<<人脈と世界が広がる馬主道>>
第6回 お金の話③ 〜相続・贈与に馬という選択肢
経営者としての腕を磨く馬主活動
資産と能力を次世代につなぐ
今回は「相続・贈与」をテーマに、競走馬という資産の活用について、実務の視点から解説していく。
不動産オーナーにとって、相続は避けて通れないテーマだ。資産を増やしていけばいくほど、相続税の問題は現実的かつ深刻になっていく。特に日本の税制では、現金や不動産といった「見える資産」はそのまま評価されやすく、対策を講じなければ多額の税負担が発生する可能性がある。
実際、多くの不動産オーナーが「資産はあるが現金がない」という状態に陥り、相続時に物件を売却せざるを得ない人も少なくない。つまり、相続は単なる税金の問題ではなく、「事業の継続性」に直結する重要な経営課題でもある。その中で、まだあまり知られていないが、有効な戦略カードの1つになり得るのが「馬」だ。

馬主にはさまざまな特典があり、馬主協会の研修旅行もその1つ
馬は相続税評価額を抑える
競走馬は税務上、「事業用動産」として扱われる。事業用動産は、不動産とは評価の方法や取り扱いが大きく異なる資産だ。ここに相続対策としての大きな可能性がある。
まず理解しておきたいのは、競走馬の評価基準は一律ではないという点だ。不動産であれば、路線価や固定資産税評価額など、ある程度明確な評価基準が存在する。しかし、馬の場合は、年齢、性別、血統、競走成績、健康状態、用途(競走馬か繁殖馬か)などによって、その価値は大きく変動する。そして馬は「購入価格=評価額」にはならないケースが多い。
例えば、若い競走馬として高額で購入したとしても、数年後には帳簿価額が下がり、税務上の評価額は低くなる。その一方で、競走成績が優秀であれば、帳簿価額が下がっていても、市場価値としては上昇が期待できるのだ。このように帳簿価額と「実際の市場価値」に乖離(かいり)がある点が、馬という資産の特徴だ。
この、帳簿価額を抑えつつ、実態としては価値を維持、あるいは向上させることができるという性質は、相続対策において非常に有効である。
帳簿価額ゼロでも残る価値
さらに、馬は「新たな資産を生み出す存在」でもある。例えば、1頭の繁殖牝馬が毎年子馬を産めば、その子馬が新たな資産となる。成長した子馬が競走馬となり、レースで活躍すれば、賞金収入や売却益につながる。活躍により血統全体の価値が高まれば、繁殖牝馬とその子馬たちがより大きな価値を持つ可能性もある。
馬の所有は単なる資産保有ではなく、このような「資産の連鎖」を生み出すのだ。これは資産形成において、よりダイナミックな成長性を持っているといえる。
そして帳簿価額がゼロになった馬でも、繁殖入りで再び価値を持つケースがある点も重要だ。競走馬としての役割を終えた後でも、繁殖馬として新たな役割を担うことができる。この「価値の再定義」ができる点は、ほかの資産にはない特徴だといえる。

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次世代の経営教育にも有効
贈与の観点から見ても、馬は柔軟性の高い資産である。仮に現金をそのまま贈与すれば、当然ながらその金額に応じて贈与税が課される。しかし、馬という形にして贈与すれば、評価額を低めに抑えることができる。これにより税金をコントロールしつつ、次世代に資産を引き継げる可能性があるのだ。
そして贈与という形で、若い競走馬や繁殖牝馬を自身の子どもや後継者に移転することは、馬主としての事業そのものを引き継ぐことになる。これは法人化や持ち株会社のスキームと似ているが、馬主活動は、より感覚的に理解でき、実践しやすい。つまり馬主活動そのものが「経営教育」になるのだ。
馬主は、どの馬を購入するか、どの厩舎に預けるか、どのレースに出走させるか、いつ引退させるかなど、常に意思決定を求められる。そしてその結果が、短期間で明確に現れる。この意思決定の連続は、まさに経営そのものである。
不動産経営においても意思決定は重要だが、そのサイクルは比較的長い。一方で馬は、数カ月単位、場合によっては数週間単位で結果が出る。この高速回転するPDCAは、経営者としての判断力を大きく鍛えることになる。
馬を通じて次世代に引き継げるのは資産だけではない。「経営感覚」「意思決定力」「リスクとの向き合い方」といった、目に見えない重要な力も同時に引き継ぐことができるのだ。これは、単なる相続対策を超えた価値だといえる。
組み合わせで強い資産を構築
もちろん、馬にはリスクもある。けがや病気、成績不振といった不確実性は常に存在する。しかしそれは、不動産における空室や修繕、価格下落と同じく、事業として向き合うべきリスクだ。それらのリスクを前提として、事業を設計することが重要である。
長期安定型の不動産と、短期回転型の馬を組み合わせることで、「時間軸の違う」資産を構成することができる。このバランスを取ることで、より強い資産ポートフォリオを構築することが可能になるのだ。
私はこれまで、不動産と馬の両方を事業として取り組んできたが、その中で強く感じているのは、馬は単なるロマンではなく、極めて合理的な資産であるということだ。そして何より、面白い。
この「面白さ」は軽視されがちだが、実は非常に重要なのだ。人は興味があることにしか本気になれない。次世代に資産を引き継ぐのであれば、後継者がその資産に対して興味を持ち、自ら考え、行動できる状態をつくることが不可欠だ。その意味で、馬は非常に優れた資産である。
まとめ
相続や贈与というと、どうしても節税テクニックに目が向きがちだ。しかし、その本質は「資産をどう引き継ぎ、どう成長させるか」である。相続対策は守るだけではなく「次世代にどう成長させるか」という視点が重要となる。そこに、馬という選択肢を取り入れると、可能性は大きく広がる。
次回は、補助金や事業展開の可能性などを具体的に解説していきたい。

(2026年8月号掲載)






