福岡の地場大手薬局チェーン、不動産収益は年間2億円超

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本業と不動産経営のシナジーを考える

百年企業の地場大手薬局チェーン
博多駅前の本社ビルは満室経営

 大賀薬局(福岡市)は1902(明治35)年に創業した福岡県の地場大手薬局チェーン。5代目の大賀崇浩社長の下、調剤薬局の新規出店を増やしている。2023年秋には在宅調剤センターを新設。今後も同センターの開設を構想しており、ニーズがあれば建物の一部をテナント貸しする考えだ。このほか本社が入るビルも満室経営となっている。

大賀薬局(福岡市)
大賀崇浩社長(43)

不動産収益は年間2億円強

 大賀薬局は現在、福岡県を中心に九州6県で調剤薬局92店舗、ドラッグストア・調剤薬局併設店17店舗、ドラッグストア8店舗など合計121店舗を展開する。

 同社の不動産収益は年間で2億1100万円ほど。複数のクリニックと同社の調剤薬局が併設するいわゆる医療モールやメディカルビルを福岡市近郊を中心に県内で10カ所程度展開しており、そこで家賃収入が発生している。それぞれの土地は自社所有と賃借の両方があり、1施設あたりの規模は敷地面積で約2500㎡ほどだ。

同社が展開する調剤薬局


 このほかの所有不動産は本社が入る「大賀博多駅前ビル」と旧本社跡地(約170坪)。旧本社跡地は、福岡市内の中心繁華街である天神エリアに隣接する大名地区という好立地から、コインパーキング事業者に貸し出している。

本社ビルは立地と割安賃料が人気

 本業の薬局展開の傍ら、メインの不動産収益は大賀博多駅前ビルから得ている。

 大賀社長の祖父母の時代に取得した土地に立つ同ビルは、敷地面積約600㎡でSRC造の地上7階建て。竣工は93年9月で築30年を超えているが、大賀社長が「メンテナンスは続けてきました」と言うように古さは感じない。2基あるエレベーターも入れ替えている。基準階面積は約337㎡、延べ床面積は約3093㎡で、本社が使う3〜4階以外を賃貸している。

 家賃は1坪あたり1万4000円。九州の玄関口ともいわれるJR博多駅から徒歩6分という立地のために人気が高く、現在は満室だ。退去があってもすぐに埋まるという。

 同ビル全体では月に約850万円の賃料収入がある。大賀社長によれば家賃は周辺相場よりも安い。

 福岡市内は近年、繁華街での再開発が盛んだ。博多駅周辺と並ぶ繁華街である天神エリアでは、1坪あたり3万円台という賃料も見受けられるため、同ビルの賃料は割安感があると思われる。大賀社長は「家賃の値上げをお願いすることはこれまでありましたが、大幅に上げることはしてきていません」と語る。

在宅調剤センター用建物の一部をテナント貸し

 また2023年11月には、同市の西部に複数の介護施設向けの「福岡早良在宅調剤センター」を開設した。従来は施設に近い薬局がそれぞれ行っていた調剤を同センターに集約させたものだ。その一角を賃貸しているという。

23年11月にオープンした福岡早良在宅調剤センター


 同センターは福岡市内でも人口が多い早良区内で、なおかつ介護施設が多いエリアに立地する。敷地面積は約1710㎡、建物は2階建てで延べ床面積は約1045㎡。自社グループの訪問看護ステーションや動物専門調剤薬局も併設している。当初は1階で自社のドラッグストアの運営を予定していたが、広さが足りなかったため、テナント貸ししてコンビニエンスストアと菓子店が入居している。

 また2階の一部を歯科クリニックにも貸し出している。現在、同センターは高稼働しており、将来的には同市の東部や近郊での新設も検討していくという。「その際にニーズがあれば、同センターと同様に建物の一部を賃貸することも考えられます」と大賀社長は語る。

24年9月期年商は前期比10%増の346億円

 大賀薬局は現在、5代目となる大賀社長が率いている。

 17年の社長就任以来、約40店の調剤薬局を新規出店するなどして店舗網を拡大してきた。この7年間で売上高は約1・5倍、営業利益と経常利益はそれぞれ約5倍になったという。

【過去5期実績】大賀薬局の単体売上高と店舗数の推移※1億円以下は切り捨て


 直近の24年9月期の売上高は前期比約10%増の346億5800万円(グループ連結)だった。出店を抑えていたドラッグストアが2%増収だったのに対して、全体の増収をけん引したのはここでも調剤薬局だ。

 近年は全国で薬不足の状況が見られるが、同社は仕入れ強化と在庫不足の防止に努めてきた。23年3月に福岡市内に調剤向けの物流センターを新設。24年秋までに収容量を当初の4倍にし、品薄傾向の医薬品を全店分ストックできるようにした。大賀社長は「医師やお客さまに『大賀薬局には在庫がある』と認識され、信頼を得られたことが大きいと思います」と語る。

薬局業界の環境厳しくも
不動産収入に安心感

 100年以上続く歴史を受け継ぎ、地元の薬局チェーンとして地域に親しまれている大賀薬局。自社オリジナルキャラクターが「残薬問題」を啓発したり、福岡県内の病院の小児病棟を訪れてクリスマスプレゼントを寄贈したりするなど、企業の社会的責任を果たす取り組みにも力を入れる。

 本業は順調だが、業界全体を見渡せば、医療機関のそばにある「門前薬局」から「かかりつけ薬局」制度の推進といった流れや薬価改定への対応も必要になり、環境は厳しさを増している。

 大賀社長は「調剤薬局は、インフルエンザや花粉症などの流行の具合によって患者数が年度ごとで変わりますし、医師の高齢化によるクリニックの閉院もあります。また保険ビジネスであるために薬価や診療報酬は細かく決められており、毎年国の方針で変わります。つまり、なかなか売り上げや利益が安定しない側面があります」と話す。そんな環境下で、今後も企業を健全に経営するために、不動産収入は支えになっているという。「不動産は一定の収入が見込めるため、本業の利益が読めない中で経営に安心感を持つことができます」(大賀社長)

立地選定の肝は外来出入り口からの近さ
 かかりつけ薬局制度が推進されている中でも、実際はいまだに門前薬局を開こうとするニーズは根強いという。大賀社長は次のように語る。

 「どの調剤薬局チェーンも同様だと思いますが、例えば病院やクリニックの新規開業に合わせて出店する場合、まずは市場調査をします。そのエリアの人口と年齢層に加えて、どの診療科が足りないかなどを調べるのです。駐車場が何台分確保できるのかも優位性につながってきますが、最も重視するのは、病院やクリニックからの距離です。外来の出入り口からより近いほうが望ましいです」

 たとえ隣り合った薬局でも、出入り口に近いほうが、売り上げが倍になることもあるのだとか。またこれは、病院の新規開業に限らず、移転や建て替えに伴って薬局の出店場所を探す際にも当てはまるという。

 「地域の中核病院の老朽化に伴う移転、建て替えが全国各地で計画されていると思います。新たに建つ病院の外来の出入り口に近いところは、薬局チェーンにとっては非常に価値が高い場所です」(大賀社長)

 

本社が入るほか他社にも区画を貸し出している大賀博多駅前ビル

会社概要

大賀薬局
創 業:1902年
資本金:5000万円
従業員:1469人(パート・アルバイト含む。このうち薬剤師577人)
※2024年10月末時点
事業内容:医薬品・化粧品・化粧雑貨・生活雑貨の小売り、処方箋調剤
店 舗 数:121店舗(調剤薬局92店舗、ドラッグストア・調剤薬局併設店17店舗、ドラッグストア8店舗、化粧品専門店4店舗)
※2025年5月現在
グループ会社:大賀商事/M Market Agency(エムマーケットエージェンシー)/大賀ウェルネスサポートクルー/オーガクルーリンク/オーガーデン/オーガメディカルスマート/さわやかファーマシー

 

沿革

1902年 福岡県筑紫野市二日市で創業
1909年 薬種商免許を取得
1927年 現在の福岡市の天神エリアで薬品卸問屋開業
1962年1月 本格的な調剤施設を持つ店舗を天神の大型オフィスビル内に開設
1990年5月 九州初となる大規模ドラッグストアを福岡市近郊に開設
2013年7月 同市博多区の既存のドラッグストア・調剤薬局併設店を大手コンビニエンスストアと連携しリニューアル
2017年9月 大賀崇浩社長(5代目)が就任


(2025年7月号掲載)

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