法人化のメリットとデメリットを知る
節税効果に加えて、次の世代へ事業承継する際にも役立つ法人化。とはいえ、デメリットも当然あるため、詳しく把握しておきたい。
ランドマーク税理士法人
(東京千代田区)清田幸弘代表税理士
メリット1 納税額がダウン
個人事業主よりも、法人のほうが税金面でのメリットは多い。まず、給与所得控除が認められ、個人事業税も課税されなくなる。赤字の繰り越し控除の期間についても、法人は10年間と、個人事業主の3年間より長くなる。「賃貸住宅を新築するなどして赤字(欠損金)が出た場合、10年間繰り越し計上できることもメリットです」と話すのは、ランドマーク税理士法人(東京都千代田区)の清田幸弘代表税理士だ。
また、消費税の免除期間もある。資本金の額を1000万円未満にして設立すれば、消費税が課せられるテナントやビル、貸し駐車場を持っているオーナーにとっては、第1期と第2期は消費税が原則免除される。
■税金面のメリット
●役員報酬の給与所得控除額の分、所得税が下がる
●家族に給料を分散することで、専業者の所得税も下がる
●赤字の繰越期間が延びる
●消費税が免除される特別な期間が発生する
メリット2:経費の計上項目が多い
「法人は経費として計上できる事柄が増えます」(清田代表)。個人事業主の場合、事業のために使用したのか、事業以外の個人的な目的で使用したのか区別しにくい。しかし法人の場合は、事業を目的とした存在のため、基本的には事業のみにおける経費であることが前提となっているからだ。
例えば、スマートフォンなどの通信費。個人事業主の場合、通信費を経費として計上しても、全額が認められるケースはまれだ。それに対して法人の場合、法人でスマホを契約していれば、全額経費として計上することが可能だという。もちろん、個人での使用については業務の範囲を逸脱してはいけないという原則がある。
そのほか、社宅の家賃の一部を経費にすることができる。法人が個人の自宅を借りて賃料を支払い、その賃料を経費として計上する場合もある。
また、遠隔地に物件を所有していたり、セミナーによく出かけたりする家主にうれしいのが、出張手当だ。会社で出張旅費規定を作成することで、出張時の費用になる「日当(旅費)」も経費とすることができる。車を社用車として購入することも可能だ。車は固定資産になり、減価償却費も計上できる。法人名義の車になるため、自動車税など車にかかる税金や、ガソリン費なども経費として扱えるようになる。ただし、法人の業務として使用した場合に限る。
「中小企業退職金共済や法人保険の掛け金、健康保険や厚生年金などの社会保険料も、経費として計上できて、法人の所得を減らせます。法人の所得が高くなった場合には、節税対策として有効的です」(清田代表)
■経費計上が可能な費用
・接待交際費
取引先との食事などの接待で支払った飲食費を経費計上できる。冠婚葬祭にかかる費用も交際費になる。上限額があるので注意は必要。誰と行ったかをレシート裏にメモしておくと便利。
・生命保険料
上限なく経費として計上できる。ただし、保険商品の内容によっては、すべて経費として落とせないものもあるので注意が必要だ。
・役員退職金
役員に退職金を支払うことが可能で、不相当な金額でなければ、損金として認められる。退職金の金額をあらかじめ株主総会で決めておく必要がある。
メリット3 相続対策に活用しやすい
法人で不動産を所有していると、相続が発生した際、相続税は会社の株式価値(株価)によって算出される。妻や子を役員として報酬を支払い、利益を分配しておくと利益は会社のものにならず、株価は下がり、相続税を抑えられる。
「さらに、株主を相続人である妻や子にしておくことで、相続税の課税を回避することが可能です。妻や子は、将来発生する相続税の納税資金を貯めることもできます」(清田代表)
特に、法人化する際に建物所有方式にしておくことで、相続人への会社自体のスムーズな事業承継や、相続につながるという。また、合同会社ではなく株式会社とすれば、事業承継が円滑になる。不動産は分割しづらいため、株式にすることで相続する人数分に分けやすくなるメリットもある。
デメリット1設立の手間がかかる
法務局に登記するためには、会社の種類や所在地、出資者や役員の選定・決定、資本金や決算月の決定などを決める必要がある。会社の実印を作成したら「代表者印」としての印鑑登録と、印鑑(改印)届書も必要となる。税務署や自治体にも法人設立届出書を、税務署には青色申告の承認申請書などを提出しよう。そのほか、定款の写しなども必要だ。
会社の種類によって、必要な資料は異なるため、司法書士などの専門家に依頼する家主が多く、23ページで述べたとおり設立費用もかかる。
デメリット2 運営維持費の負担
法人は少なくとも年に1回、「決算」を行う必要がある。個人事業主とは税金の計算方法が異なるため、税理士のサポートを受ける人が多く、その費用が毎年かかる。
また法人(資本金1000万円以下の中小企業)の場合は、利益がゼロや赤字でも、「法人住民税の均等割」という一定の金額を負担しなければならない。東京都(特別区)の場合、最低でも7万円を支払うこととなる。
法人化すると利用できる節税に有効な制度
控除や経費に計上できる制度に加入すると、節税につながるだけでなく、経営の安定化にも役立てることができる。
■経営セーフティ共済
(中小企業倒産防止共済制度)
独立行政法人中小企業基盤整備機構(東京都港区)が運営する制度で、取引先が倒産し、売掛金の回収が困難になった場合に、貸し付けが得られる。無担保・無保証人で掛け金の最高10倍、上限8000万円まで借り入れが可能。
法人設立後、2年目からの加入が可能で、掛け金は損金に算入することができる。掛け金は年間最大240万円までで、月額の掛け金を5000円から20万円までの範囲で自由に選ベる。
加入から40カ月目以降は任意で解約しても、掛け金の全額が戻る。その返戻金は、全額が雑収入となり、課税されるので留意したい。
(2024年4月号掲載)
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