木造建築にこだわって68年 多様なプランで土地活用を提案
人口減少により土地活用が難しい時代に入ってきている。そんな中、創業68年の木下工務店(東京都新宿区)は土地活用事業において木造建築にこだわりつつ、その地域のニーズに合った提案を地主に行う。同社が近年注力する土地活用提案と強みについて、宮城裕治取締役に話を聞いた。
木下工務店(東京都新宿区)
宮城裕治取締役(43)
自由度の高いガレージ付き賃貸住宅の提案増加
自由な発想で住める賃貸住宅 築年数たっても色あせない
木下工務店の土地活用事業部では、これまでアパートを中心に土地活用の提案を行ってきた。近年はアパート建築の比率が5割強で、ガレージ付き賃貸住宅や介護施設などが増えている。時代の流れと共に現れるニーズをくみ取り地域に合った建物を土地活用として提案している。
特に最近注力するのが、ガレージ付き賃貸住宅「Espace(エスパース)」だ。Espaceは、1階がガレージ、2階が居住空間となっている。一般の賃貸入居者のほか、セカンドハウスとして利用する車愛好家、また法人入居者にも対応することができる。「ガレージをただ駐車場として利用しているのは恐らく半数くらいではないでしょうか」と宮城取締役は話す。
ガレージを駐車場以外で活用するケースには、例えば筋力トレーニング器具を置いて、自宅で鍛える人がいたり、SOHOとして利用する人がいたりする。法人需要については、資材置き場とオフィスを兼ねて使う会社もあるという。
さらにこうした入居者の多様な利用法をヒントに、10月に東京都福生市でゴルフシミュレーター付きガレージハウスを完成させた。レッスンプロ向けに自宅の1階でインドアゴルフの練習ができるようにした。レッスンプロが場所代を別途支払わずにそこに生徒を呼んでレッスンをしたり、空いている時間は自身が練習したりする場所として使える。つまり、家賃がエリア相場と比較し割高に思えても、住戸・駐車場費・ゴルフレッスンなどの場所代がそれぞれ発生する状況を考えれば、入居者には高いコストパフォーマンスを発揮していることが分かる。
「賃貸住宅といえば、築年数が浅い物件ほど価値が高いと感じる傾向が強いでしょう。しかし、ガレージ付き賃貸住宅のように、住む人が自由な発想で利用できる空間があると、築年数がたっても色あせません。そこがこのEspaceの売りになっています」(宮城取締役)
Espaceは2018年に商品化し、これまで約300戸を供給。最近は月3〜4棟を受注している。ベーシックなプランは、1棟当たりが3〜4戸、1階のガレージと2階の1LDKで専有面積は約70㎡。自由設計のためプラン変更も可能。エリアとしては、東京都や神奈川県の郊外が多く、リゾート地にも建築する予定がある。リゾート地については、セカンドハウスとしての利用を想定。ガレージがあれば、マリンスポーツで使用する水上バイクやサーフボードなどを置くことができる。
あるいは、1階で入居者が作った商品を販売することも可能。SOHO可として入居者を募集することで、賃貸住宅の一部で商売をしたいというニーズも拾い上げることができる。ただ、ガレージ付き賃貸がいいといっても、人気があるものには類似商品が多く出てくるもの。そうすると、ガレージ付き賃貸が過当競争に巻き込まれて、家賃が下落する不安もある。
「当社として重視しているのは汎用(はんよう)性です。基本的に住宅の品質というのは当社の標準仕様で、リフォームでの対応が可能です。具体的には水回りはすべて2階にありますが、1階のガレージに床を張り、建具を入れてクローゼットも設置することで、居室に変更できます。そういうことも想定して設計しているのです」(宮城取締役)
品質を担保する専門職人集団 技術力と企画力で入居率99%
同社は1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)、大阪府、愛知県、宮城県、福岡県に拠点を置き、売り上げの7~8割が1都3県、2割が大阪府・愛知県、残りが新規進出した宮城県、福岡県などとなっている。
賃貸住宅については、竣工後に一括借り上げまたは一般管理受託をする。一括借り上げが全体の6割を占めている。管理は同社のグループ会社である木下の賃貸(同)が行う。管理戸数は2万5566戸あるが、木下工務店または木下不動産のグループ内物件に限定した場合の入居率は99・46%(24年3月末実績)だという。
この高い入居率を支えているのは、建物の企画力もさることながら、独自の「直営施工」システムの採用だ。重層下請けによる施工はせずに、木下工務店の社員監督が「キノシタ マイスタークラブ」の職人を直接手配・管理する。キノシタ マイスターズクラブとは専属職人集団で、現在300社以上が所属する。直営施工により、施工品質と予算管理の透明性を確保する。これによりコストバランスの良い住まいが提供できるのだという。
また、同社ではこれまでは中間マージンを減らすことでコスト削減を図っていきたいという理由から、直接営業にこだわってきた。「ただ現在は、品質面できちんとお客様に訴求できる上に、コストバランスも良いことから、金融機関からの紹介も増えています。倒産する会社もある中で、金融機関が安心して紹介できる建築会社というところで当社に白羽の矢が立っているのだと思います」(宮城取締役)
同社では、時代に合わせたさまざまな土地活用の提案ができるように、介護施設をはじめ療養施設にも進出。具体的には25年3月にホスピスが竣工予定だ。約350坪ほどの敷地で30床の規模のホスピスを計画している。保育園、グループホームも引き続き提案する。
今後も適切なイニシャルコストで用途にあった建築を可能にする木造建築を採用し、最適な価格で提供していく。
(2024年12月号掲載)
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