法改正で縮小された4号特例を解説

法律・トラブル不動産関連制度#連載

建築家が教える法令改正 第3回

法改正で縮小された「4号特例」 審査省略制度の対象範囲が変更へ

 これまで多くの2階建て木造アパートが分類されてきた「4号建築物」。構造関係規定などの審査が省略されてきましたが、法改正により建物の分類が変更になりました。今回はこの4号建築物とその改正について説明します。

今回のポイント

4号建築物からの分類の変更に注意、より正確な構造計算が可能に
 これまで審査省略の恩恵を受けていた4号建築物だが、一方で欠陥住宅も増えていた。法改正で審査の必要とされる物件は増加するものの、より実情に合った構造計算が可能になることで、建物の安全性は向上するだろう。

 

4号特例が改正された背景

 4月の法改正以前は、4号建築物は違反建築の温床とされてきました。建築基準法の「4号特例」と呼ばれる審査省略制度により、構造計算書の提出が免除され、建築確認や審査などの一部が省略されてきたためです。しかし、欠陥住宅の被害者が訴訟を起こしても、この制度により裁判では不利になることもあり、日本弁護士連合会(東京都千代田区)から何度も法規制の是正を求める提議がなされてきました。

 また省エネルギー基準への適合義務化を受け、ソーラーパネルの屋根への設置や大量の断熱材の使用による建物重量の増加も、改正の一因と思われます。

改正前の構造計算の実態

 以前の4号建築物に対する規定は、規模が小さい建物において、確認申請を受理した審査機関がその審査を省略するというものでした。耐力壁の確保といった構造規定については、建築士である設計者を信用し、規定に従って正しく計算されていることを前提としていたのです。

 過去にはこれを悪用して、例えば道路面に駐車場と玄関の開口が並ぶような建物の場合、耐力壁が必要にもかかわらず「壁量計算」を行わずに確認済証を取得する、という不正が多くありました。室内空間を広く見せたい、魅力ある間取りの建売住宅を売りたいという作り手の一方的な理由で、誠実な対応を行わない事業者も後を絶ちませんでした。

※国土交通省の資料を基に地主と家主で作成

 構造計算書の偽造事件、いわゆる姉歯事件が2005年に起こり、06年に各建設会社に自主調査が求められた結果、あるハウスビルダーがグループ企業全体で681棟の強度不足の違法建築を申告し、下請けの設計事務所に所属する1級建築士複数人が処分された事件も発生しています。

新2号・新3号建築物に分類

 今回の法改正でまず変更になったのが建築物の定義です。2階建ての建築物は新2号建築物としての分類となりました。ただし、新2号に変更になった建築物のうち300㎡以下のものについては、今後も壁量計算での設計が認められます。そして、平屋かつ延べ床面積200㎡以下の建物のみが審査省略制度の対象となる新3号として分類されました。

 具体的な変更は以下のようになります。

 建築基準法施行令の規定では、必要な量の筋交いなどの耐力壁がバランスよく配置されていなければなりません。そこで、4号建築物であった木造アパートについては、壁量計算が求められていました。これは、「床面積あたり」「建物全体の見付け面積(立面図で正面から見た面積)」に対して「係数」を掛けた数字の分だけ耐力壁があるかどうかを、簡易的に確認するものです。同時に、建物の外周4分の1にどれだけの耐力壁があるかの検討も行います。そしてこの係数は「屋根が重いか、軽いか・壁の重量が大きいか、小さいか」の合計4パターンしかありませんでした。

 これが法改正により、ソーラーパネルの有無や屋根・外壁の種類などでより細かい区分に分類され、係数が15パターン以上に増えました。より実態に近い構造検討ができるようになったのです。

 また準耐力壁(窓の上部や下部などにしか壁がない部分)についても計算に入れることが可能になりました。これにより、不本意な位置に入れるほかなかった壁を減らし、間取りの自由度が高まります。

 ただ、いずれの場合にも耐力壁が適切に機能するためには、規定どおりのビス打ちやくぎ打ちが前提になります。計算書だけクリアしている建築になっていないか、現場の監理が重要です。

正確な計算を行い、トータルで収支を考える

 2025年度中に着工する物件については、旧基準で設計することが認められます。しかし、より正確に計算するためにも、できる限り新基準を使用した設計で建築することをおすすめします。本来であれば2階建てアパートでも、正式な構造計算である許容応力度計算を行うことが望ましいのは言うまでもありません。

 構造に予算をかけても収益には直結しませんが、地震に耐える建物は所有者自身と入居者の命や財産を守ることになります。私は東京の依頼者から「地震保険が高すぎるがどうすべきか」と相談を受けたとき、「私ならば入りません。周囲の建物より安全に造っています」と答えています。長期的な視点から収支を考えてみてはいかがでしょうか。


一級建築士事務所 向井建築設計事務所(東京都江戸川区)

向井一郎所長(57)

賃貸アパート・マンション専門の設計事務所を経営。土地探しから企画・設計、監理まで全段階で建築主に寄り添う1級建築士。設備設計1級建築士の資格も保有している。入居者募集にも積極的に関与し、募集用の図面作成、完成写真の提供などで家賃と入居率のアップに協力。

(2025年 7月号掲載)

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