【連載】資産価値を維持する 高性能賃貸住宅:6月号(最終回)

賃貸経営住宅設備・建材

最終回 RC造ならば外断熱を選びたい

「資産価値を維持する高性能住宅」とはどのようなものかについて、高気密・高断熱住宅を手がける建築会社を家主に紹介する住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)の高橋彰代表取締役がわかりやすく解説する。

外断熱工法のメリット

 これまでの連載で説明してきたように、3階建て以下の低層の集合住宅で、高気密・高断熱にするのであれば、木造がベストです。鉄骨造は気密性能の確保が難しいうえに、鉄は木に比べて熱を通しやすく、断熱性能の確保にも不向きなのでおすすめできません。
 ただ、現状の賃貸住宅マーケットでは、RC造(鉄筋コンクリート造)に比べて、木造はまだまだ家賃が低くなる傾向があり、また上下階に対しての遮音性能も劣ります。そのため、低層集合住宅においてもRC造は有力な選択肢です。ただその場合、外断熱工法を選ぶことを強く勧めます。この工法は、室内の快適さ、省エネルギー性能、躯体の寿命など、さまざまな面でメリットが多いのです。

内断熱工法が一般的な日本

 RC造での断熱工法には、コンクリートの躯体の内側に断熱材を施工する内断熱工法と躯体の外側を断熱材で包む外断熱工法があります。
 諸外国を見渡すと、RC造では外断熱工法のほうが一般的です。特に、米国、英国、ドイツ、イタリア、フランス、デンマーク、オーストラリア、韓国において、RC造住宅では外断熱工法を採用することが法律で定められているそうです。不思議なことに、内断熱工法が一般的なのは、日本だけのようです。

RC造は「熱橋」が重要

 諸外国で、RC造の外断熱工法が標準的なのは、建築物理学的観点で見るとそのほうが合理的だからです。
 第一に「熱橋」対策が容易なのです。熱橋は、ヒートブリッジとも呼ばれ、建物の中で熱を伝えやすく熱を橋渡ししてしまう部分のことをいいます。
 内断熱工法の場合、図1の楕円(だえん)部分に示すとおり、バルコニーや屋外廊下などの躯体部分と室内につながる躯体の縁を切るのが難しいのです。
 例えば、冬の暖房運転時には、バルコニー部分の躯体は外気で冷やされ、それが室内に伝わります。夏も同様に、外気や日射により暖められた熱が室内に伝わり、冷房負荷を増大させてしまいます。
 それに対して、外断熱工法は、外側から断熱材でくるむので、熱橋が生じにくくなります。

図1:外断熱工法と内断熱工法 (出所)住まいるサポート

 

蓄熱性能で室内はとても快適

 コンクリートは、熱を溜める「蓄熱性能」が高い素材です。
この蓄熱性能を味方につけるか、敵にするかで、室内の快適さは全く違ってきます。
 熱の種類には、直接触れて伝わる「伝導熱」と風や空気で伝わる「対流熱」、赤外線で伝わる「放射熱」の三つに分かれます。室内で伝わる熱のうち、75%は放射熱だそうです。
 室内環境の快適さは、放射熱にかなり左右されます。人が感じる温度は、温度計で測る室温と放射熱を生じる壁の内側の温度の平均値だといわれています。
 内断熱工法の場合は、躯体の温度も外気の影響を大きく受けます。そのため、冬は床・壁・天井が冷たく、暖房で暖めても、体温が躯体に奪われて寒く感じるので、必要以上に暖房で室温を高めてしまうのです。
 夏はその逆で、躯体が熱くなるため放射熱で暑く感じ、必要以上に冷房で室温を下げることになります。
 一方、外断熱工法の場合は、躯体の温度が基本的に室温に追随することから不快な放射熱の影響を少なくできるのです。また冬や夏、冷暖房を切った後も、コンクリートに蓄熱され快適な室温がしばらく続きます。

省エネ・CO2削減に貢献

 RC造における外断熱工法は、夏も冬も穏やかな冷暖房の設定で快適な温度を保つことができます。
 その結果、冷暖房光熱費や二酸化炭素(CO2)排出などの削減に貢献します。そのうえ、入居者にとっては、とても快適な住空間となるのです。

躯体性能が長寿命化する

 コンクリートが外気温の変化や風雨にさらされていると、図2のように、クラックが鉄筋に到達し雨水が浸入すると、鉄筋がさび始めます。鉄筋はさびると膨張し、さらにクラックを大きくします。そのため、コンクリートが剥落する危険な状態になる恐れもあるのです。
 それに対して、RC造での外断熱工法は、コンクリートが外気などの影響を受けにくいため、クラックが生じにくく、躯体が長寿命になります。これらのことから外壁補修の頻度が少なく、維持コストも安くなり、資産価値も保たれやすいのです。

RC外断熱工法の欠点

 このように、RC造の外断熱工法のメリットは多いのですが、建築コストが内断熱工法に比べて高いことが欠点となります。
 RC造を選ぶのならば、イニシャルコストばかり優先せずに、維持コストや入居者の快適さなどを考えて、断熱の方法を選定することを勧めます。
 高気密・高断熱にこだわった、賃貸住宅の在り方について説明してきましたが、今回が最終回となります。今後の賃貸住宅の建設の際に参考にしていただければ幸いです。

住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)
高橋 彰代表取締役


全国で180社以上の工務店などと提携し、家主とのマッチングを中心に高気密・高断熱住宅に特化した住まいづくりのサポートサービスを提供。性能にこだわる建築家の紹介や、高断熱賃貸住宅プロジェクトサポートも手がける。東京大学大学院修了。現在、同大博士課程で高断熱木造建築について研究中。

(2025年 6月号掲載)

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