地域の価値を上げる定期借地を活用した住宅開発
不動産資産が多い地主は、相続が発生すると納税のために先祖から受け継いできた土地を売却せざるを得ず、手放すケースは多い。売却したことにより、街の景観が変わり、良くなるケースもあるがそうでないケースがあるのも事実。土地を守りつつエリアの価値を向上させることができる活用法を提案している会社がある。輸入建材の販売や住宅設備の卸を展開するボウクス(川崎市)だ。新しい土地活用について、同社の内海健太郎代表取締役(以下、内海代表)に話を聞いた。
ボウクス(川崎市)
内海健太郎代表取締役(57)
米国のような住宅地
東京の高級住宅地として知られる田園調布。東急電鉄東横線田園調布駅から14分ほど歩くと「ここは本当に日本なのか」と錯覚してしまうような光景が現れる。米国の町で見かけるような住宅が8戸立ち並び、植栽で緑があふれ、敷地内の標識も英語。初めて前を通る人たちは一度立ち止まるだろう。取材した時期が10月ということもあって、敷地内はハロウィーンの飾りで演出されていた。
「アメリカのような住宅建築をすることで、地域の価値を上げていきたい」。こう話すのはこの住宅開発「3C(スリーシー)」プロジェクトを手がけたボウクスの内海代表。3C自体は、土地を同社が購入して建築した後に売却している。だが今後内海代表が展開していきたいと考えているのは、同社が地主と定期借地契約を結び、その土地の上に住宅を建てて販売する定期借地権付き住宅販売だ。
相続が発生すると土地を手放す地主が多い中、受け継いできた土地を守り、地主であり続けたいと思う人にとっては、うまく引き継いでいける方法ではないかと考えたのだという。
米国ではリースホールドと呼ばれる定期借地権付き住宅販売が確立されていて、いわゆる分譲住宅販売のフリーホールドと並んで使われる販売方法だ。米国の住宅について学んできた内海代表は、「日本もリースホールドとフリーホールドをうまく使い分けていけば、地主にとっても地域にとってもいい結果になるのではないか」と考えた。
地主はお金を持っているとマンションを建て、お金がないと駐車場。あとは何もやらずに相続を迎える人もいる。相続して継承する立場になると、建物が立っていることと固定資産税、借金負担、これら三つのリスクを感じるだろう。内海代表はその点についても違和感を抱いていた。「相続税評価額を下げるため、つまり価値を下げるために借金をして建物を建てるのはどうなのかと思ったのです」(内海代表)
同社では、欧米において長年行われてきた住宅地の在り方であるTND(Traditional Neighborhood Development:トラディショナル・ネイバーフッド・デベロップメント:伝統的近隣住区開発)を活用した事業の一環として3Cを手がけた。TNDの手法によって、欧米並みの、資産として価値がある住宅地の実現を目指そうとしている。
「美しい街並みが住民に与える帰属意識とクラシックデザインの統一により、住宅地の価値が上昇し、その街並みが維持されます。それはいくつもの厳しいルールに基づき、住民全員の力で守り管理することにより、何年たっても変わらないのです」(内海代表)
ただ、自社で土地を取得して開発し分譲する手法では、次々に増やすことは難しい。そこで、地主に土地の資産価値を高めながら守る手法として、地主に対して、定期借地を提案しようとしているのだ。定期借地契約期間は米国のリースホールドにならって、99年を予定している。
近隣から感謝の声
3Cは9年前の2016年に土地を購入してプロジェクトが開始した。きっかけは、田園調布の自宅用地400坪が売りに出ていたこと。土地の売価はおよそ4億円。会社としては大きな決断が必要だった。
内海代表は15年前後から住宅地開発を構想し始めており、経理にどんなことがあるかわからないからと会社の内部留保を厚くするよう指示していたため、資金として4億円ほどあった。だが、会社としては大きな投資となることから、内海代表は悩んだ。
実はこの土地は金額もさることながら、起伏がある土地で、開発の難易度が高かった。最終的に購入の決め手となったのは、現在同社の社員で当時大学生だった長男・健人さんの後押しだ。 健人さんが17歳の時に米国の視察に同行させている。ラスベガスの住宅展示とロサンゼルスの郊外を、内海代表が師事する元NPO法人住宅生産性研究会理事長の戸谷英世氏の案内で回ったのち、親子のみでレンタカーでワシントンDCやメリーランド州のケントランズを視察。
そんな経験を持つ健人さんから「この起伏のある土地は、父さん以外の人がやったら単純なコンクリート擁壁になってしまうよね。アメリカではコンクリート擁壁を極力造らないようにするよね。父さんにしかできないんじゃない? やったら?」と言われて、火がつき決断した。
3Cをタウンハウスにした理由は地価が高いから。戸建てにすると1世帯あたりの地価の負担が大きいが、タウンハウスなら、隣との間隔を考えなくても有効に使えるスペースを増やすことができる。
3Cは建物着工が23年4月。同年10月から販売開始。24年7月に竣工した。販売価格は9980万円から1億4000万円台。購入者には留学経験のある人や、夫の仕事で米国に住んだことがある人など、米国に精通していた人が多かった。近隣の有名私立女子校に通う人の口コミやSNSなどで周知された。有名ブロガーに紹介されたことも影響した。
近隣住民からも好評。「こんないい住宅地を造ってもらえてうれしい」「エリアの資産価値が上がってありがたい」という声が寄せられているという。
このTND事業による住宅開発の肝は、ハード面だけではない。HOA(住宅地経営管理協会)と呼ばれる住民による自治組織があり、住宅の価値を守るための適切な維持管理や修繕を計画的に行う。ハード面の環境整備と併せて、ソフト面の規約を一元的に施行。全居住者が加入の義務を負い、住宅地経営に携わることで住宅資産価値の維持・向上を目指すのだという。
具体的には、景観をきれいに保つために、道路から見える照明は電球色に限っている。また洗濯物を外に干さない、自転車を家の前に止めっ放しは禁止などが規約にある。「住宅購入者にHOAへの加入のサインをもらうことが大事で、自治を守れるかどうかが重要。住んでいる人が街への帰属意識を持ち、街の価値を上げていこうと思うことが、大切なのです」(内海代表)
HOAによって、資産価値を意識している人が購入者として集まり、結果、その地域の資産価値が上がるのだ。同社は管理者として、販売後も関わる。地主にとっては、自身が投資しなくても、資産価値を高められる。
「日本は住宅を造るときに、自分の住宅のことしか考えないケースが大半。米国視察で学んだのは、想像していたよりも広い領域で、金融資産、環境、地域、教育も考えて住宅を造っていることです。日本にもこの考え方を導入して広めていきたいです」(内海代表)
(2025年 2月号掲載)
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