第3回 借地人が借地権の売却を希望しているとき
【相 談】
借地人から、「借地権を第三者に売却したい。地主が、第三者への売却を許可してくれないなら、地主が借地権を買い取ってほしい」と請求されました。そもそも、地主には借地権を買い取る義務があるのですか?
【回 答】
地主には、原則、借地権を買い取る義務も、買い取る権利もありません。通常の土地の売買と同様、交渉により合意しなければ売買は成立しません。
地主に発生する買い取り義務 借地権でなく借地上の建物
第1回で、契約による借地権(土地賃借権)であれば、地主の承諾がないと、借地権を第三者に売却することはできないことを説明しました。(物権である地上権による借地は、地主の承諾がなくとも、第三者に売却できますが、地上権による借地はほとんどありません)
地主が「借地権の譲渡を承諾しない」と回答すると、借地人からは「それでは地主が借地権を買ってほしい」と請求されることが多いです。しかし、地主が借地権の譲渡を拒否した場合でも、地主に借地権の買い取り義務は発生しません。
「地主には買い取り義務があるのでは」と誤解されるのは、借地借家法13条に「借地人からの地主に対する建物買取請求権」の定めがあるからです。
この建物買取請求権は、期間満了の際に限り、借地人から「更新しない(借地権は消滅させる)。ただし、借地上の建物は地主が買い取ってほしい」と請求することができる権利です。借地人が建物買取請求権を行使すると、地主には買い取り義務が発生します。
しかし、この場合の買い取りの対象はあくまで建物であり、借地権ではありません。従って、買い取り価格も通常の借地権価格の3分の1程度と、非常に安い値段になります。
借地非訟手続きでの譲渡 融資は地主の承諾書が必須
地主が借地権の譲渡を承諾しない場合、借地人は、裁判所に「借地権譲渡の借地非訟手続き」の申し立てができます。この申し立てがあると、裁判所は通常、地主に代わって借地権譲渡の承諾に代わる許可を出します。そうなると、地主が譲渡に反対していても、借地権は売られてしまいます。
しかし、この借地非訟手続きは1年程度の時間がかかるため、借地権の購入希望者は通常、裁判手続きまでして借地権を購入しようとはしません。
そうまでして借地権を購入したとしても、購入者は借地権の買い取りと、借地上の建物を建て替えるための資金を銀行からの借り入れで調達することが多いのです。ところが、ごく一部の融資を除き、銀行は通常、それらのための資金を融資するにあたり、地主の印鑑証明書付きの「地主の承諾書」を要求します。しかし、地主は、裁判所が借地権の譲渡を許可した場合でも、銀行に提出する「地主の承諾書」を発行する義務はありません。
(注)には、借地人が地代の支払いを怠り、地主から借地契約を解除するときは、あらかじめ銀行に通知するなど、銀行が融資の担保に取る借地権を維持するための、地主の銀行に対する約束事が書いてあります。

借地権を売却するとき 地主が有利に交渉できる
以上で明らかなように、借地人が借地権を第三者に売却するときは、地主は有利な交渉ができます。地主が借地権を買い戻したくないときは、裁判 所の譲渡許可の条件よりも多少地主に有利な条件を提示することも可能です。
例えば、借地権の譲渡を裁判所が許可するときは、借地人は借地権を売却して代金を得ることができるので、裁判所は「借地人が地主に対し、借地権価格の10%相当額の承諾料を払うことを条件に譲渡の許可をする」と決定します。
そこで、地主から「任意に(争わないで)借地権の譲渡を許可するので、借地権価格の15%相当額の承諾料を払ってもらい、なおかつ地代は月額〇〇円に値上げしてほしい。また買主が銀行からの融資を受けるために地主の承諾書を希望するなら、発行してもいい」などといった提案も可能になります。
また借地人が借地権を売却するとき、地主に買い取る権利はありませんが、「第三者に売却することは許可できない。その代わり、地主が借地権と建物を〇〇万円で買い取る。通常の売買となり、借地人はトラブルなく借地権と建物を売却できるが、どうか」と提案することもできます。このときの買い取り価格は、借地権割合が6割程度の土地なら、第1回で説明したとおり、更地価格の3~4割で提案していいと思います。
弁護士法人立川・及川・野竹法律事務所(横浜市)
代表弁護士 立川正雄

1952年生まれ。77年、弁護士資格取得。80年、法律事務所開業。多数の宅建業者・建設事業者の顧問先を持ち、実務に即したアドバイス・実務処理を行う。公益社団法人神奈川県宅地建物取引業協会の顧問弁護士、一般財団法人不動産適正取引推進機構の紛争処理委員なども務め、宅建業者向け講演会を40年以上にわたり開催。講演・執筆など、多方面で活動する。
(2025年 3月号掲載)
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