<<注目の相続対策>>
賃貸住宅を対象とした不動産管理型信託
相続対策時の認知症リスクにも対応
相続対策を講じる中で、家族がもめずに引き継げるか不安に思う人は少なくない。また高齢になってからの新築は借り入れの問題があるうえに、認知症を発症するリスクもある。こうした悩みに対して、積水ハウスグループの積水ハウス信託は信託を活用した解決策を提案している。
積水ハウス信託(東京都渋谷区)
森近功生社長

次世代の相続にも有効
財産を子どもたちに平等に残したい。そう思う親は多いだろう。だが、保有している最大の財産は土地活用している賃貸住宅1棟で、ほかに金融資産はそれでは多くは持っていないというケースもある。そうなると「子どもたちに平等に―」といっても難しくなる。とはいえ、将来のトラブルの種になる不動産の共有は避けたい。そんな不安を解消するのが信託を活用した相続対策だ。
地主のAさんは、70代半ば。自分が元気なうちに古くなったアパートを建て替えようと考えていた。Aさんの最大の悩みは、3人の娘への財産の残し方だった。3人のうち次女と三女の2人は未婚で子どもがいない。
悩んでいた時に、信託の仕組みを知った。信託であれば、Aさん自身に相続が発生した後、賃貸住宅を共有名義という形を取らずに、娘3人に収益を分けることができる。さらに、未婚の2人が亡くなった後の財産は、長女の子ども、つまりAさんの孫へ等分に引き継ぐと指定することが可能だ。Aさんは、新築した賃貸住宅について、積水ハウス信託に信託する契約を締結。Aさんの相続への不安が解消されたという。
「オーナー様がアパートの建設を検討する際に抱く希望や不安、懸念、特に家族の課題を解決するために『どうしたいか、どうして欲しいか』を法律の言葉で書き換えたのが信託契約なのです」と話すのは、積水ハウス信託の森近功生社長だ。
同社が提供する信託は「不動産管理型信託」。不動産管理型信託とは、委託者が信頼できる受託者に財産(不動産)の権利を移転し、一定の目的に従って財産管理や処分を任せる信託方法の1つ。財産を増やす「運用型信託」とは異なる。同社の管理型信託の仕組みは次のとおり。(図1参照)
まず、委託者である賃貸住宅のオーナーと受託者である同社が信託契約を締結。次に賃貸住宅の所有権を受託者となる同社に移転し、同社は賃貸住宅の管理・運営を行う。受益者となるオーナーは賃料収入から諸経費を引いた「配当」を受託者から受け取る。
不動産管理型信託の場合、財産の所有権を移転するといっても、登記簿には「信託」と記載され、受託者はこの財産を自分のものとして使えない。信託契約で定められた契約期間が満了した後は、土地・建物は委託者が指定した人(親族が多い、その時の受益者)にそのまま返還される。

固定資産税の支払いを行う
不動産管理型信託のメリットは、主に4つある。
1つ目は、煩雑な管理業務からの解放。信託契約によりオーナーの建物の所有権が積水ハウス信託に移転するため、オーナーは固定資産税の支払い、エアコンの修理、入居者の募集といった日常的な不動産管理業務から解放される。
2つ目は相続・財産承継の柔軟な実現。オーナーの死後、誰が財産を引き継ぐべきか、受益権の移る先の指定を信託契約により忠実に実行することが保証される。冒頭に紹介したAさんのように、民法では不可能な「次の次」の世代(孫世代)への財産承継も信託契約で実現可能だ。
また例えば、配偶者に対し売却や解約を禁止する特約を付与し、次の受益者に売却権を与えるなど、個別のニーズに応じて自由に権利を指定できる。そのため、知的障害がある子どもの将来を考えて、アパートを持った場合、子どもの代わりに不動産管理を信託会社に代行させることが可能となる。
3つ目は認知症対策の独自機能。これは他社にはない同社独自の取り組みで、オーナーが認知症になり口座が凍結されても、信託財産からオーナーの施設費用や医療費を支払う仕組みを導入している。この仕組みは同社が金融庁に掛け合って実現した。オーナーの判断能力が低下した際にも生活に必要な費用を信託口座から引き出せるので家族も安心できる。
4つ目の融資に関する支援もまた同社独自の取り組みだ。信託を用いてアパート建築を行う際にネックの1つに融資の問題がある。信託契約によって銀行側が「誰に貸しているのか」という融資の軸が定まりにくくなるためだ。その問題を解消するために同社では、独立行政法人住宅金融支援機構と協業。担保融資ではなく事業収支を根拠とする信託を活用したアパート建築に「責任限定事業性融資」の枠組みを確立した。この融資は最長40年の固定金利で提供される。
新規受託は年間100件
信託契約後の相続財産については、積水ハウス信託が所有権を持っていても、税務署は受益者であるオーナーの資産とみなすため、相続税は受益者またはその承継者が対象となり、オーナーの相続効果に変わりはない。同社は建物の管理・運営をするうえでさまざまな手続きを行う窓口という役割だ。
同社の信託受託数は近年、増加傾向にあり、年間で80件程度のペースで増えている。
「新築時に信託契約を検討するオーナーが9割ほどを占めますが、既存のアパートを信託に依頼されるケースもあります。というのも、主に相続対策の観点から80歳くらいで新築する人が多いですが、築10年たって90歳に誰かに代わってほしいという現実があります。建築後に信託を検討するようです」と森近社長は話す。
管理全般を積水ハウスグループが担うことで適切な修繕計画を実行し、50年、60年先を見据えた運用に努める。
(2026年7月号掲載)






