Focus~この人に聞く~:空き家化を防ぐ

賃貸経営福祉

住宅確保から居住支援への変化 空き家化を防ぎ地域の資産にする

 10月1日、改正住宅セーフティネット法が施行される。「オーナーの不安軽減策」「サポート付き住宅の供給」「地域と福祉との連携強化」の三つの柱を整備し、単身高齢者の受け入れ促進を図る。1988年より居住支援の最前線を走ってきた認定NPO法人抱樸(北九州市)の奥田知志理事長に改正のポイントと家主への影響を聞いた。

認定NPO法人抱樸(北九州市)
奥田知志理事長(61)

――今回の改正をどのように見ていますか。

 国土交通省と厚生労働省が共同で管理する法律になったことが象徴的です。今まで国交省は住宅というハード面、厚労省は福祉というソフト面と別々に担ってきたわけですが、今回一体化して進めることになったのは大きな一歩です。住宅確保から居住支援への変化だといえます。

――「居住サポート住宅の供給」が注目されています。

 見守り機能のあるサポート付き住宅の供給は「家族機能の社会化」です。家族の一番の役割は「気付きとつなぎ」。日常を共にしているからこそ変化に「気付く」。そして必要ならば制度に「つなぐ」。単身世帯の増加は、この家族機能が失われるということ。そうすると制度につながらない人が増え、孤独死のリスクも高まります。オーナーにとって、単身高齢者の受け入れに抵抗感を持つ理由はここにありますが、そのリスクの解消につながります。

――具体的にはどのように行うのですか?

 同改正法で想定している見守りは①ICT(情報通信技術)などによる安否確認②居住支援法人による訪問の二つです。そのため、まずは家主がパートナーとなる居住支援法人やNPOを探す必要があります。ですが、一番の問題はICT利用料や支援法人の人件費を誰が負担するのかという点です。現状はこの部分がクリアになっていません。公費を投入できないなら、入居者か家主のどちらかが負担することになります。しかし、生活保護受給者に扶助費から見守り費用を出せといっても無理でしょう。かといって、家主が全額負担していては賃貸経営が成り立たない。そこで、私はサブリース形式がビジネスモデルとして適していると思います。

――見守り支援付き住宅「プラザ抱樸」が当初とっていた形ですね。 

 2017年に50戸全て空室の築古ビルを当法人で借り上げました。その代わり3万~3万5000円の家賃を2万円に下げてもらう条件でした。北九州市の生活保護の住宅扶助費が2万9000円だったので、1戸につき9000円の差額が出ました。それを丸々サポートの人件費に充てられました。このスキームを使えば見守り費用負担の問題は解決できそうです。

――国はサポート付き住宅を10年間で10万戸まで増やすとしています。

 圧倒的に少ない目標でしょう。現在すでに、全世帯のうち38%が単身世帯です。国立社会保障・人口問題研究所(2024)によると、50年時点で男性の約6割、女性の約3割が生涯未婚者になります。70歳になったら周りに誰もいない、そんな高齢者が爆発的に増えます。改正法が施行されれば単身高齢者の住宅問題が解決できると思ったら間違いです。制度そのものが大事なのではありません。

――家主は背景を理解する必要がありますね。

 単身高齢者が増えた。でも家主は孤独死が発生して事故物件になるのが嫌だと考えるから、単身高齢者が入居できる物件がない。その問題をクリアするために、家族に代わって見守りをしてくれる居住支援法人がパートナーとして付けば、家主も安心して貸すことができるというのが、この改正法のポイントです。セーフティネット住宅として登録すれば、1戸につき50万円を上限として改修費の補助が出ますので、家主としては物件の価値を上げながら安心して単身高齢者に物件を貸し出せます。

――ただ、登録には新耐震基準に準じた建物であるなど条件があります。

 セーフティネット法にのっとるのであれば、条件に合致する必要はあります。しかし、制度を利用せずとも同じスキームを使ってサポート付き住宅を造ることはできます。要は、今回の改正はアイデアの一つなのです。人口が減る一方で、単身高齢者はどんどん増えていきます。そして、町じゅうには次々と新しい賃貸物件が建てられる。そうすると、築古の物件を所有する家主は何か仕掛けをしなければならない。その仕掛けの一つが、居住サポート付き住宅と考えられないでしょうか。

――慈善事業ではなく、賃貸経営としてもメリットがあるのですね。

 当然です。社会貢献といってもボランティアでは続かないですから。現代風にいうと、持続可能性がある。空室対策のために築古物件の建て替えを検討しようとなったときに、その古い物件のままでも、継続的に収入が得られて、社会的に意味のあるものに変えていけるということです。このスキームを使えば、家主は賃料を得られる、単身高齢者も入居先が見つかる、居住支援法人も活動できるという新しい社会構造が生まれます。

――空き家1000万戸時代の解決策ともなり得ますね。

 実際、使える地域資産はたくさんあると思います。資産といっても家主個人の資産運用という意味だけではありません。地域づくりや社会問題を解決するための「社会資源」です。今まで「住宅確保」として語られてきましたが、今回の改正法は「居住支援」です。住宅というハードをまちづくりの資産として活用できます。「まち」というのは子どもがいて、若者がいて、高齢者がいて、「ごちゃまぜ」なんです。そのごちゃまぜをつくっていくためには、地主や家主の持っている不動産の活用が不可欠となります。どんなにいい制度ができても、背景を理解した不動産オーナーの協力がなければ成り立たないのです。

(長谷川律佳)

奥田知志理事長プロフィール
1963年生まれ。90年、日本バプテスト連盟東八幡キリスト教会の牧師として北九州市へ赴任。以降、学生時代より行っていたホームレス支援を同地でも開始。2000年NPO法人抱樸を設立。

(2025年 4月号掲載)

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