<<不動産市場で光るプレーヤー>>
築古中小ビルを借り上げてリノベで再生
ビルオーナーに建て替え以外の選択肢を提示
東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の中小ビルをメインに、空きテナントを借り上げてリノベーションし、入居者募集から管理までを一括して行うのがテナワンだ。2011年に初めて日本橋の築古ビルを再生して以降、その事例は30余りに及ぶ。建築費や人件費の高騰により、建て替えがますます難しくなる中、同社の手法は中小ビルにとって新たな選択肢となり得る。
テナワン(東京都港区)
石田竜一社長

都心の中小ビルは「鉱山」 価値付けで宝に変わる
東京メトロ日比谷線六本木駅から徒歩10分弱、首都高に面した角地に9階建ての早野ビルが立つ。4、6階の一部と7、9階そして屋上をテナワンが借り上げリノベ、そして転貸している。7階ではシェアオフィス「テイショク西麻布」を運営中。5~11人程度(11~31㎡)の小規模オフィス7室のほかに、共用のキッチン付きラウンジ、会議室、ルーフトップを備えている。
「このフロアは当社が17年に借り上げ、およそ2000万円かけてスケルトンからリノベしたフロアです。築60年の物件ながら、賃料は周辺相場以上に設定できています」とテナワンの石田竜一社長は話す。
7階はかつて住居だったものの10年以上も放置された状態だった。西麻布という都心で需要の多い立地でありながら、何の収益も生み出していなかった。だが、シェアオフィスへのリノベ以降は満室経営を続けている。
「都心の築古の中小ビルには、こうしたかつて住居として使用していたものを含め、長期にわたって空室になっているフロアが多くあります」(石田社長)
そのように長期空室のまま放置される理由の一つが「建物の寿命がどれくらいなのかわからない中、リノベに大金を投じるのが怖い」とオーナーが感じるためだという。
そのため、石田社長はまずはこのオーナーの意識と建物の性能のギャップを埋める必要があると考える。
「一般的に、オーナーが考える建物の寿命は50~60年。ですが、国土交通省の研究報告によるとRC造であれば120年程度持たせることができます」(石田社長)
そこで「リノベによって100年収益を生み出せるビル造りを」というのが同社の提案だ。

ビルの価値付けには屋上の利用も有効だという
ただし、単に古くなった部分を表層的にきれいにするだけではテナント付けは難しい。
「いわゆる、見た目がおしゃれなだけのオフィスは供給過多。そのビルの立地や条件を考えながら時代に即した使い方ができるようにアップデートする必要があります」(石田社長)
しかし、多くのビルオーナーは多額のリノベ投資をためらいがちだ。そこで同社での借り上げビル再生事業の出番となる。オーナーからビル1棟あるいは一部フロアを借り上げることを前提に、リノベを行いその後の管理・運営までを一括で行う。そのためリノベ工事費のオーナー負担はゼロだ。
「確かに、借り上げ時にオーナーに入る賃料自体は相場賃料よりは低くなります。ですが、当社が手がけるのはそもそも収益を生んでいなかった『困りごと』物件。手出しゼロでリノベができ、賃料が入ってくると考えれば、十分、選択肢の一つとなるでしょう」(石田社長)
借り上げの契約はおよそ7~11年。契約終了後は入居テナントを含め、そのままオーナーに引き継ぐことが可能だ。
今後の金利上昇を考える 建て替えよりもリノベに軍配
石田社長がリノベによって100年収益を生み出せるビル作りをと考える理由はもう一つある。それが建築費の高騰だ。
「実際に、築古ビルのオーナーから『銀行に建て替えを勧められている。これを機に建て替えたほうがいいだろうか』という相談を受けたことがあります。建て替えれば、確かに修繕費や空室といった問題は解決できますし、何より融資を受けることで相続税の節税につながります。一見、いい選択肢に思えるのです」(石田社長)
同社の試算によると、建て替え前と同規模のビルを建築する場合、1坪あたりの建築費はおよそ200万円。一方、リノベの場合は50万円となる。

Before

After テイショク西麻布の共用部
また今後起こり得る金利上昇の局面もリノベ再生というトレンドへの追い風になると考える。
「結局、一番賃料を高く設定できるのは建て替えではあります。ですが、返済後の手残りの金額を考えるとリノベが最も経済的合理性のある選択肢になってくるでしょう」(石田社長)
建築費の高騰と金利上昇を考えると、特に都心では1坪あたり2万円の賃料が取れる物件でない限り、建て替えのメリットはないと石田社長はいう。そうであれば、埋もれた資産となっているフロアに新たな価値を付けることで、築古ビルの寿命を延ばすアイデアが今後は注目されていくだろう。

(2026年4月号掲載)






