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- 【電子版連載】次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー:第2回 空き家を次世代の資産へ(後編)
「古民家のリノベーション」から「まちの空き家を次世代の資産へ昇華させるリノベーションの社会的意義と効用」を考える
相次ぐ自然災害や資材価格の高騰などの影響により、大きな変化が起こりつつある不動産業界。そうした中「不動産オーナー井戸端ミーティング」は貸し手と借り手、そして地域にとって「三方よし」となる、持続的でブランディングされた不動産経営を目指し、主宰する𠮷原勝己オーナー(福岡市)が中心となり勉強会を有志で開催している。
今回は、戸建てや空き店舗のリノベーションなどを通して、地方都市のシャッター商店街を再生させるなど、地域の活性化を実現させた人物2人の講座を取り上げる。野北氏を紹介した前編に続き後編では、福岡県柳川市地域おこし協力隊として活動する阿部昭彦氏の講座をレポートする。
阿部昭彦氏
地域おこしは、地域で暮らす人たちが自己実現する場
私はずっと東京に住んでいましたが、2014年に地域おこし協力隊として福岡県柳川市に移住してきました。柳川市は観光のまちとして有名で、市としても観光を重視しています。一方で私は、「観光がまちを幸せにするかというと、果たしてそうだろうか」という疑問を持っていました。もちろん、市全体として観光を推進していくこと自体は悪いことではないでしょう。しかし、地域おこし協力隊としては、地域に暮らす人たちが毎日の暮らしの中で豊かさや楽しさを実感できるように手伝うことが大事なのではないかと思ったのです。そこで、地域の人々が交流できるスペースをつくるため、空き店舗を再生して「KATARO base32(カタロベース)」という施設をオープンしました。ここでは、柳川で暮らしている人たちが、主に自己実現の場として集まることができるようにと考えて運営しています。
稼働率100%のシェアスペース
KATARO base32は元々築80年を超えるお茶屋さんでした。開いている店がほとんどないようなシャッター商店街の一角にあり、普段は倉庫代わりに利用され、年に1回のお祭りのときだけ開けるという状況でした。地元の高校生の発表会の運営を手伝った際にこの物件と出合ったのですが、どうにかここを生かすことができないかと考えるようになりました。
そうした中、タイミングよく開催されていた九州DIYリノベWEEK(ウイーク)の第1回に参加し、𠮷原氏をはじめ、いろいろな人と出会いました。これがきっかけとなり、老朽化した物件をリノベして再生させる手法を学び、アドバイスを受けながら完成したのがKATARO base32です。
このシェアスペースは、曜日ごとに運営する人が異なるキッチンやカフェに貸し出して平日を埋め、土日はイベントを入れることで稼働率ほぼ100%を実現しています。私は樽(たる)を改造してつくったワークスペースで仕事をしていますが、ガラス張りで外から覗けるため、商店街を歩く人が気になって声をかけてくれます。「人寄せパンダ」のような役割ですが、これにより交流が生まれるきっかけをつくることができたのです。
解体するはずだった蔵が人気スイーツ店に
あるとき、シェアスペースによくコーヒーを飲みに来る近所のおじいさんが「今度うちの蔵を壊すので中を見てみないか」と声をかけてくれました。リノベをしていたのを見て、古いものが好きな人だと思われたのかもしれません。実際に見に行ってみると、確かにいろいろなものが出てきて面白かったのですが、それ以上にこの建物自体が面白く「壊すのはもったいないのではないか」という話になりました。実は、この蔵は破損や倒壊などの危険がある危険建築物に指定されていて、解体するための補助金の申請も終わっていました。しかし「壊さないでほしい」と伝えたところ、オーナーの残したいという思いと重なり、補助金の申請を取り下げてくれました。
こうして私たちが蔵を借りることになったのですが、シェアスペースのスイーツイベントに何度か参加したことのある菓子屋に声をかけたところ出店の話がまとまり、リノベしてスイーツ店に生まれ変わりました。今では柳川でも指折りの人気スイーツ店となり、オーナーからはとても感謝されています。
細胞分裂のように増えるコミュニティー
KATARO base32が誕生したことで、地域で何かをやりたいのにできずにいた人たちが集まり始めました。イベントなどに参加してくれた人たちが、細胞分裂のようにまちの中にコミュニティーをどんどん立ち上げ始めたのです。休眠していた店舗や空き家をリノベして、カフェやゲストハウス、スナックのほか新たな交流施設などが次々に誕生。山登りをするクラブやフットサルクラブなどのサークルも増えてきました。
現在は、築150年以上(想定)で敷地面積260坪の古民家をリノベして新たな施設を造ることに挑戦しています。建坪100坪に12LDKの間取りを生かし、コミュニティー本屋、コワーキングスペースに加え、6畳の和室を3人ぐらいがシェアして店を出すような「マイクロ商店街」をつくろうとしています。初期投資が少なく自分の店が始められるので、もし失敗したとしても挽回や撤退がしやすいことから、よりいろいろな人が挑戦しやすくなるのではないかと思います。
道路に面しているところは縁側を生かして、半公共空間にする予定です。今まで、みんなが使う公共の空間は自治体が用意するものだと思っていましたが、そうではなく、民間が提供する半公共空間というものが街中にはあるべきではないかと思うようになりました。ブロック塀で隠れて中が見えないよりも、時には一部を解体して、中が見えるようにすることが大事なのではないでしょうか。
地方都市の空き家問題が表出する中で、豊かで歴史のあるエリアならではの、規模・グレードともに高い潜在価値を持つ空き戸建て物件に関する相談が、私たちの周りに増えています。今回の二つの事例はそれを賃貸、購入の方法で再生し、さらにエリアの活性化と「セルフブランディング」を調和させています。あるべき収益化の方法を模索する取り組みが始まったように見えます。
これは地方の賃貸オーナーの所有物件や相続物件における個人的な悩みを解決する事例です。一方で、新たに賃貸による収益化を考える不動産オーナーにとっても、これまで敬遠されてきた大型空き家物件再生のビジネスモデルを見いだすためのヒントと考えてはいかがでしょうか。
地方から、賃貸経営の革新的タネが続々と生まれている事例の報告でした。
(2024年9月公開)
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