会社を持続させるための鍵は「変化」するマインド ―エイ・アンド・エイチ

土地活用その他建物

<<オーナーの哲学>>

ホテル経営からコスプレイベント開催まで
会社を持続させるための鍵は「変化」するマインド

埼玉県を拠点にビジネスホテル3棟の運営に加えて、イベント事業やフードサービス事業などを多角的に展開しているエイ・アンド・エイチ。同社の橋本和久社長は、父から相続した土地に独自ブランドのホテルを建築し、ホテル事業を開始した。その後ホテルの運営だけにこだわらず「変化できる会社だけが残る」という信念の下、これまで約30年間、新たな事業にチャレンジしてきた。


エイ・アンド・エイチ(さいたま市)
橋本和久社長
立教大学社会学部観光学科卒業後、ヤナセに入社。輸入車の販売業務に10年携わる。その後32歳でエイ・アンド・エイチを設立。相続した土地にホテルを建設。埼玉県ホテル旅館生活衛生同業組合副理事長兼専務理事。大宮ホテル旅館組合組合長。自ら一般社団法人新文化観光経済振興機構を設立し、サブカルチャーを軸に観光資源の創出や地域活性化に取り組んでいる。カフェFCやドローンショー事業も手掛ける。

相続した駐車場を活用 自社ホテルからFCへ

 さいたま市にあるイベントの聖地「GMOアリーナさいたま」の最寄り駅、JR京浜東北線さいたま新都心駅の周辺は、オフィスや商業施設が立ち並ぶエリアだ。同駅から歩いて8分程度の場所に橋本社長が経営する「アパホテルさいたま新都心駅北」がある。

 「父が亡くなってから10年後の1995年、相続した約300坪の土地の、まずは半分を活用する形で竣工しました」(橋本社長)

 代々所有していた土地を生かして駐車場経営を行っていた橋本社長の父親は、橋本社長が大学を卒業したわずか1年後の85年に急逝してしまった。

 当時、自動車販売会社の営業担当者として勤務していた橋本社長だったが、もともと大学時代に観光学科に在籍していたため、いずれ土地活用をするならホテル事業と最初から決めていた。しかし、相続から10年間は父と同じように駐車場として経営。その後、地元の青年会議所とのつながりでゼネコン関係者を紹介され、ホテル着工に至った。

 竣工当初は独自ブランドとして経営を始めた。有名なホテルチェーンの名を冠しているわけではないうえに、まださいたま新都心駅ができる以前の話だ。最寄りの大宮駅からは徒歩10分以上かかるという立地の弱さもあり、宿泊料を大宮駅周辺のホテルより500~1000円安い7000円前後に設定することで、なんとか稼働率を85%程度にキープしていた。

 「いつかは有名ブランドのフランチャイズチェーン(FC)に加入したい」。そう思っていた橋本社長に転機が訪れたのは2011年のことだった。全国ホテルチェーンとして有名なアパホテルから、ある日突然連絡があったのだ。「パートナー契約をしませんか」という提案の電話だった。これは既存のホテルのままアパホテルの予約システムを活用する仕組みで、FCとは異なるが、橋本社長はこの提案をすぐに受け入れ、以後約4年間にわたりパートナー契約で運営を続けた。

▲相続した駐車場に建てた1棟目のホテル

 その効果ははっきり数字に表れた。客室単価は2〜3割上昇し、稼働率も安定して90%超を維持できるようになった。橋本社長は「やはりブランドの力は大きい」と実感。そこで、15年にはアパ本部のFC加盟を決心すると同時に、残り半分の土地を使って別館の建設にも踏み切った。圧倒的な知名度を持つブランド下での経営ならリスクは低いと感じたからだ。100室の増室で1室あたり900万円、総額およそ10億円をかけて別館を建設した。

 さらに19年には、同じ埼玉県内でも西部エリアの東松山市に2棟目をオープンさせた。「アパホテル埼玉東松山駅前」は土地から購入して建設した8階建て128室で、1室1000万円、合計13億円ほどの建築費となった。

 橋本社長はホテル経営において、1室あたりの建築コストと平均客室単価のバランスを1つの指標にしている。

 「それこそ一昔前なら1室600万円くらいで建てられたため、客室単価は6000~7000円でも成立していました。しかし、今の相場で建てると1室1400万~1500万円かかってしまいます。つまり建築コストは2倍以上になっていますが、単価はそんなに上げられません」(橋本社長)

 アパホテル埼玉東松山駅前の場合、着工当時はすでに建築コストは上昇していたものの、まだ今ほど高くはなっていなかった。そのうえ、周辺には工業団地があり出張需要を見込めた。安定した客室単価をキープできるだろうという点に勝算を見いだして新築に踏み切った。

 「建てたのは今から7年前でしたので、ギリギリ建築コストに見合う時代に造ることができました。また期待したとおりに工業団地を訪れる出張者の需要が多く、おかげで相場どおりの平均単価8000円前後を維持できています」(橋本社長)

 3棟目の「アパホテル埼玉秩父駅前」は新築ではなく、63室の中古ホテルを購入してリノベーションを施し25年にオープンした。建築コストはまさに上昇の一途をたどっており、さすがに新築でのホテル建設は難しい時代に入ったと感じた結果の判断だった。

  「アパグループの元谷一志社長から紹介してもらった物件です。アパ仕様にするために改築の必要はありましたが、1部屋600万円、総額4億円弱で仕上げられる見積もりだったので、開業に踏み切りました」(橋本社長)

▲アパホテル埼玉秩父駅前の開業セレモニー

 このようにホテル事業はリノベでも数億円、新築なら10億円レベルの初期投資費用がかかるため、橋本社長はホテルの新規オープンの際、融資の金利は1%程度に抑えている。さらに重視しているのが融資期間だ。30年以上の長い融資期間を設定しているという。

 ホテル事業はまた、人件費や維持費といった固定費の負担も重い。その結果として、利益が出ていても返済に資金を取られ、手元にキャッシュが残りにくい状況に陥りやすい。そこで返済期間を長期に設定することで毎月の返済額を抑え、キャッシュアウトを軽減するのだ。

 「建物は減価償却があります。実際の支出を伴わない費用を計上できるため、課税所得を抑えられる。そのうえで返済額もコントロールすることで、手元資金を厚くしています」(橋本社長)

 このように、これまで新規のホテル開業においては緻密な収支シミュレーションを行ってきた橋本社長だが、実は開業に踏み切るか否かの最終決断は「縁」だったという。

 「もちろん事業計画は作りますが、正直なところ計画なんて『絵に描いた餅』だと思っています。それよりも、信頼できる人からの紹介や、複数のルートから同じ案件が来るような『縁』のほうを重視しています」(橋本社長)

 実際、東松山の案件も大学時代の先輩と銀行の両方から同時に話が来たことで「これは縁がある」と判断して投資したのだった。

キーワードは「推し活」 マスよりコアに訴求する

 現在、エイ・アンド・エイチではこの3棟のホテルの経営を事業の柱に据えているが、実はこれ以外にも2つの事業にチャレンジしている。その1つが22年に始めたイベント事業だ。

 きっかけは、ある時、イベント開催の集客力のすごさを目の当たりにしたことだった。世の中がまだ新型コロナウイルス下の自粛ムードから抜け出せていない中、GMOアリーナさいたまでeスポーツ大会の決勝戦が行われた。2万5000席がすぐに売り切れるという人気イベントだった。

 「このイベント開催時には10㎞ほど離れた岩槻駅のホテルまで満室になったと聞いて、eスポーツは人を呼べると確信したのです」(橋本社長)

 以前より、さいたま市には「宿泊してでも訪れたい」と思わせる観光資源がないことを課題と感じていた橋本社長。eスポーツ大会の招致は、ホテル事業との親和性も高いと踏んだ。その後は、駅前のショッピングモールの巨大スクリーンでeスポーツ大会の決勝を中継するなどのイベントを仕掛けていった。

 イベント招致を通して、橋本社長は「これからはマスよりコアへの訴求が重要」という気付きを得た。その「コア」とは「推し活」つまり何かを熱烈に応援する層だ。

 「コロナ下を振り返ってみても世間では自粛ムードが漂う中、推し活をする人は移動もするし、ホテルにも宿泊していました。これからの時代は“新文化”、要するにサブカルチャーが重要になってくるでしょう」(橋本社長)

 そこで、橋本社長が現在関わっているのがさいたま市を舞台にしたコスプレイベントだ。26年6月には、同社主催のコスプレイベントを開催した。

 推し活の研究はホテル経営にも大いに役立てているという。例えば、東京都内中心部の「東京ドーム」や国立代々木競技場第一体育館でイベントがある時、その周辺ホテルの値段は高くなる。そうすると、若いファンたちは多少遠くても安ければ、同社のホテルがあるさいたま新都心駅付近にまで泊まりに来る。時間をかけて移動することに抵抗がないのだ。一方で、ファン層の年齢が高くてお金を持っているケースであれば、イベント会場に近いことが最優先になる。室料が高くても会場近くのホテルから埋まる。橋本社長はこのように、推し活の客層ごとの動きを見ながら販売しているという。

 また通常、ホテル経営においては、客室単価と稼働率を掛け合わせて計算する「RevPAR(レブパー)」と呼ばれる指標が重視される。少しでも空室期間を減らしながら、全体の売り上げを伸ばすためだ。しかし橋本社長はあえて違う見方をしているという。

 「私が一番見ているのはシンプルに『客室単価』です。結局は売り上げと経費、利益のバランスなので『このイベントではこの単価が取れた』という感覚のほうが重要だと思います。ホテルに宿泊する人は基本的にイベントやライブに参加します。若い客層が来るようなイベントでは単価が伸びにくい一方で、富裕層が来るイベントだと室料が高くても売れる。そういう肌感覚です。客室単価は出演するアーティストやファン層によってかなり変わります。これは私なりの『結構正確などんぶり勘定』です(笑)」(橋本社長)

 

推し活をする社員に手当 全国のアイデアを経営に反映

 幅広い層(マス)を狙うビジネスはすでにレッドオーシャン。それならばコア、つまり推し活をするファンの心に火を付け経済活動を活発化させることが大事だと考える橋本社長は、社員への福利厚生もユニークな制度を取り入れている。それが「推し活手当」だ。

 「推し活で発見したそれぞれの地域の取り組みや、いいと思うサービスを持ち帰ってもらっています。当社の経営に推し活による成果を反映してもらうのです」と橋本社長はそのユニークな取り組みを説明する。

 ちなみに橋本社長自身も宝塚歌劇団とオペラの推し活をしているということで「私が率先して推し活をしているので気持ちがよくわかる」のだそうだ。

 

ホテルの開業が難しい時代 2本目の柱となるフード事業


25年からは飲食事業にも進出している。

 「これだけ建築コストが上がってしまったので、今後ホテル事業では相当なチャンスが来ない限り、少なくとも新築には手を出さないと決めています」(橋本社長)
しかし待っているだけでは会社として成長することはできない。そこで、本業とシナジーのあるサービス事業に挑戦し始めたのだ。

 「不動産の動きはゆっくりのため、『ゼロ』から『イチ』を生み出すのは時間がかかり、無駄も多い。その隙間を埋めるためには、フードサービス事業などで名の通ったFCに加盟することが効率的だと考えました。世の中には数えきれないくらいのFCがありますが、知名度のあるブランドに加盟することは安心感につながると感じています」(橋本社長)

 そこでまず「カフェ・ベローチェ」のFCに加盟した。

 「ただし、フードサービスは人手不足が問題。この点、カウンターで受け渡しをするカフェ業態であれば、フロア接客の人件費が抑えられると考えました」(橋本社長)

 さらに、つい先日には世界的なサンドイッチチェーンの「サブウェイ」に加盟した。

 「サブウェイは利用者の7割がテイクアウトですので、さらに人手不足によるリスクが抑えられると判断しました。また利用者との接点が少ないと、いわゆる『カスタマーハラスメント』の心配もそれだけ減ると思っています。現在、テナントを探しているところですが店舗の坪数も15~20坪ほどと、35~40坪必要なカフェに比べて小ぶりなテナントで運営できます。そのため2店、3店と拡大させていきたいです」(橋本社長)

▲カフェ・ベローチェ2店舗目はモール内に出店

ダーウィンの進化論は 会社経営にも当てはまる

 今から30年前、父から相続した土地に独自ブランドの小さなホテルを建設したことから始まった橋本社長のエイ・アンド・エイチ。同社はブランド力のあるホテル3棟の運営に加えて、さまざまなイベント事業の開催、そしてフードサービス事業の展開へと大きく発展し、また変化してきた。

 「変化がないのが怖いのです。強い者や頭のいい者が残るのではなくて、変化をする者が残ると言われますが、これは会社においても同じこと。常に変化していかないと」と『進化論』にあるダーウィンの言葉を引き合いに出して橋本社長は言葉を強める。

 新たな観光資源としての推し活を掲げたのも、変化を求める気概からだろう。

 「埼玉県のさいたま市と川越市、そして秩父市は観光協会が連携協定を結んでいます。それを生かした施策を打ち出してほしいとは思っているのですが、どうしても既存の観光資源を巡るスタンプラリーのような無難なものになりがちなのです。もちろん歴史や伝統を重んじることは大切ですが、その先に革新がなければいけないと思います」(橋本社長)

 変化を続け、チャレンジし続けている一方で、橋本社長は昔、先輩の経営者に言われたことを胸に刻んでいる。

 「先輩からは『屏風と商売は広げすぎると倒れやすい』と言われたのです。挑戦は必要ですが、時には急いで動きすぎることで失敗することもある。ただ、大事なのは失敗したと思った時にすぐ撤退できるかどうかでしょう」(橋本社長)

 常に「革新」の2文字を掲げながら、エイ・アンド・エイチの変化はこれからも続く。

(2026年8月号掲載)

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