入居者も家主もうれしい賃貸住宅の防音

賃貸経営住宅設備・建材#防音#防音賃貸#騒音#楽器演奏可能

生活するうえで気になる騒音問題。近年は苦情や問い合わせが増加傾向だ。一方でさまざまな分野で消音商材が売り出されている。

 

マンションから壁・床材まで 広がる防音対応

防音賃貸の需要増大 増える騒音への苦情・問い合わせ

 洗濯機や掃除機の作動音、オーディオ機器や楽器の音、果ては話し声まで。自宅にいるときに切り離せないのがこれら生活騒音の問題だ。特に賃貸住宅は、実需向け住宅に比べて壁や床が薄いものもあり、苦情に頭を抱えている家主もいるだろう。
 環境省の「令和3年度騒音規制法等施行状況調査」の結果によれば、同年度に全国の地方自治体が受理した騒音の苦情件数1万9700件のうち、家庭生活が発生源の苦情は1389件で、5年前より約37%増えた。新型コロナウイルス禍により在宅も増えて、音を気にする人が増えたのか、賃貸向け防音商品の開発・販売を行うピアリビング(福岡市)には、騒音に関する電話相談が2021年4月~22年3月までの1年間で7024件寄せられた。これは2年前の約5・6倍だ。
 騒音の苦情や相談が増える中で、防音ニーズに応える物件や商材が広がりを見せている。

 

人気集める楽器演奏可の賃貸マンション

 高い防音性能によって室内で隣人や周囲に気兼ねなく楽器が演奏できる賃貸マンションが人気を集めている。
 越野建設(東京都北区)が手がける「音楽マンション」は、1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)に23年末時点で50棟・1000戸超が稼働している。21年からの3年間で16棟を新築。現在も今春に向けて4棟が建築中だ。このほか数棟の計画も進んでいる。入居者の8割は楽器演奏を愛好する社会人で、2割は音楽大学生やプロの音楽家だ。入居率は過去に100%に近い時期が数年あり、現在は約93%となっている。
 不動産デベロッパーのリブラン(東京都板橋区)は、24時間楽器演奏が可能な「ミュージション」を1都3県で32棟・758戸展開している。2000年に第1号物件を建築し、その後数年は年間1~2棟のペースだったが、近年は年間3~5棟を建築。入居者のほとんどが音楽を趣味にする社会人で、プロの演奏家も1割弱いる。入居率は22年度で年間平均97・8%となっている。
 音楽マンション、ミュージションのいずれも、地主に土地活用物件として提案しているものだ。入居者が集まり、稼働率が高いため、必然的に地主にも好評だ。

 

共用部に防音室を設けて差別化

 ヤマハミュージックジャパン(東京都港区)が手がける「アビテックスフリーシリーズ」は、自由設計でつくる楽器演奏ができる防音室。戸建ての個人宅や分譲マンションへの納入が多いが、賃貸マンションへの納入実績もある。最近は、共用部に設置して音楽スタジオやシアタールームとして利用される例もあるという。
 オーダーメード家具の製造・販売を行うロータス(東京都港区)は、20年12月に自社オリジナルの1人用個室ワークブース「Priws(プリウス)」を発売した。周囲の騒音を避けてウェブ会議をする人などに使われるもので、手頃な価格と遮音性を強みに、販売台数を年々伸ばしてきた。累計販売台数は800台以上となっている。オフィス向けが主流だが、23年3月には、大手マンション建設会社が大阪市に建てた賃貸マンションの共用ワークスペースに導入された。

 

自分たちで簡単に 後付け可能な壁・床材

 ピアリビングは、今住んでいる部屋に家主や住人が自分で据え付けることができる防音の壁材や床材を販売している。「コロナ下で販売数は伸びています」と話すのは、同社広報の松尾奈恵氏。21年9月期において、同社の防音パネル「ワンタッチ防音壁」の販売数は19年9月期比で約6割増、防音タイルカーペットの「静床プレミア」は同約11倍となった。

 

賃料アップや価値付けにつなげる

 防音を売りにすることで、賃料アップや物件独自の価値付け、空室対策につながる例もある。前述の音楽マンション、ミュージションともに、家賃は周辺相場よりも高い。それでも、「高い防音性能を備えた楽器演奏が可能な賃貸マンションは、音楽愛好家にとって、まだまだ数が少ない」(越野建設企画開発部マーケティングチームマネージャーの土屋貴之氏)。このため、完成前に満室になることもあるという。
 ヤマハミュージックジャパン鍵盤営業部アビテックス企画営業課主幹の吉田裕顕氏は、「空室対策も視野に入れ、物件に付加価値を与えるために防音室を導入する法人家主もいます」と話す。
 ピアリビングではこれまでエンドユーザーへの販売がほとんどだったが、最近では家主が同社の防音カーペットを所有物件に導入したところ、空室が埋まった例もあったという。

 

動画配信者向けなど今後も広がるニーズ

 近年は、防音を施すことで入居につながる新たな層が広がっている。例えば動画を撮影、配信するユーチューバーやライバー、ゲーム実況をするゲーマーといった人々だ。また、彼らには、防音に加えてインターネット環境が欠かせない。それを受けて、リブランは、ミュージションで10Gbpsの高速ネットが利用できる新シリーズ「ミュージションplus(プラス)」も展開し始めている。

 

ポイントは遮音、吸音、音響

 防音ニーズには音を出す側が自分の音を漏らさないというもののみならず、「外部の音を防ぎたい」というものもある。キーポイントは遮音、吸音、音響、使い勝手の良さなどだ。73ページから、それらを追求した各社の物件、製品を紹介する。

(2024年3月号掲載)

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