不動産の共有によるトラブルや解決法について、法律面では森・濱田松本法律事務所(東京都千代田区)の長谷川博一弁護士に、実務面では不動産コンサルタントで一般社団法人不動産オーナー経営学院(REIBS:リーブス・名古屋市)講師兼事業責任者の近藤修己氏に話を聞いた。
共有しているだけで評価下落
一見、共有で相続することは平等で平和に思える。しかし、長谷川弁護士、近藤氏とも「共有は絶対に避けるべし」と口をそろえる。
一番のリスクは、共有をしているだけで土地の価値が下がることだ。「例えば、1000万円の土地を2人で共有した場合、ぞれぞれ500万円ずつと鑑定されると考える人がいます。しかし、いざ片方が売却しようとしたときには、500万円未満と鑑定されるケースがほとんどです」(長谷川弁護士)
共有の場合、賃借権の設定や大規模修繕などを行う際に、共有者全員の同意または持ち分価格の過半数の同意が必要になる。この制約によって、売却時の鑑定価格は時価を持ち分で割った価格に比べて、20~30%程度減額されるケースが多いのである。
関係性の悪化で経営に悪影響
次に、共有者同士の関係性が悪くなった場合のリスクも大きい。そもそも共有は、共有者の良好な関係性が前提となっている。例えば、離婚時の財産分与において、不動産を共有しようとする人はほぼいない。利害関係を有すると、共有者同士の関係性が悪化するケースは非常に多いという。今はよくても子孫の代のことはわからない。「必ずといっていいほど、感情のもつれによるトラブルが発生します」と近藤氏は話す。実際に、関係性が良好だった親族であっても、金銭が必要なタイミングで共有によるトラブルが起きると、急に態度が変わってしまったという相談を受けた経験もあるという。
関係が悪化して、共有者の同意が取れなくなると、賃借権の設定や修繕、増改築による用途変更などもできなくなる。話し合いがまとまらず裁判まで発展すると、経済的負担だけでなく心理的負担も大きい。
日々の不動産経営に与える影響も甚大だ。経営するアパートが共同所有である場合、自分が新しい賃借人を見つけてきても、ほかの共有者が気に入らないから入居を認めないというケースすらあるという。各共有者が同意するか否かは自由であり、拒絶理由が不合理であったとしても、同意を強制することはできない。
関係者が増えて収拾がつかない
関係者が増えていくのも厄介だ。相続が発生した際に、共有とすると受け継ぐごとにどんどん共有者が増えていく。きょうだいだけなら話し合いが進む関係性であっても、いとこやおい・めいまで共有者になると同意を取るための話し合いでさえまとまりにくい。さらには、一部の共有者が持ち分の売却を希望すれば、遠縁の親族までもが共有者としての話し合いに加わるケースがあり、合意に至らないリスクがより上がる。
1人が認知症になると売却が困難
たとえ関係性が悪化しなくても、共有によるトラブルはあり得る。共有者が認知症になり、判断能力がないと見なされた場合だ。そのときは特に売却が難しくなる。「認知症の疑いがあると認知機能の状況や司法書士の立ち会いなどの方法によって判断能力が認められることがあります。しかし、判断能力がない場合は、売却するためには後見制度によりその都度後見人または家庭裁判所の許可が必要です。ただし、後見人の役割は認知症の人の財産保護であり、売却の承諾をしないケースが特に多いです」(近藤氏)
共有者が多いほどトラブルは多い
共有者が多い場合では、合意が取れずに売却に時間がかかることが多い。
例えば、3代前の高祖父の代に相続登記がされず、一つの土地の共有者が48人に上るケース。このケースでは、海外に在住している5人の共有者と連絡がつかなかったという。持ち分を放棄してもらえるように、共有者との交渉に取り組んでいる。
近藤氏によると、目安として、共有者が5人以上になると、自分と関係性が希薄な人が増え、手続きを進めにくくなる印象がある。共有者が協力的な人物とも限らないため、合意を取ることが難しく、時には裁判にまで発展する可能性がある。
また、自分の持ち分のほうが少ない場合も不利になる。自分が20%、ほかの共有者が80%の場合は、自分はいわゆる持ち分が少ない所有者になる。特段の定めがない場合は、民法の規定により自分の持ち分だけでは管理について決定できないため、トラブルになりやすいという。「例えば、形状・効用の著しい変更を伴わない大規模修繕は管理行為に該当します。持ち分の半数以上の合意で進めることができるため、持ち分が少ない所有者が否認しても改修が行われてしまうのです。持ち分が多い所有者が勝手に改修を重ねるケースも考えられます(事例1)」(長谷川弁護士)
前述のとおり、共有であるというだけで不動産評価が下がるところ、持ち分が少ない所有者の場合は自分の持ち分を売却しようとしても、過半数で決する事項に対して拒否権がないことが考慮され、価格はさらに低くなる傾向にある。
(2024年10月号掲載)
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