企業が取り組む成長戦略としての賃貸経営

土地活用賃貸住宅#リノベーション#空室対策#築古

製材工場の跡地で賃貸マンションを運営 定期的なリノベと管理体制の見直しで満室中

 安定した売り上げを確保しやすいことから、企業が不動産賃貸事業に取り組むケースは多い。しかし、建物が古くなるにつれて、空室が目立つようになると物件を手放す企業も少なくない。そうした中、40年近く賃貸経営を行い、入居率ほぼ100%を誇るのが大和屋(埼玉県熊谷市)だ。

▲(上)右側奥に立つのがサンハイツ大和第1、手前がサンハイツ大和第2  

▲(下右)サンハイツ大和第3 (下左)サンハイツ大和第5

大和屋(埼玉県熊谷市)
黒田小源治代表取締役会長(76)

 江戸時代後期の1824年、埼玉県北部の熊谷市で創業した大和屋。2024年で創業200周年を迎えた。当初は米穀商だったが、まもなく材木商となる。時代が明治、大正、昭和と変わりゆく中、製材事業から建材事業や注文住宅事業に軸足を移していき、現在は不動産事業も行う。所有物件数は5棟109戸で自主管理を行い、貸し駐車場も管理・運営する。

1980年代、熊谷市初の高級賃貸マンションを建設

 同社が本格的に賃貸事業を開始したのは1979年で、熊谷駅近くにあった製材工場の跡地を、大型ショッピングセンターの駐車場として貸し出したことに始まる。82年に上越新幹線が開通し、熊谷駅に新幹線が停車するようになり、駅前は商業施設などでますますにぎわうようになった。駅から徒歩5分の場所に、同社は約1000坪の第2製材工場を構えていたが、駅周辺の発展を考えて熊谷市郊外にできた工業団地へ工場を移転。

 7代目の黒田小源治代表取締役会長は「その跡地に6代目である父がマンション建設を決めたのです。当時、熊谷には2階建てアパートしかなかったので、東京のようなマンションにしようと、SRC造の9階建てを2棟計画しました」と話す。

 1棟目の「サンハイツ大和第1」が85年に竣工。広さ58~68㎡の3LDKで、全35戸だ。市内で一番高い賃料が5万5000円という中、同マンションの賃料は6万~7万円台。熊谷市初の高級賃貸マンションとして注目を集め、入居者を確保した。

 86年、サンハイツ大和第1と同規模の「サンハイツ大和第2」が竣工。折しも、光学機器メーカーのトップ企業の製作所が市内に完成し、ほぼ一棟丸ごと借り上げで社宅契約を結ぶことになった。さらに、同企業からの社宅戸数を増やしたいという要望を受けて、88年にサンハイツ大和第3と第5の2棟を建築。計30戸で社宅契約を結んだ。

▲1923年当時の同社の第2製材工場

法人契約からの脱却時代に合わせてリノベ

 安定した賃貸経営が続いていたが、2005年、社宅契約を結んでいた企業が社宅制度を廃止することとなった。段階的に契約が解除され、空室が増えていったという。築年数が20年近くになる中、3LDKは和室が2室を占め、浴室に追いだき機能がないなど、入居者ニーズと合っていなかったからだ。

 そこで、和室を洋室に変えるなどのリノベーションをしたが、浴室は排水管の都合で追いだき機能へ対応できなかった。その分、同社は管理体制などのソフト面を充実させることで補おうと考えた。

「管理人による巡回管理を始めて、掃除なども社内スタッフが行うようにしました。入居者向けの小冊子も作り、結露対策やごみの捨て方などを紹介するとともに、リフォーム工事の告知などを、掲示板に張るだけでなく、小冊子で各戸に配るようにしたのです」(黒田会長)

 さらに、SRC造のマンションは市内に少なかったため、木造と比べたときの強みとして、防音性や防火性の高さを打ち出すことにした。そのようにして、自社で空室を埋めるノウハウを構築していった。

▲熊谷駅周辺に貸し駐車場を30カ所、計1000台分所有し、管理・運営する

築年数が30年を過ぎて設備のさらなる充実

 現在、不動産部の部長を務める野口悦男氏が同部署に着任した16年、入居率は6割程度に落ちていたという。「築年数が30年を過ぎて、部屋を探す際のポータルサイトで検索条件に入らなくなり、空室が徐々に増えていったようです」と野口部長は話す。

 そこで、野口部長はまず仲介会社に人気の内装デザインや設備をヒアリングし、自社物件は新婚夫婦に好まれる傾向があることなどを把握した。そして、部屋選びで主導権を握るといわれている女性を意識して、壁紙や床材を選び、キッチンや洗面台、浴槽などの水回りの設備を入れ替えた。

「仲介会社の意向をくみ取ってリノベしたことで、内見者に優先的に紹介してもらえるようになりました。コンスタントにリノベを続けて、3年ほどで満室にできました」(野口部長)

 同社は24年1月から、サンハイツ大和第1の大規模修繕工事を行っている。10年前から計画していて、工事のために住戸とテナントの全入居者を退去させたという。黒田会長は「古くなった排水管を交換するため、皆さんに退去してもらいました。床や天井などを取り払ったスケルトンリフォームをしています」と話す。先祖から引き継いだ土地であるため、黒田会長には建物が古くなっても売却するという考えはないからだ。

「不動産部の売り上げは、会社全体の2割ほどを占め、2億5000万円弱です。当社の所有物件の場合、平均入居年数は5年、法人契約の場合で3年です。建材や注文住宅の販売事業と比べて、収入の見通しが立つことが大きいです。今後も熊谷市に働きに来る人に上質な住まいを提供していきます」と黒田会長は話す。

▲入居者向け小冊子「ふれんど」。2024年3月で236号を迎えた

(2024年6月号掲載)

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