者募集を行えること、アプリを使えることといったメリットがある。
- ▲RYO-CHIN®のロゴマーク
- ▲居室内は白を基調とした明るい空間
「高品質な賃貸住宅を造るという同じポリシーを持った人が集まることで、数の力で『賃貸だからそこそこのクオリティーでいいじゃん』という考えを変えていきたいと思っています」(湊オーナー)
「細うで繁盛記」を地でいくような根性人生を歩んできた湊オーナー。今後も長年取り組んできた不動産業界発展に貢献したいと考えている。
1人では無理でも、多くのオーナーの力で社会を変える。湊オーナーはこれから、50年の経験を武器に新しい「賃貸物件の当たり前」をつくっていこうとしている。
(2025年10月号掲載)
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