<<【連載】教えて!弁護士さん 賃貸経営お悩み相談>>
賃貸経営に関する法律のポイントをQ&A形式で解説します。
Q.孤独死してしまった入居者の部屋を片付けたい。 残置物を撤去するには、どうすればいいですか?
私のアパートの入居者だったおじいさんが孤独死してしまいました。無事に葬儀は終わったようですが、部屋には荷物が残されたままです。おじいさんとの賃貸借契約は終了したと思うので、荷物を出して部屋をきれいにして新しい入居者を募集したいのですが、以前の連載で「賃貸人が勝手に賃借人の残置物を撤去してはならない」と知りました。どうすればいいのでしょうか?

A.賃貸借契約はオーナーと相続人との間で存続します。相続人に連絡を取り残置物の撤去を依頼しましょう
人が亡くなると相続が発生します。相続人は、相続開始の時から、被相続人(=亡くなった人)の財産に属した一切の権利と義務を承継します(民法896条)。これを「一般承継」といいます。入居者はオーナーと賃貸借契約を締結していますが、この契約に基づいて「建物を使用収益できる権利」を有するとともに「賃料を支払う義務」を負うことになります。
そのため、相続人が、入居者だった被相続人の賃借人としての地位を引き継ぐことになるのです。つまり賃貸借契約はオーナーと相続人との間で存続することになります。
亡くなった入居者の相続人は、基本的には配偶者(民法890条)や子ども(民法887条)がなりますが、亡くなった入居者の家族状況次第で実際の相続人は異なります。
今回の場合は、まずは亡くなった入居者の戸籍などを調査して、相続人が誰なのかを確認する必要があります。判明したら相続人に連絡を取りましょう。
質問のような孤独死の事案では、賃貸借契約は継続することはなく、合意解約が多いと思われます。そうであれば、相続人に残置物の撤去を含めた原状回復を行ってもらうことになります。またもし亡くなった入居者に未払い賃料やオーナー負担を超える原状回復費用が発生しているのであれば、質問者はその相続人に対してこれらのお金を請求することができます。
一方で、相続人と連絡が取れない場合には訴訟手続きが必要になります。また相続人が明らかでない場合には、相続財産法人が成立し(民法951条)、相続財産を清算する必要が生じます(民法952条など)。この手続きはまれなケースであるため、専門家に相談しましょう。

なお遺言・遺言執行者制度や死後事務委任契約を利用すれば、自分が亡くなった後の財産処分や事務手続きを第三者に行ってもらうことができ、安心です。
本連載は今回で最終回となります。ルールを知れば、選択肢は増えます。それが法律の面白さです。トラブルを価値に変える視点を、これからも。畑も契約も、手入れ次第でよく育ちます。
私たちが答えます
TMI総合法律事務所(東京都港区)
- 野間敬和弁護士
- 辻村慶太弁護士
野間敬和弁護士:1995年、同志社大学大学院法学研究科修了。97年、弁護士登録。2003年、バージニア大学ロースクール修了。04年、ニューヨーク州弁護士資格取得。同年、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に出向。08 ~11年、筑波大学大学院ビジネス科学研究科講師、12年、証券・金融商品あっせん相談センターあっせん委員。11~14年、最高裁判所司法研修所民事弁護教官。
辻村慶太弁護士:2014年、一橋大学法科大学院修了、15年に弁護士登録。
(2026年 1月号掲載)






