<永井ゆかりの刮目相待:9月号>

連載第108回 最終回 守るとは何か

相続税対策の落とし穴

 多くの地主にとって、大きなテーマは「家を守る」ことだろう。歴史が長ければ長いほど、そのプレッシャーは大きくなる。周りの家が相続で土地を売ったとか、家族間でもめて絶縁状態になったとか、そんな話があると、より慎重に進めざるを得ないと聞く。

 すると、相続税対策を事前にやったほうがいいと、周りが騒ぎ始める。相続税が高くなる可能性があれば、税金対策として借金をしてアパートや賃貸マンションを建てましょうと、建築会社から営業を受けるようになる。税理士も、借り入れの分だけ相続課税資産を減らすことができるし、賃貸住宅なら相続税だけでなく固定資産税も駐車場より安くなるから節税効果は高いと話す。

 専門家までもがそんな話をするので、納得してしまい、賃貸住宅を建てる。まるでその方策が最適解であるかのように思い込まされるわけだ。そして、父親に相続が発生した直後は、相続税がかなり低く抑えられたため、不動産をほとんど売らずに済んだ。つまり、その対策自体は効果を発揮したかのように見えるだろう。

 だが、10年後、その賃貸住宅は空室が目立ち始め、収支計画どおりにキャッシュが得られなくなっていた。この後に必要な大規模修繕に備えて、資金をためなければならないのに、マイナスになる可能性も出てきた。

 父親が健在なうちに収益性の高い不動産の贈与も進めたほうがいいと聞いて、すでに長男の子ども、すなわち孫に贈与したのに、その孫は長男の妻と一緒に家を出ていってしまった。

 こういう話を聞くと、相続税対策は本当に家を守ることになるのか、首をかしげたくなる。

家族の幸せを考える

 家を守るためには、相続対策が必要だという。ただし相続対策は相続税対策ではない。そのことをわかっていても、家の大切な資産である不動産を守ろうとすると、手元の現金では納税額が賄えないため、ついなんとか税額を減らそうとしてしまう。

 そんなことを考えていると、ある地主の言葉が頭の中でこだまする。

 「相続対策というけれど、税制も変わるわけだし先のことなんて、正直わからない。そんな不確定要素の強いものを主軸に対策をすることに意味があるのだろうか」

 本当に守るべきものは何か。それは家それぞれで違うかもしれないが、多くの家が最も願うのは、家庭が円満であることではないだろうか。家庭が円満であるために、どのような形で次の代に残していくのがいいのか。先祖から引き継いだ土地が、あるいは家の財産が減ったとしても、遺産を理由に家族が争うことは避けたいと思うものだ。

 地主の「守る」という呪縛。この呪縛から解放されるためには、「家庭円満」でいられる方法を考えることが大切だ。目に見える不動産や現金よりも、優先して残したいものを考えることが必要だろう。

永井ゆかり

永井ゆかり

Profile:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。
(2026年 9月号掲載)

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