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- 【電子版連載】次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー:特別座談会(3)
「場のデザイン」から「共感不動産」を考える
【電子版連載】次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー:特別座談会(2)に続き、第二弾カレッジ「場のデザインから共感不動産を考える」を総括して、九州産業大学准教授・信濃康博氏 、スペースRデザイン・本田悠人氏、𠮷原勝己オーナーの3者で実施した座談会をレポートする。
***共感の質の変化***
――昔と今では共感の質も変わってきているような気がしますが、その点はいかがでしょうか?
信濃:共感の質が今と昔では全く異なっているように思える点は、非常に興味深いです。特に、SNSやデジタルコミュニティーの発達が大きな要因となって、人々がそれぞれの価値観や好みを持ち、一律のスタイルや感性ではなく、より多様な価値観に基づいて共感を感じるようになったというのは、現代のリノベーション文化とも深い関係があると思います。
昔の時代はファッションやデザインが一律に統一されることで、ある種の満足感や一体感が生まれていたのに対し、現在では「自分はこれが好き」「自分はこれを求めている」という個別の価値観が前面に出てきています。これは、80~90年代にかけて、バブル崩壊や平成の幕開けといった日本の社会的な変遷とも深く結びついていると感じます。
当時の日本は、経済成長とともに「上を目指す」という共通の目標を持ち、それが一体感を生む背景となっていました。しかし、その頂点に達したとき、社会全体として「次は何を目指すのか?」という問いが生まれ、自分自身のアイデンティティーや個性を再認識する時代に変わっていったように思います。この「個」を重視する考え方が広がっていく中で、リノベカルチャーは画一的な新築住宅とは異なる「自分らしさ」や「独自性」を求める動きと共鳴していったのでしょう。
𠮷原:リノベはただ古い建物を新しくするだけでなく、そこに込められた歴史や個性を再発見し、それを活かしながら現代的な価値を加えるというアプローチが生まれました。手垢がついた古いものが「味」や「個性」として再評価され、その独自性が共感を呼び起こすというのは、現代のリノベーションカルチャーの大きな魅力だと思います。
昔の共感というのは、みんなが同じことを一緒に楽しむ、ある種の「集団的な一体感」に基づいたものでした。現在の「共感」は、より個別の価値観に基づいたものになっているのです。個人が自分自身の価値観や生き方に目を向けるようになり、集団的な共感から、より小さな個別の「共感」にシフトしていったのではないかと思います。
信濃:そういう意味では、多くの「小さな共感コミュニティー」が乱立する時代が到来したと言えるかもしれません。SNSの発展により、趣味や価値観が似ている人々が集まり、特定の場所や空間、スタイルに共感を覚えるという現象が顕著になりました。例えば、チェーン店のカフェの雰囲気やそこで提供される飲み物が好きだという人々が集まり、その共通の感覚を共有するというのは典型的な例です。同じように、特定の地域や建物に住む人々が、共通の価値観やライフスタイルを持ち、そこに共感するという現象も見られます。
これが、かつての「一律の共感」とは異なる現代の共感の在り方です。昔の「集団的な一体感」に対して、今の共感は「タコツボ的」とも言える、より個別化された価値観に基づく共感です。こうした変化が、リノベや不動産デザインの考え方にも影響を与えているのだと思います。
本田:「みんなと同じものがかっこいい」という価値観が学校や社会全体にあった時代がありました。その中で「本当に自分が好きなものは何だろう?」と考える瞬間が、個々人の成長や価値観の変化につながっていった経験は多くの人に共通しているかもしれませんね。私自身も中学二年生の頃にそうした「長いものに巻かれるのをやめた」という選択をした瞬間が、一つの大きなターニングポイントだったと思います。
信濃:昔の共感は、まさに「みんなで同じ体験をすること」によるものでした。たとえば、みんなでスキーに行ったり、同じブランドの靴を履いたり、同じファッションを身に付けることで感じられる一体感がありました。仲間と同じものを共有することが「安心感」や「一体感」を生む源になっていたのです。
本田:しかし、今の共感は少し違う方向に進化しているのかもしれません。リノベ物件に住んでいる人たちが、直接会話をしていなくても、なんとなく「同じ価値観を持っている」と感じることができるのは、まさに現代の共感の新しい形だと思います。つまり、物理的な接触や一緒に体験する必要がなくても、同じ空間やスタイルを共有することで、暗黙の共感が生まれるという現象です。
これは、現代社会において「自分の価値観を共有してくれる人がどこかにいる」という安心感や、「自分らしさを大切にしながら、同じような感性を持つ人とつながれる」という考え方が広まっていることが背景にあると思います。SNSや情報技術の発展によって、人々は物理的な距離や直接のコミュニケーションなしでも、価値観を共有し、共感することが可能になっています。
この「相手がいなくても共感できる」というのは新しい共感の形であり、リノベ物件に住む人たちが感じる「なんとなくここが自分に合っている」「同じような感性の人が住んでいるだろう」という感覚は、まさにそれです。
昔は、集団で同じものを持ち、同じ体験をすることが共感の主流でしたが、今では多様性を前提とした共感が主流になりつつあります。この変化が、現代のリノベや不動産デザインの中で、個々の住む空間やライフスタイルにも反映されているのではないかと思います。
信濃:確かに、現代の共感の在り方は、昔と大きく変わってきていますね。昔は、みんなが同じものを持って、同じ体験をすることで、社会やコミュニティーの中での「仲間意識」や「安心感」を得ることが重要視されていました。例えば、冷蔵庫やテレビを持っていることがステータスであり、それがなければ仲間外れにされるという状況がありました。これは、一億総中流の時代に象徴される「みんなが同じ方向を目指して生きる」という価値観の中で成り立っていた共感です。
しかし現代では「大多数に同調すること」ではなく、「特定の少数派や特定のコミュニティーとつながること」が重要になってきています。SNSやスマートフォンがその手助けをしていて、物理的な接触や会話をせずとも、オンラインや特定の場所で「同じ価値観を持っているはずだ」という安心感が得られるようになっています。
「タコツボ共感」という表現はまさにその現象を的確に捉えています。少人数のコミュニティーや価値観を共有する人々とのつながりさえあれば、それで満足できる時代になったということです。
リノベ物件に住む人たちが、「直接会話はしなくても、ここに住んでいる他の人たちとは似た価値観を共有している」と感じることが、まさにこの「タコツボ共感」の典型例です。
面白いのは、「超マイノリティーにはなりたくないけれど、みんなと同じも嫌だ」という中間的な感覚が現代の共感の核になっている点です。ある程度の共感を持ちながらも、大多数には属さない独自の空間や価値観を求める動きが強まっているのです。
現代では、「みんなの共感」を得ることが目的ではなく、少数の「分かる人には分かる」という共感を求め、その中で安心感を得るという非常に個別的でパーソナルな共感が重視されています。これがリノベや空間デザインの分野でも重要な要素となり、特定の空間やスタイルが持つ「特別感」や「共感しやすさ」が新しい価値を生み出しているのだと思います。
(2025年2月公開)
次月公開の記事(4)へ続く
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