東京下町ならではの相撲部屋付き賃貸住宅

土地活用店舗

地主の挑戦:前編

非住宅事業を拡大中 ジム経営が物件の価値を上げる

東京の下町、墨田区で4代目として不動産事業を引き継ぐエイゼン(東京都墨田区)の片桐拓弥社長。同社は元々、曽祖父と祖父の時代から受け継ぐ長屋や借地を中心に賃貸事業を行ってきた。現在は、フィットネスやコインランドリーなどさまざまな事業を展開。賃貸事業との相乗効果を生みながら非住宅事業を拡大しつつ、個性ある物件で地域に新たな住民を呼び込んでいる。

エイゼン(東京都墨田区)
片桐拓弥社長(43)

▲父親が取得した数多くの特許権を背景に

ネットニュースで話題沸騰 「相撲部屋付き」賃貸物件

 東京下町のシンボル、東京スカイツリーのお膝元墨田区文花地区。この地に一風変わった賃貸物件がある。その名も「“相撲部屋がある”シェアハウス&ワンルーム クリエイティブハウス文花」だ。
 1階から3階が押尾川部屋とない2〜3階の一部と4階が11戸のシェアハウス。5〜6階が10戸のワンルームマンションから成るこの物件は、2022年にエイゼンの片桐拓弥社長が企画・竣工した。竣工後は、その独特なコンセプトが話題になり、多くのネットニュースや雑誌に取り上げられた。


 相撲ファンが入居したほか、iU情報経営イノベーション専門職大学と千葉大学の墨田サテライトキャンパスが徒歩2分の場所にあることから、学生や留学生のニーズをつかんで満室経営中だ。
「朝稽古の見学はもちろん、相撲部屋主催のちゃんこ会など独自のイベントを開催しています。学生でも社会人でも、日常生活で関わる相手というのはおのずと決まってきます。ですが、この物件では、普通の賃貸生活では関わることのできない力士との交流を通して、特別な体験をすることができます」(片桐社長)

築90年超の長屋の建て替え 不燃化計画が背中押す

 エイゼンは墨田区を中心におよそ5000坪近くの土地を所有。その土地でシェアハウス4棟、長屋11棟、底地120筆を所有・管理している。そのほか、トランクルーム8店舗、無人運営のフィットネスジム3店舗、コインランドリー4店舗などさまざまな事業を展開。それに加えて、グループホーム1施設、保育園1施設、民泊1戸も経営する。これらの賃料収入を合わせた事業全体の売り上げは約3億円だ。
 現在、4代目として経営に携わる片桐社長は家業に参画するため13年に入社。日本画というアートの分野に進んでいた片桐社長だが「片桐家の長男としていつかは家業を継ぐ日が来る」という気持ちは持っていたという。
 当初は不動産賃貸事業ではなく、その頃父親が行っていた自動販売機事業の営業を手伝った。だが、墨田区で「木密地域不燃化10年プロジェクト」が始まったことで、片桐家が多く所有する木造長屋について考える機会を得た。同プロジェクトは墨田区北部地域の中でも特に地域危険度の高い京島地区周辺において、都の補助制度を活用した建て替えを促進するものだ。
 当時全部で20棟あった長屋は曽祖父が建てたもので、すでに築100年近かった。建て替えを検討するに余りある年数がたっていた。補助制度を利用できるのであれば、渡りに船だった。

▲長屋のあった土地に建てられた高齢者施設

 

片桐家、その歴史

越後3人衆と呼ばれた曾祖父 初代と2代目で土地を拡大

 片桐家が墨田区に土地を所有することになったきっかけは、1923年に起きた関東大震災だった。
 「曽祖父の片桐與蔵は、新潟県出身でした。農家の次男坊だったので、家業を継ぐことはできず新潟で大工をしていたようです」と片桐社長は話す。
関東大震災の発生により、人々は家を失った。くしくも大工の與蔵にとっては、大きなチャンスでもあった。震災の翌年、上京してきた與蔵は、墨田区京島2、3丁目を中心に次々と土地を入手し、長屋を建設していった。
 当時、墨田区京島地区には與蔵のほかにも大工の深井豊吉と材木屋の深井国太郎が新潟から移住してきていた。土地を入手し、長屋を建てる3人は「越後3人衆」と呼ばれていたそうだ。およそ10年の間に約20棟100戸の長屋を建てた與蔵は35年に、事業を法人化。片桐永全合資会社を設立した。
 戦後の46年には息子の吉蔵が社長に就任。2代目は、長屋ではなく戸建て住宅に着手した。土地に戸建てを作り、借地権付き建物として販売することで底地を120筆にまでひろげていった。「片桐家の土地は初代と2代目によって拡大しました。3代目である私の父と私の代では受け継いだ土地の活用と、賃貸事業以外の事業の柱をつくることに注力していきました」(片桐社長)
 父、茂夫氏は建築の道には進まず、長年、大手メーカーにて企画・設計に携わってきた。2002年、家業を継ぐため退職したことをきっかけに、社名をエイゼンに変更。3代目が目指したのは、受け継いだ不動産の拡大ではなく、別事業の展開だった。
 04年には日本マシンサービス(東京都墨田区)を設立。自動販売機事業を開始した。社員証をかざすと1日に1本、無料で飲める「ワンドリンク自販機」や販売する飲料を人気投票で決められる「リクエスト自販機」など、特許技術を多数開発した。1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)のオフィスにオリジナルの自販機を設置し、管理する事業を拡大する傍ら、戻ってきた底地を利用してコインランドリー事業やコインパーキング事業を行うなど家業の柱を増やしていった。

 

(2025年7月号掲載)
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