【連載】資産価値を維持する 高性能賃貸住宅:11月号

賃貸経営住宅設備・建材

VOL.1 高耐震・高断熱・高気密化のフルリノベができない

 10月号までは、「資産価値を維持する“省エネ”賃貸住宅」というテーマで連載をしてきた。今号より、省エネルギー以外の観点から、「資産価値を維持する高性能賃貸住宅」を取り上げる。高気密・高断熱住宅を手がける建築会社を家主に紹介する住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)の高橋彰代表取締役がわかりやすく解説する。

改正建築基準法が施行

 2025年4月から改正建築基準法が施行されます。それに伴い、高耐震・高断熱・高気密の住宅にするためのフルリノベーション(主要構造部である壁、柱、床、梁、屋根、階段のいずれかの過半を修繕・模様替えするリノベ)を行うことがとても難しくなりそうです。改正建築基準法の施行後はかなりの混乱が予想されるからです。

リノベがしにくくなる理由

 従来、2階建て以下の小規模な木造建築物を対象に、建築確認で構造審査を省略する「審査省略制度(いわゆる「4号特例」)という制度がありました。木造の共同住宅も2階以下、かつ延べ面積が200㎡以下であれば、これに該当し、新築では建築確認のうち構造審査が、リノベではそもそも建築確認申請自体が不要でした。

 ところが今回の改正で、4号特例の対象建築物が大幅に縮小されます。新築は構造審査が必要になり、既存戸建て住宅の大規模修繕や模様替えでも確認申請が必要になるのです。

 また既存住宅のリノベをする場合は、建物全体において基準を満たすことが求められるようになります。リノベする箇所以外にも改修工事が必要となる可能性があるのです(ただし、緩和措置あり)。

 懸念されているのは、これほど大きな改正であるにもかかわらず、制度設計が準備不足であることです。戸建て住宅の大規模修繕や模様替えの確認申請手続きは、しばらくはほぼできない状況に陥るのではないかと工務店などは心配しています。

確認申請手続きが滞る

 リノベの確認申請手続きがしにくくなると予想されているのには、大きく分けて三つの理由があります。

 まず、新築の手続きの変更により自治体や指定確認検査機関の業務がかなり逼迫することです。

 法改正後は、新築でも確認申請時に構造審査が必要になります。さらに、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が改正されることで、「省エネ適判」という省エネ基準への適合性判定の手続きも必要になるのです。
 このように、新築の手続きの負荷はかなり増えます。既存建築物まで手が回らないかもしれません。

影響が大きい既存住宅

 二つ目として、既存住宅の大規模修繕や模様替え手続きに関するマニュアルの整備が遅れていることが挙げられます。つまり、指定確認検査機関の既存住宅対応への体制整備が全く進んでいないという問題です。

 新築住宅の確認申請手続きでは、ルールが明確になっており、自治体や指定確認検査機関などの担当者が判断に迷うことはそれほど多くありません。

 ところが、既存住宅については、具体的な判断に迷うことが多いのです。現行法に適合していない場合、例えば基礎の耐力が足りない際にどの程度の補強が必要なのか、どのような改修をもって適合とするのかといったルールの策定が待たれます。

 民間の指定確認検査機関の場合は、独自の判断で対応を行うと、国土交通省から処分を受けるリスクがあります。明確な判断基準が示されない状況のまま施行された場合、指定確認検査機関は、大規模修繕の確認申請を受けたくないのが本音だといわれています。

 こんな状況が予測されるため、フルリノベを行う場合、受け付けてくれる指定確認検査機関探しにかなり苦労することになるかもしれません。また見つかっても審査期間が長引く可能性が高そうなのです。

検査済証のない既存住宅

 三つ目の問題は、「検査済証」のない住宅の手続きです。
 確認申請手続きが必要な大規模修繕工事を新たに行う際には、検査済証が手元にあることが前提です。ただ、古い建物の場合、完了検査を受けておらず、検査済証の発行がない物件が多いかと思います。
 検査済証がないままでは、大規模修繕のための確認申請を行うことはできません。そこで、まず現況の図面起こしから始めて、法適合状況の調査を行うことが必要になります。この手続きには、時間と費用がかなりかかります。

25年3月までに着工

 改正法施行からしばらくは、業界が大混乱することが予想されます。
 フルリノベを行おうにも、いつ着工できるか全くわからない状況に陥る可能性が高いことが懸念されています。
 25年4月以降の状況が不透明である以上、現時点での対応策は、3月中に着工する前提で計画を進めるということです。
 工事内容の検討と計画期間を考えると、タイムリミットが迫りつつあります。リノベの予定がある家主の皆さまには、急いで行動することをおすすめします。

住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)
高橋 彰代表取締役

全国で180社以上の工務店などと提携し、家主とのマッチングを中心に高気密・高断熱住宅に特化した住まいづくりのサポートサービスを提供。性能にこだわる建築家の紹介や、高断熱賃貸住宅プロジェクトサポートも手がける。東京大学大学院修了。現在、同大博士課程で高断熱木造建築について研究中。

(2024年11月号掲載)

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