各社で異なる仕組みを構築 住宅メーカーのZEH最新状況
住宅メーカーにはZEHの賃住宅建築提案に注力している会社は少なくない。今回はZEH賃貸住宅に注力している4社について各社の取り組みを紹介する。
積水ハウス ZEH賃貸住宅のパイオニア 入居者売電方式で累積受注4万戸超
■積水ハウスの ZEH 賃貸住宅の仕組み
※積水ハウス提供資料を基に地主と家主で作成
賃貸住宅におけるZEHのパイオニアといえば、積水ハウス(大阪市)だろう。「シャーメゾンZEH(ゼッチ)」というブランド名で、20年度から本格的に普及を推進し、23年度はZEH賃貸住宅を1万5191戸受注。23年度までの累計受注実績は4万2562戸となった。賃貸住宅の建築受注全体におけるZEHの比率は23年度の実績で76%だった。
同社のZEH賃貸住宅の特徴は、各戸に太陽光発電を接続する入居者売電方式を提案している点だ。ZEH仕様だけでも断熱性が高く、光熱費を抑えることができるが、さらに余った電力を入居者が売電できる点は入居者満足度を高める点で大きなポイントとなる。
同社によると、65㎡、2LDKの賃貸住戸を想定したシミュレーションで、一般的な賃貸住宅と同社のZEH賃貸住宅を比較したところ、年間の光熱費が35%削減できるという。固定価格買い取り制度(FIT)の固定買取価格はだいぶ低くなっている。そのため、賃貸住宅に太陽光発電を設置するメリットをオーナーによる売電ではなく、入居者の自家消費および余った場合の売電という形で入居者に還元することで賃貸住宅の価値を上げることができる。
建築費は同社の標準の賃貸住宅に比べて、1戸あたり2Kwh分の太陽光パネルとパワーコンディショナーが増える。だが、その分、ZEHの賃貸住宅のほうが家賃を高くして貸せるため、家賃で回収することができる。ZEHの認知度が上がっていけば、ますます価値も高まり、家賃の維持も可能になるだろう。
同社では賃貸住宅でZEHを体験してもらうことでファンを増やしていき、ZEHが普及するように貢献していきたい、と考えている。
■シャーメゾンZEHで採用している入居者売電方式
*積水ハウス提供資料を基に地主と家主で作成
大東建託 賃貸住宅の屋根を35年間借り上げ 太陽光発電設備の設置・運用で賃料収入アップ
*大東建託提供資料を基に地主と家主で作成
23年度にZEH賃貸住宅の供給数を大幅に伸ばしたのが、大東建託(東京都港区)だ。同社は完工ベースでZEH賃貸住宅を累積2万6171戸供給してきた。このうちの半数以上が実は23年度で、年間1万8404戸にもなる。同社が供給する賃貸住宅全体に占めるZEH賃貸住宅の割合も急増しており、22年度が約15%だったのに対し、23年度は約61%となっている。
同社が注力するのは、太陽光発電設備付きで、京セラ(京都市)と共同特許を取得し、低圧一括受電システムを用いた同社オリジナルのスキームが特徴のZEH賃貸住宅だ。主なポイントは建物に太陽光発電設備を設置するにあたり、物件の屋根をグループ会社の大東建託パートナーズ(同)が借り、同社の負担で太陽光発電設備を設置・運用。オーナーが費用を負担することなく太陽光発電設備を設置でき、35年間の屋根借り賃料により事業収支もアップする。
同社では、京セラとの電力買い取り契約の締結により、両社間でFITによらない電力需給スキーム(以下、非FIT)を構築した。従来のFITでは、各地域の電力会社の条件によりZEH賃貸集合住宅を販売できないエリアがあった。だが、今回の電力買い取り契約の締結で、大東建託グループはZEH賃貸住宅からの発電電力を運用する非FIT発電所として、非FITによる低圧一括受電システムを活用した電力を供給するとともに、販売エリアを拡大できるようになった。
また、余剰電力は再生可能エネルギー由来の電力として、京セラが工場や事業所などで使用。この事業スキームにより、両社間で安定した電力需給体制を構築することが可能となる。
▲大東建託のZEH賃貸住宅の外壁イメージ
旭化成ホームズ 発電した電力は入居者とグループ会社で使用 屋根の借り上げ賃料は一括で支払われる
▲Ecoレジグリッドの外観
旭化成ホームズ(東京都千代田区)は、太陽光発電と蓄電池を搭載した自家消費型賃貸住宅「Eco(エコ)レジグリッド」に取り組む。21年5月の提供開始から、受注ベースで約300棟、引き渡し済みの件数として、約100棟の実績がある。
Ecoレジグリッドは、旭化成ホームズが物件の屋根のスペースをオーナーから30年間借り上げて、太陽光発電と売電を行う。併せて蓄電池も設置することによって、発電した電力をためる仕組みだ。
発電した電気はグループ会社である旭化成(同)が電力小売事業者として買い取る。旭化成ホームズはその取り次ぎとして「へーベル電気」を入居者と契約し、電力を提供する形になる。旭化成が買い取った電力については、入居者だけでなく、旭化成ホームズの住宅展示場や工場などにも販売。グループ内で「クリーン電力(非化石燃料でつくった電力)」が循環するように設計している。
太陽光発電設備や蓄電池の設置、メンテナンスに関わる費用などは、すべて旭化成ホームズが負担し、借り上げた屋根の賃料を一括でオーナーに支払う。オーナーの費用負担が発生しないだけでなく、屋根の遊休地活用による収益確保につながる。
それに加えて、独自の高性能の断熱材と軽量気泡コンクリートの二重構造によって、標準スペックでZEHの高断熱仕様を満たし、ZEH–Mや建築物省エネルギー性能表示制度「BELS(ベルス)」マークを取得することができる。
高い断熱性による省エネ効果で、旭化成ホームズの試算によると、10~15%ほどの光熱費削減に寄与する。これが入居者のメリットだ。
災害時には、蓄電池が自立運転することで、停電したときも共用部や住戸内のWi–Fiの利用が可能な仕組みになっている。
旭化成ホームズのマーケティング本部・集合住宅事業推進部マーケティンググループの横田竜氏は「一歩踏み込んだ環境貢献につながるビジネスモデルを確立させ、ブランドとしての価値を高めていきたい」と話す。
*旭化成ホームズの資料を基に地主と家主で作成
三井ホーム 構造躯体にスギの木470本相当の炭素貯蔵 木造建築の可能性を広げ脱炭素社会への貢献に注力
三井ホーム(東京都新宿区)は、21年に初の木造マンション「MOCXION INAGI(モクシオンイナギ)」を完成させて以降、6棟を建築してきた。これまで東京都を中心に展開してきたが、24年2月、大阪市内に関西初となるMOCXIONが竣工した。
新たに竣工した「MOCXION ESPOIR(エスポワール)」は、3階建て1K47戸の木造学生マンション。近隣に大学がある立地ということもあり、3月末にはほぼすべて入居者が決まった。
MOCXIONの最大の特徴は、劣化対策等級と耐震等級の最高ランク3に加え、ZEH–M Orientedも取得している点だ。木造ではあるものの、この劣化対策等級および耐震等級でそれぞれ最高等級を取得していることにより、大手不動産情報サイトが定める「マンション」の登録要件を満たし、マンションと表記できるのだという。
MOCXIONは、木造の特性である断熱性・気密性の高い建物であるうえに、生活で発生する1次エネルギー消費量の20%以上の削減を実現する。さらに、上下階の遮音性を高めるため、同社独自開発の「高性能遮音床システム Mute(ミュート)」を採用。それにより、上階の衝撃音の広がりを低減させる。木造ならではの温かみや、歩行感を残しつつ、鉄筋コンクリート造と同等クラスの遮音性能を確保した。
「木」は鉄やコンクリートに比べて、製造・加工・運搬時に必要とされるエネルギーが少ないため、木造建築は鉄骨造やRC造よりも建設時の二酸化炭素(CO ²)排出量を大幅に削減できる。また、木造建築は長期間炭素を大気に戻さず建物内に固定化(貯蔵)する。同物件での木材の総利用量は約308㎥となり、炭素貯蔵量をスギの木換算すると、470本分に相当する量を貯蔵していることになるという。
「建築して頂いたオーナーはほかの建築会社からRC造の提案などがあったそうですが、減価償却期間が短い木造でありながら、グレードの高い建物ということで決めてくれました」(関西コンサルティング営業部営業グループ楢橋隆グループ長)
(2024年6月号掲載)
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