借地が空き家になる?!

コラム永井ゆかりの刮目相待#連載

連載第94回 不可思議な借地権問題

増えつつある借地空き家

 都内の人気住宅地の一角に、そこだけ時代に取り残されたようにたたずむ古い家がある。ツタでぐるぐる巻かれている建物には、誰かが住んでいる様子はない。つまり、空き家だ。なぜ、こんな人気の住宅地に、解体されずそのまま残っているのか、疑問に思う人は少なくないだろう。そう、借地権問題がこじれて放置されている家なのだ。

 「『借地空き家』になったら、地主は大変です」

 先日、借地権問題を解消するアドバイザーとして活動するユーシンウィル(東京都江戸川区)の園部正也社長は、真剣なまなざしで借地権問題の末路を語った。借地空き家とは、借地人の高齢化と建物の老朽化により発生するのだという。

 旧借地法時代から現在まで、土地を貸している地主の中には借地権の問題を抱えている人が少なくない。

 借地権の最も厄介なところは、権利が消失しにくいことだろう。借地人が亡くなると、借地権は相続される。だが、その借地人に親族がいなかった場合、借地権は宙に浮く。借地権が残っている限り、地主は、土地にはもちろん、建物にすら手が付けられないのに、地代は入ってこない。老朽化した空き家は崩壊の危険があるため、近所から苦情が寄せられるが、地主にはどうしようもない。

タダでは返ってこない

 実は宙に浮いた借地権を解消することはできる。だが、そのためには、地主が家庭裁判所に予納金100万円を払って、申し立てをし、家裁に相続財産清算人を選任してもらわなければならないのだ。

 しかし、借地権を解消できても、建物の所有権は地主にない。そのため、次に、家裁に建物収去土地明け渡しの訴訟を起こすか許可を取らなければならない。その後、相続財産清算人から借地権を買い取ることになる。手間がかかるうえにタダでは返ってこない。

 こうなるともう、「地代も土地もいらないから、そのままにさせてくれ」と地主が思ってしまうのもわからなくはない。「土地を貸しただけなのに」、いや、「親切心で土地を貸してあげたはずなのに、なんという仕打ちだ」とまで思っているのではないだろうか。実際、前出の園部社長によると、所有している底地(借地権が付いた所有地)4筆分が借地人不在の状態になり、放置している地主もいるという。ただし、そうなると最後、誰も手が付けられない空き家が増えていく。それが借地空き家の実態なのだという。

 権利関係が難しく複雑な借地権問題は、私にとっては不可思議そのもの。問題が起きないと、着手しない地主。こんな大きな問題をはらんでいるというのに、そのことに気づいていないのだろうか。その状況は、まるで「ゆでガエル」。借地権問題に関する相談は借地人からのほうが多いというが、本当に困るのは地主だ。

 借地権に限らず、面倒な問題、特に権利関係が絡む問題は先延ばしにせず、早めに対処することが重要だろう。

永井ゆかり

永井ゆかり

Profile:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。

(2025年 7月号掲載)

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