VOL.2 なぜ、設備性能より躯体性能を重視すべきか
「資産価値を維持する高性能住宅」とはどのようなものかについて、省エネルギー以外の視点から取り上げていく。高気密・高断熱住宅を手がける建築会社を家主に紹介する住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)の高橋彰代表取締役がわかりやすく解説する。
住宅設備を重視日本の住宅マーケット
住宅の性能は、設備性能と躯体性能に大別することができます。その中で日本の住宅は躯体性能よりも、設備性能を重視する傾向があります。
例えば、断熱性能が不十分で、気密性も低く隙間だらけなのに太陽光パネルを設置して、さらに蓄電池まで導入するような住宅が数多く建てられています。
もちろん、太陽光パネルや蓄電池の導入を否定するつもりはありませんが、建築時にかけるべきコストの優先順位が問題です。まず、十分な躯体性能を確保したうえで、設備性能にこだわるべきなのです。
躯体性能を優先すべき二つの理由とは
なぜ、躯体性能を重視すべきなのか。二つの理由があります。
第一に、設備はおおむね15年前後で更新時期を迎えます。つまり15年程度で価値がほぼゼロになってしまうのです。それに対して躯体は、もちろん経年劣化はありますが、約60~100年程度、その性能を維持します(図1)
第二に、高性能な設備は後からでも導入が可能です。設備の更新の際に、高性能なものに入れ替える、もしくは後から太陽光パネルや蓄電池などを新規で導入することもできます。
一方、躯体性能を後から高めようとすると、フルリノベーションなどを行う必要があります。当然、多額のリノベ費用がかかります。建築時に躯体性能を高くするのに比べ、後から躯体性能を高めることはとても大変なのです。
躯体を重視する四つの性能 資産価値の維持と収益性
躯体性能について具体的に説明すると、次の四つに分けることができます。
①耐震性能
②耐久性能
③断熱性能
④気密性能
断熱性能と気密性能については、これからの賃貸住宅の差別化や資産価値の維持という観点から重要な性能です。冬暖かく、夏涼しく、省エネの暮らしをするためにはとても重要で、入居者の満足度に直結します。
一方で、耐震性能と耐久性能は、事業リスクや維持コストという観点から、直接収益性に関わってきます。
では、耐震性能に、どの程度こだわるべきなのでしょうか。建築基準法が要求している耐震性能は、耐震等級1といわれるもので「震度6強から7程度に対して倒壊・崩壊しない」というレベルです。
この耐震性能のレベルは、あくまでも倒壊・崩壊しないということなので注意が必要です。つまり、大地震による倒壊・崩壊で賃借人が亡くなることはないにしても、そのあと賃貸住宅として利用できない可能性が高いのです。
賃貸事業の事業継続性という観点からは、基本的に、大地震でもほぼ被害を受けないレベルの耐震等級3を確保しておくことをおすすめします。
耐久性能の重要性 賃貸事業収支に直結
次に、耐久性能はなぜ重要なのでしょうか。
賃貸住宅の事業収支を検討する際に、耐久性能による維持コストの違いに鑑みながら、建築の仕様やコストを検討するということはあまり行われていないように思われます。
実際は、耐久性能によって、その後の維持管理費に大きな違いが生じます。
図2に示すように、初期投資(建築コスト)よりも維持管理費のほうが一般的には金額が大きくなります。そのため、耐久性能による維持管理コストを踏まえながら仕様を決めるべきなのです。
例えば、屋根や外壁は、一般的な仕様だと、10~15年ごとに表面塗装を行い、30年目くらいで屋根のふき替え、外壁の張り替え・増し張りが計画されています。また木造の場合の防蟻処理(シロアリ対策)は、5年ごとに再施工が計画されていることが多いようです。
ところが、屋根材・外壁材の耐久性にこだわると、簡単なメンテナンスや点検だけで30年程度は維持できます。最近はモダンなデザインにもマッチする瓦が出ていますが、瓦は基本的には塗装などのメンテナンスは不要です。外壁材も窯業系のサイディングでも塗膜の変色・退色の30年保証する商品が出ています。また永続性のある防蟻処理を新築時に施しておけば、その後は点検程度で大丈夫です。
もちろん、これらの高耐久仕様にすると、建築費は増えますが、中長期的に見れば、圧倒的に事業収支上有利になります。建築コストと想定家賃に基づく目先の表面利回りに目を奪われないことが大切なのです。
今後の連載で、主に耐震性能と耐久性能に焦点を当てて、より具体的に説明していきたいと思います。
住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)
高橋 彰代表取締役
[プロフィール] 全国で180社以上の工務店などと提携し、家主とのマッチングを中心に高気密・高断熱住宅に特化した住まいづくりのサポートサービスを提供。性能にこだわる建築家の紹介や、高断熱賃貸住宅プロジェクトサポートも手がける。東京大学大学院修了。現在、同大博士課程で高断熱木造建築について研究中。
(2024年12月号掲載)
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