本業と不動産経営のシナジーを考える:経営の多角化

土地活用賃貸住宅

大正15年創業の新聞販売店4代目 経営の多角化を図り不動産賃貸事業を開始

七井商店(茨城県常総市)は、大正15年(1926年)に創業した老舗の新聞販売店だ。4代目の七井真介代表取締役は、新聞販売部数が減る中、経営の多角化を図るべく新たな事業を展開している。ハウスクリーニング事業、家電販売事業、そして不動産賃貸事業だ。今後は安定収入となる不動産賃貸事業に注力していくという。

七井商店(茨城県常総市)
七井真介代表取締役(41)

厳しくなった新聞販売 約20年で売り上げ半減

 常総市は県南西部に位置しており、東は学園都市のつくば市、南はベッドタウンとして人気のある守谷市に隣接している。大規模な工業団地があり、人口約6万人だ。

 この常総市で、100年近く毎日どこよりも早く始業して営業してきたのは、新聞販売店の七井商店だろう。午前0時にスタッフが集まってチラシの折り込み作業が始まり、2時ごろから新聞を積んだバイクが次々と配達に出発する。2021年に先代から代表取締役のバトンを受けて4代目に就任した七井氏が、現在経営の指揮を執る。

 インターネットが情報収集の主流になり、新聞販売店を取り巻く環境は厳しい。一般社団法人日本新聞協会(東京都千代田区)によると、新聞の発行部数は03年に5287万部ほどあったが、23年には2859万部まで減少。全国の新聞販売所数も03年の2万1405店舗から23年は1万3373店舗へ減少している。七井商店は読売新聞の販売店だが、近隣にあった他紙の販売店が撤退したことにより、その店舗の顧客を引き継いだ遠方の販売店から、配達の委託を受けているという。

 「私が家業に戻ってきたのが08年ですが、当時は新聞購読も折り込み広告も、今の倍近くありました。売り上げのピークは10年ごろでしょうか。近年は新聞販売が3~5%、折り込み広告が10%ほど毎年落ちている状況で、このままではいけないと思ったのです」

 特にコロナ禍のときは厳しく、一時、折り込み広告の売り上げはコロナ禍前の2分の1にまで減少。24年4月以降はだいぶ戻ってきているが、以前渡していた販促品は今はやめている。

 現状について、こう話す七井氏。事務所が立つ敷地の面積は800坪ほどあり、固定資産税が高いため事務所を維持するだけでも楽ではないという。敷地内に店舗があり、現在そのテナント料から固定資産税百数十万円を賄っている。

 そんな中で売り上げ減少分をどうにかしようと七井氏は新規事業に着手。新規事業は三つあり、17年にハウスクリーニング事業、22年に不動産賃貸事業、そして24年に家電販売事業をそれぞれ始めた。

不動産取得に重要な融資 先輩家主の教えを生かす

▲七井商店本社

 不動産賃貸事業は、法人としては事務所の近くに2店舗を所有しているだけだった。事業として不動産賃貸事業に取り組むにあたり、新規で購入することにした。第1号は22年に購入した、つくば市の築35年ファミリー向け軽量鉄骨造アパート3棟20戸だ。家賃収入は年間1200万円。利回りは18%ほどの高利回り物件となっている。

 24年には、第2号物件として、同じくつくば市で筑波大学の近くに立つ築40年の単身者向けアパート12戸を購入。利回りは10%弱だが、古いこともあり「土地を購入したつもりでいます」と七井氏は話す。借入期間は15年のため、完済をめどに建て替える予定だという。

 不動産購入についてはまだ始めたばかりではあるものの順調に進んでいると思いきや、当初は法人として不動産融資を受けるコツがわからず、なかなか買えなかったという。「不動産投資というと、個人向けについてはいろいろな書籍やネットで情報収集できますが、法人向けはあまりなくてわかりませんでした。そんなときに収益不動産情報サイト『楽待』のコラムニストのモーガンさんに相談をして、教えてもらう機会を得たのです」(七井氏)

 不動産賃貸事業のように商品の仕入れや販売を伴わない業態の経営者が、融資を受けて事業を拡大するにあたって、有効な決算書を作るために押さえておくべきコツがあるという。銀行が融資の可否を判断する際に決算書のどこを見るかを理解して、オーナー自身で会計事務所に仕訳の指示をできるようになることが融資を受けやすくするために重要であると学んだ。その結果、買えるようになったという。

ハウスクリーニング事業、家電販売で相乗効果図る 

 七井氏は不動産賃貸事業のほかに、ハウスクリーニング事業と家電販売事業も始めた。「本業が新聞販売店ですし、印刷機もあるので、チラシは無料で作って新聞に折り込むことができます。その強みを生かして集客しています」

 ハウスクリーニングはフランチャイズチェーン(FC)に加盟せず、研修だけ受けて独自ブランドで展開している。夏場はエアコンクリーニングの依頼が多く、クリーニングの顧客に24年から始めた家電販売事業で取り扱っているエアコンを販売するという。ただ、夏場を過ぎるとエアコンのクリーニングの需要が減るため、SNSの「X(旧ツイッター)」による、家主を対象にした投稿で周知を図っている。原状回復をはじめ、芝刈りや剪定、お風呂掃除、エアコンの設置などの依頼を受けることが増えてきたようだ。

 なお家電販売事業については、アトムチェーン本部(大阪府羽曳野市)が展開するFC「アトム電器チェーン」に加盟している。アトム電器チェーンは、新聞社が加盟を認めている事業で、先駆者として加盟して売り上げを伸ばしている販売店もあったことから始めたのだという。いずれも新聞販売の顧客との親和性の高い事業だ。

 「この街になくてはならない存在へ」というキャッチコピーで展開する七井商店。「新聞店としてもハウスクリーニングとしても、この町に必要な存在になるという意味を込めています。企業価値として、そういう目的は重要だろうなと。不動産賃貸事業についても必要とされる存在になれるように、展開していきたいです」

 こう話す七井氏は、不動産賃貸業での月間家賃収入300万円を当面の目標として、規模を拡大していく。

▲新聞販売とシナジー効果があるハウスクリーニング事業

(2024年11月号掲載)

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