里山宿に見る地域資源の再生手法 ―JR四国

賃貸経営不動産再生

<<リノベ再生プロジェクト>>

遍路の通過点が“滞在地”に変わる
里山宿に見る地域資産の再生手法

鉄道会社が、空き家を宿に変えている。JR四国が展開する宿泊ブランド「4S STAY」は、沿線や地域に点在する既存不動産を改修し、宿泊施設として運営する取り組みだ。本業である鉄道とは異なる領域に見えるが、その背景には人の移動に依存しない収益構造への転換と、地域資産の再活用という狙いがある。

ストック不動産を活用

 JR四国が、地方に点在する古民家や空き家を改修し、宿泊施設として運用する取り組みを進めている。対象は新築ではなく、既存の住宅や長屋、店舗といったストック不動産だ。「空き家等再生事業」と称されるこの事業には、建物が持つ雰囲気や地域性を残しながら再生するという特徴がある。

 施設は徳島県三好市を第1号に、香川県高松市や同県さぬき市へと展開。現在6棟が稼働している。年間1〜3棟のペースで開発を進め、2030年度までに20棟の運営を目指している。

 事業の基本構造は、オーナーとJR四国が賃貸借契約を結び、同社が改修投資と運営を担う形だ。宿泊収入がJR四国の売り上げとなり、オーナーは賃料収入を得る。施設は無人運営を基本としながら、清掃や緊急時の駆け付けを地域の事業者や個人に委託。予約や決済はオンラインで完結するため、現地での人的負担は限定的に抑えられている。

 改修費は物件規模によって異なるが、複数客室型で約3500万円、一棟貸しでは1500万〜2000万円が目安とされる。事業開発本部の森田雅祐担当部長は「30〜40%の稼働率でもキャッシュアウトしない前提で計画を組んでいます」と話す。

 物件は自治体や不動産会社、設計事務所などからの紹介に加え、近年は所有者からの直接相談も増えているという。

▲四季を感じる一棟貸しの宿「鈴音by 4S STAY」

 

開業がもたらした変化

 さぬき市に、25年10月に開業した「鈴音 by 4S STAY」は、不動産会社からの紹介により開発された一棟貸しの宿である。前山ダムを望む里山エリアに位置し、四国遍路の札所を結ぶ道中にあるが、従来はお遍路の通過点としての利用が中心で、観光地としての広がりは限定的だった。

 施設は1LDKの構成で、寝室に加えてリビングやダイニングを設け、滞在そのものを楽しめる設計としている。窓の配置にも工夫を凝らし、山並みや四季の変化を室内から感じられる空間とした。最大収容人数は5人、宿泊費は1室あたり3万3000~3万6000円に設定されている。

 

 この施設の開業によって、地域の動きにも変化が見られた。事業開発本部の戸梶美里主席は「もともと観光客との接点が少なかったエリアでしたが、宿泊者が訪れるようになると地元住民が積極的に声をかけ、会話を交わす場面が増えました」と話す。さらに、地域側がSNSを活用して情報発信を行い、ファミリー層など新たな来訪者の呼び込みにもつながっている。宿泊者との対話を通じてニーズを把握し、それを地域のサービスに反映する動きも見られるようになった。通過点に過ぎなかった場所が、滞在先として認識され始めている。

試行から事業化への転換

 この取り組みは、インバウンド需要を見据えて京都で簡易宿所を運営したことに始まる。現地で運営ノウハウを蓄積し、それを四国へ展開する構想だったが、体制が整わず約1年で撤退することとなった。

 一方で、三好市では古民家を活用した宿泊施設の開発が進められていた。1号店は自治体から紹介された物件を改修したもので、畳中心の空間を生かしつつ、水回りを整備した。宿泊単価は1室あたり約1万4000円である。

 2号店は元呉服店の長屋を改修し、メゾネット型の客室を設けた。各室に水回りを備え、高価格帯の宿として設計されている。

 転機となったのは新型コロナウイルス禍だ。鉄道利用が減少する中で、新たな収益源を確保する必要性が高まり、この宿泊事業が再評価された。需要回復時に比較的早く収益改善が見られたことから、撤退ではなく拡大へと方針が転換され、空き家等再生事業として位置付けられるに至った。

拠点拡大とネットワーク化

 今後は四国内に宿泊拠点を点在させ、複数拠点を回遊する滞在スタイルの構築が想定されている。立地は都市部に限らず、山間部や沿岸部など地域特性の異なる場所に分散配置することで、多様な滞在体験を提供する。

 さらに、複数拠点を活用したサブスクリプション型の滞在や、移動手段と組み合わせたサービス展開も検討されている。拠点数の増加に伴い、個別施設ではなくネットワークとして価値を生み出す段階へと移行していく見通しだ。既存不動産の活用は、立地条件だけで評価されるものではなくなりつつある。

(2026年6月号掲載)

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