オーナーと設計士の協力で利益・価値を最大化

土地活用賃貸住宅

<<新築物語>>

隣地買い取りで道路に面したエントランスを実現
オーナーと設計士の協力で利益・価値を最大化させる

簡易防音や使いやすい設備 メリハリある投資にこだわる

 大阪市都島区に立つ1月竣工の5階建てRC造マンション「S.Field KANADE」。52~58㎡の3LDKを中心とした全20戸の物件だ。

 立地は抜群。大阪メトロ谷町線の野江内代駅から徒歩6分、JRおおさか東線JR野江駅より徒歩12分、そして京阪電気鉄道京阪本線野江駅から徒歩13分と3線利用することができる。「碁盤の目のように鉄道が通っている大阪市内の中でも、3線利用可能な立地はそれだけで大きな魅力」と佐野征茂オーナーは胸を張る。

佐野征茂オーナー(大阪府交野市)

 


 同マンションの平均家賃は17万2000円と近隣の家賃水準より3割程度高いが、1月末の竣工から1カ月足らずですでに半分ほどが入居中だ。

 「管理会社から提案された家賃に1万5000円プラスした金額を設定しました。19万3000円と高く設定した部屋を含めて順調に入居が決まっています」(佐野オーナー)

 大きな訴求ポイントは簡易防音。ハイグレードの防音物件には若干及ばないものの、楽器の音が隣戸にほぼ聞こえない程度の性能を実現した。

 基本的にRC造はほかの構造よりも遮音性能が高いが、さらに角部屋に簡易防音を施したという。壁や床に防音素材を追加した部屋は、ドアを閉めた後に外に漏れる音を30デシベル減らすことができた。グランドピアノは90デシベルほどだが、これが約60デシベルになる。60デシベルは静かな乗用車内くらいの音量である。これを4~5畳の1部屋にかかる上乗せコスト約15万~20万円で実現した。

▲角部屋には簡易防音を施している


 設備面では、トータルコストを予算内に抑えつつ、上品なデザインのものを選択。ただし、入居者に好まれる部分は最新式のものや等級の高いアイテムを採用している。

 例えば、宅配ボックス兼ポストは専用アプリを入れたスマートフォンと共に入居者が近づくと自動で開くタイプを採用。外壁の正面はタイル張り、さらにアップライトピアノも乗せられる9人乗りのエレベーターなど、入居の決め手になるようなハイグレードな設備が目を引く。

 居室は使いやすさを追求した。キッチン、洗面にはスライド収納を設け、インターホン受信機は大きい7インチの画面を採用。また〝目に見えない〟ところにもこだわった。全戸に10Gの高速インターネットを導入し、ゴミ回収はマンション用に特別に事業者を手配したため地域のごみ出しルールを気にする必要もないという。

 「機能面を優先して設備を選んだ形ですが、LDKの出入り口だけは高級感のあるガラス扉でメリハリをつけました。目立つところに見た目がいいものを使うことで、部屋全体の雰囲気アップにつながります。1戸につきプラス3万円かかりましたが、やってよかったと思います」(佐野オーナー)

 

「隣地を買ってはいかがでしょうか」

 実はこの物件、設計図面を一から作り直した経緯がある。それは、当初は道路に面した位置にエントランスを作れなかったからだ。佐野オーナーは、建物の顔は道路に面していたほうが格好良く、利便性も高いと考えていた。その旨を設計士である向井建築設計事務所の向井一郎氏に相談すると、返事は驚くべきものだった。

 「『隣地を買ってはいかがでしょうか』と提案されたのです。なるほど、隣地には2戸の連棟長屋がありました。築年も古く、タイミングが合えば譲ってもらえるかもしれません。敷地を広くするアイデアはなかったのですが、お願いしてみようと考えました」(佐野オーナー)

 連棟長屋2戸のうち1戸売ってもらえればエントランスを正面に配置できる。物件側の長屋は空き家となっていたため、佐野オーナーは住人が掃除に来たタイミングでまずあいさつ。他愛ない世間話から関係を築いていった。「いつ売ってほしいと切り出そう」と思っていたところ奇跡が起きた。住人の側から「維持費もかかるしもう売ろうと思っている」と話し出したのだ。すぐに「それなら私に売ってください」と応えた佐野オーナー。すぐに価格などの交渉に入ることができ、住民も「知っている人と取引したほうが安心」とかえって喜ばれたという。

▲買い取った連棟長屋。敷地が広くなり、カーシェアリングと広い駐輪場を実現


 査定を行い、更地の場合の最高価格に上乗せする形で合意に至った。加えて、解体は佐野オーナー側で行うので現状渡しという条件である。

 「感謝の気持ちから高めの金額をお示ししました。ただ、土地を売ってもらえればマンションのエントランスは正面になる。今後の価値向上を考えれば私の側からみてもお買い得な条件でした」(佐野オーナー)

 最初はこの1戸だけを購入したいと思っていた佐野オーナー。連棟長屋を切り離す工事が必要となるので、その件でさらにその隣にあいさつに出向いた。

 佐野オーナーは「お隣にマンションを建てることになりました。ご迷惑をおかけすることになり申し訳ありませんが切り離しに同意をお願いします」と頼みに行った。すると、切り離した後をしっかり外観をカバーするという条件であっさり許可をもらえたという。

 だが、ここで事件は起きる。いざ長屋を調べてみると、小規模地震でも倒壊する可能性の高い造りだと判明したのだ。

 ここで佐野オーナーは向井氏に相談。購入するのがベストと判断して2人で現地に出向いた。

 「非常に危険な建物と判明したので、あなたを危険にさらすわけにはいかない。買い取らせてもらえませんか」と交渉。最初は取り付く島もなかったのだが、事前に用意した危険な箇所の写真や資料を見るうち、住人の気持ちは徐々に変わっていった。翌日になり「危険なことが分かり、売却してもいいと気持ちが変わってきた」と連絡が入ったという。住人の心を動かしたのは、躯体や界壁が傷み、専門家でない人にも明らかに危険性が分かる画像だった。

 「画像をお見せすることで的確に伝えられてよかったです」(佐野オーナー)

 そこからは佐野オーナーが丁寧に説明を重ねていった。ちょうど住人の家の法事のタイミングと重なったため、親族と話す機会にも恵まれたという。佐野オーナーは住人の転居先を探すなど手を尽くした。

 「ご本人や親族には、古い物件なので、先々への心配が元々あったようでした。『この機会に整理できてよかった』と言ってもらえて本当に良かったと思いました」(佐野オーナー)

 実は佐野オーナーは町会長を務めるなど、近隣住民からも知られた存在である。これまでエリアのために働いてきた信頼があったのだ。こういった〝つながり〟も不動産の取引を気持ちよく進められた大きな要因だ。

 これにより、当初の狙い通りエントランスを道路に面した場所に配置することができた。さらに、マンション横にスペースができたため、佐野オーナーは大きな駐輪場を造ることにした。その結果、子ども乗せ電動自転車や、大事な高級自転車をゆったり止めることができるようになった。一連の流れでデザイン性も利便性も大きく向上。隣地買い取りにかかった金額以上の価値が生まれた瞬間だった。


 この隣地買い取りでは、思わぬ収穫がもう1つあった。それは、住人がこの辺りで腕のいい工務店を紹介してくれたことだ。

 「設計段階ではまだ、施工事業者が確定していませんでした。数社に見積もりを依頼していましたが、紹介された新宅工務店は良心的な価格で建材の質も担当者の知識も抜群だったのです。そのため建設も管理もすべて依頼することにしました。紹介してくれた住人は『ふと思いついて、何の意図もなく伝えた』と話していましたが本当に感謝しています」(佐野オーナー)

 エントランスを正面に、というオーナーのこだわりが設計者から隣地買取のアイデアを引き出し、それがきっかけで建設会社も決まる。不思議な縁に恵まれたマンション建設となった。

カーシェアリングサービスを導入

佐野オーナーは隣地買収でできたスペースにカーシェアリングサービスも誘致した。近隣住民が誰でも使えるもので、とりわけ入居者が便利に使ってくれればという思いからだったという。「たまに物件の様子を見に来ますが、車が使われていることが多くてうれしくなります」(佐野オーナー)

▲入居者や住民の生活に密着したサービスを導入した

 

ニーズをくみ取り入居者の満足度を上げる

 元々ここは佐野オーナーの祖父が住んでいた場所だった。思い出深い場所にマンションを建てるにあたって、佐野オーナーには「入居者に利便性・快適性を存分に提供したい」との強い思いがあったという。

 そこで、防音性が高い、ファミリータイプ、いずれも供給が少ない物件を造ったところ、音楽愛好家のみならず、テレワークの多いビジネスパーソンや赤ちゃんの泣き声を気にする家族など多くの需要があることがわかった。入居者から選ばれることもまた、家主としての報酬だ。

 「建物のすべてを最高級にするのではなく、あえて入居者が喜ぶ設備に絞ってお金をかけることで、入居可能な家賃帯を実現できたと思います。便利な立地と高い防音性能による住み心地の良さを感じてもらえたらうれしいです」(佐野オーナー)

▲佐野オーナーは向井氏に感謝している

(2026年6月号掲載)

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