【連載】地主を悩ませる 借地・底地の整理法:7月号

法律・トラブル不動産関連制度

第7回 相続の準備のための底地の売却

【相 談】
高齢の父は大地主で、貸地(底地)をたくさん保有していますが、預貯金などの金融資産はあまりありません。将来、父が死亡したときの相続税が心配なのですが、どのように対応したらいいでしょうか?

【回 答】
近い将来の相続を考えて、生前から以下のような対処ができないか検討してください。ただ、無理をして安く底地(貸地所有権)を売却する必要はありません。

  1. 1.借地人に底地を適正価格で買ってもらえないか、提案してみる。
  2. 2.借地人が転居してもいいと考えているなら、地主による借地の買い取りや、地主・借地人の共同売却を提案してみる。
  3. 3.広い借地で借地人が建て替えを考えているようなら、底地と借地の等価交換を提案してみる。

 

地主の相続対策として行う
底地売却の準備

 近い将来、相続が起きると多額の相続税の負担が生じるような場合、地主は借金をしてアパートを建てるといった相続税対策をしていると思います。ただ、相続税対策をしても、相続税は安くはなるもののゼロにはならず、相当額の納税義務が発生するのが通常です。そのため、納税資金の調達が必要になります。

 アパートなどの収益物件があれば、納税資金を借り入れて、賃料収入を返済に充てることができます。しかし、どうしても貸地を処分しないと納税資金を賄えない場合は、父親の生前から、借地人への底地売却に向けて努力をしておくべきです。

 もちろん、借地人の中には「買い取り資金がない」「安い地代で住むことができるのだから買い取る必要はない」と考える人も多いので、借地人への売却は、成功率の高いものではありません。そのため、なるべく早めに借地人へ働きかけ、底地売却のチャンスをつくれるかどうか、探っておくとよいでしょう。

 もし、父親の死亡後に相続人が相続した貸地を売る場合には、その売却した土地にかかる相続税を取得費に加算できる特例(相続税の取得費加算の特例)を利用することで、生前に売却するよりは、多少有利になります。また相続開始時に底地が遺産になっていたほうが、現金が遺産になっているよりも相続税は安くなります。

 しかし、相続が起きた後に売却しようとすると「地主は相続税の納付に困って売るのだから、安く買える」という期待で、借地人は適正価格で買ってくれなくなります。貸地は第三者には高く売れないため、地主は借地人にしか適正価格で売ることができません。

 そのため、私は交渉がしやすい有利な時期(父親の生前)に売却交渉をするようアドバイスしています。

 また相続税は原則、死後10カ月以内に納める必要があるので、相続開始後に売る場合、売り急がなければなりません。

適正価格は公示価格の4割
相続税物納も試算し検討を

 私は、借地権割合6対4の土地なら、底地の売却額は公示価格の4割前後が適正価格だと考えます。4割というのは、都市部の住宅地の底地権割合相当額です。借地権割合が7割(底地権割合3割)なら、公示価格の3割前後でもいいでしょう。

 最近は、公示価格より時価が高い場合も多いので、公示価格の4割前後を基準とするなら、買主である借地人にとっても損はないはずです。また将来売却するにあたっても、借地のままでは高くは売れませんが、底地を買い取って自己所有地にすれば、借地人は多額の利益を得ることができます。

 地主側としては、底地を売却して相続税の納付資金を用意する場合、売却時に譲渡所得税を納める必要があります。それに対して、相続税の現金納付の代わりに、相続した底地(土地)を国に納める「物納」という方法もあります。底地の物納をする場合は、評価額は相続税の評価となり安いですが、譲渡所得税がかかりません。

 納税資金の調達のために底地を売却して譲渡所得税を納めるか、相続が発生するまで待って底地を相続税として物納するか。どちらが得なのかは、売却価格と、差し引くべき譲渡所得税の金額、物納した場合の評価額(いくら分の相続税になるのか)で決まります。税理士に試算してもらいながら、売却(価格)の交渉を行うか、物納するかの決断をするといいでしょう。

 次回は、地主・借地人の共同売却を取り上げます。


弁護士法人立川・及川・野竹法律事務所(横浜市)
代表弁護士 立川正雄

1952年生まれ。77年、弁護士資格取得。80年、法律事務所開業。多数の宅建業者・建設事業者の顧問先を持ち、実務に即したアドバイス・実務処理を行う。公益社団法人神奈川県宅地建物取引業協会の顧問弁護士、一般財団法人不動産適正取引推進機構の紛争処理委員なども務め、宅建業者向け講演会を40年以上にわたり開催。講演・執筆など、多方面で活動する。

(2025年 7月号掲載)

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