【連載】欧米に学ぶ 土地活用のスタンダード:3回

賃貸経営歴史欧米に学ぶ 土地活用

英国で広がったリースホールド

地主となった英国貴族

 前回、日本の土地活用の現状を説明しましたので、今回は英国におけるリースホールド(定期借地権)について、歴史的な観点から話していきましょう。

 時は中世、イングランドは、侵攻して定住したアングロ・サクソン(英国人の主要構成民族)が大土地所有制における荘園経営で発展させた国とされています。さらにその領土を維持するため、国王から領地を与えられた王族や貴族が領主となり各地の統治が始まりました。このような領主を「荘園領主」といい、時には騎士、聖職者、裕福な商人も領主になり得ました。

 ライ麦、家畜からの乳製品や食物などを農奴に無報酬で生産させる代わりに、その領土内の荘園に住まわせました。荘園領主は、今では完全にパワーハラスメントの極みのような生活を農奴に強いて衣食住に必要な物資を得る一方で、王族へ上納していました。いわば現代における税金を生産物によって徴収していたというわけです。そのやり方で富を得たということは、相当に厳しい搾取をしたのではないかと考えられます。

 その後、月日が流れ人々は文明的に発展し、人道的な生き方を求めるようになりました。それに伴い、王族・貴族と農民・小作人の関係性にも変化が表れます。貴族らはこの土地の地主(Landlord:ランドロード)となり、領地を農民に貸し出して、そこで生産される「物での供与」から、販売で得た「貨幣での支払い」へと変化していったとされています。

 もちろん、英国の荘園領主が荘園経営を現代まで続けているわけではありません。その後、荘園領主は大土地所有者として、土地を賃貸に出すことにより自らが労働をせず地代という生産物を手に入れる方法を発見し富を築いてきました。まさにこれが、リースホールドの始まりとされています。

地主の生活変化と住宅形態

 「リースホールドの原型」を会得した地主たちの賢さは、これにとどまりません。彼らは、産業革命による都市的土地利用を積極的に進め、農業的土地利用で得る地代の数千倍もの収益を手にし、さらなる富を築くことに成功しました。

16世紀初頭の荘園と庭園で構成されるマナーハウス「エイヴベリー マナー&ガーデン」


 当時、地方に暮らす貴族や領主は普段生活する「下屋敷」と、ロンドンやエディンバラなどの都市部で生活する「上屋敷」を持つことが一般的でした。これは17世紀から19世紀にかけて見られた習慣で、貴族院(House of Lords:ハウス・オブ・ローズ)への出席、社交行事への参加、そして政治・経済活動のために都市部に滞在する必要があったことから発展したものです。

 領地経営の拠点となる住まいを「カントリーハウス(領国の家)」または「マナーハウス(荘園領主の館)」といいます。広大な土地に庭園(Garden:ガーデン)や公園(Park:パーク)といったイングリッシュガーデンを構え、邸にも多数の部屋や施設が設けられたいわば豪壮な館です。

イギリスのウェスト・サセックス州にあるカントリーハウス「アップパーク・ハウス&ガーデン」。17世紀に建造されたジョージアン様式の邸宅で「下屋敷」としての役割を担った

 一方で、仮装舞踏会や社交行事が行われる時期に都市で暮らすための下屋敷を“タウンハウス”といいます。これは、都市部でも戸建て感を味わうために上流階級向けに造られた住宅で、独立した住戸が隣地境界線に接し、連続して建てられているのが特徴です。なお似た形態に“テラス” (長屋)がありますが、これは多くの労働者のために建設された住宅です。タウンハウスとは異なり構造的な独立はしておらず、横に長い一つの建物を間仕切りした造りになっています。

 こうして貴族や領主は、主に春から夏にかけてロンドンに滞在し議会や社交活動に参加、秋から冬にかけて地方の下屋敷に戻り狩猟や領地の管理を行うという「二重生活」のために、上手に住まいを分けていたのです。

 ちなみに米国でもスタンダードな建築形態の一つである「タウンハウス」の語源も、まさにこの歴史に由来します。複数の住戸を一棟の邸宅のようにデザインしたことから、英国貴族の都市の下屋敷であるタウンハウスの名が採用されています。

 このように、時代とともに変化した地主の在り方・暮らし方は、建物や住宅そのものにも多大な影響を及ぼしました。英国では、リースホールドが確立していくにつれて、土地の恒久的な価値を維持する文化が定着していったのです。

 

ボウクス(川崎市)
内海健太郎 代表取締役

1967年、川崎市生まれ。92 年、父が経営する建材卸売事業者の内海資材(現ボウクス)に入社。94 年にキャン’エンタープライゼズ設立。2006 年、内海資材を事業継承し、ボウクスに社名変更。代表取締役に就任し、現在に至る。

(2025年 6月号掲載)

一覧に戻る

購読料金プランについて

アクセスランキング

≫ 一覧はこちら