【特集】押さえておきたい不動産の共有リスクと解消法③

法律・トラブル不動産関連制度#相続#裁判#資産価値

不動産の共有によるトラブルや解決法について、法律面では森・濱田松本法律事務所(東京都千代田区)の長谷川博一弁護士に、実務面では不動産コンサルタントで一般社団法人不動産オーナー経営学院(REIBS:リーブス・名古屋市)講師兼事業責任者の近藤修己氏に話を聞いた。

2.共有を解消する、共有不動産でもトラブルを回避する

共有状態はリスクが多く解消するべきと専門家は話す。具体的な方法を見ていこう。

共有を解消することが唯一の解決策

 両氏とも、不動産のトラブルを避けるためには、大前提として不動産を共有しないことが重要で、共有の不動産がある場合は、協議ができるうちに共有を解消するしかないとの見解だ。共有の解消方法は、裁判手続きを要しない売却・贈与、放棄と、裁判によって取り決める現物分割、代償分割、換価分割がある。

 まず、売却・贈与と放棄について見ていく。共有者の誰かがほかの共有者に自分の持ち分を売却または贈与していくと、売却・贈与した側が共有から抜けることになるので、最後の1人は単独の所有権を持つ。なお自分の持ち分を放棄した場合は、ほかの共有者の持ち分に自動的に振り分けられる。

 売却・贈与と放棄の違いは、引き取り手を探すかどうかだ。売却・贈与の場合は引き取り手を探す手間と時間がかかるが、放棄は自分の好きなタイミングで手続きを進められる。

 売却・贈与と放棄は、ほかの共有者の合意を得ずに進めることができるのが大きなメリットとなる。利害関係が一致しない共有者がいたとしても、自分の持ち分を手放すことができる。

 次に、裁判手続きで共有を解消する方法である現物分割、代償分割、換価分割の三つ。まず、現物分割とは共有している不動産を等分して分割する方法だ。「民法上、現物分割は原則的な分け方ですが、実際には難しいものです。建物がある場合や、日当たりや接道状況に偏りがある場合、現物分割で等分することはほとんどできません」(長谷川弁護士)

 代償分割は、片方の共有者が別の共有者に土地を渡す代わりに、現金を受け取るようなケースだ。要するに、いずれかの共有者がほかの共有者の持ち分を買い取る行為ともいえる。長谷川弁護士は、「裁判手続きをする場合は、代償分割か、代償分割と現物分割の二つを組み合わせたケースがほとんどです」と話す。

 現物分割と代償分割がうまくいかないときの最終手段として、換価分割の方法が取られる。換価分割とは、不動産を競売にかけて現金化して相続人で分ける方法だ。ただし、競売の場合、売却価格は時価の2~3割程度まで低下する。競売手続きを進めるための裁判の費用や専門家に依頼する費用もかかり、共有を解消する際の経済的負担が大きい。

個別のルールを書面で定める

 長谷川弁護士は「一時的な共有でない場合は、関係性が悪化する前に共有者間で同意書を作成しておくことが、トラブル回避のために必要です」と話す。

 同意書とは、不動産の売却や変更、管理をするときに何%の同意が必要なのか、事前に共有者全員に通知するべきかなどをあらかじめ共有者間で定めておく文書のこと。協定書や規約などさまざまな呼び方がある。民法では共有は継続的な運用を想定していない。また基準は定めているものの、具体的な管理行為の何を過半数で決することができるのかについては明記がなく、法解釈の余地がある。同意書は法で作成が定められているわけではないがトラブル防止に役立つ。持ち分が少ない所有者による改修のトラブルは、この同意書の作成によって解決可能となる。

 例えば、同意書には共有者が売買するときに、ほかの共有者にまず声をかけてからと、定めることができる。これには、新たな共有者が外部から入ってくるのを抑制する効果がある。また大規模修繕の際は全員の同意が必要と定めれば、持ち分が少ない所有者であも大規模改修の決定に関わることができるのだ。

金銭を工面して出口戦略を考える

 長谷川弁護士によると、共有を解消するには、出口戦略を考えることが重要だという。「単に相手方に支払うことになる金銭のほかにも、例えば、現物分割時の分筆登記には、手続きの費用だけでなく、土地家屋調査士や司法書士に支払う報酬がかかります」(長谷川弁護士)。このように、現金が不足していると、共有解消手続きを進められない場合も考えられる。その場合、一例としては賃貸として資金をためるといい。共有者の合意を取っておき、数年後に買い取れるようにしておくことも有効だ。

 また税金の負担も見逃せない。近藤氏は「共有の解消には、共有者全員の税金の負担も考える必要があります。例えば、不動産を長男名義にするために、共有者である次男が放棄した場合には、贈与と見なされる可能性があるのです。贈与の場合、長男は不動産を取得できたとしても、一時的に高額な贈与税の支払いをしなければなりません」と指摘する。長男に納税資金の備えがない場合は、有価証券のほか資産の換金や借り入れといった何らかの手段で現金を用意する必要がある。家族間の関係を良好に継続するためには、税負担が一部の共有者に偏らないかも検討しよう。「早めにあらゆるケースを想定し、準備や手続きを進めることが重要です。10年以上の準備期間があれば、リスクの低い対策を実施したうえで資金を準備する可能性が高くなります。売却するにしても、売値がより高いタイミングを狙い施策を打つこともできるでしょう」(近藤氏)

 円満な共有解消こそが次世代へ残せる財産だ。

(2024年10月号掲載)
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