賃貸住宅においてインターネットが使えることは、今や入居者の当たり前の要望になっている。また、設備とネットの組み合わせにより、生活は日々便利なものに変わる。その一端を垣間見てみよう。

 

際立つネット無料のニーズ 「あれば入居決まる」で長年1位に

 今や、ネットに触れない日はないという人は、ほとんどいないのではないだろうか。

 特に近年は、住環境においてもネットに簡単につながることへのニーズが高まっている。「全国賃貸住宅新聞」が毎年、賃貸住宅設備の最新のニーズについてアンケート調査を行い作成する「入居者に人気の設備ランキング」によると、とりわけ「ネット無料」の人気が際立っている。

 ここでいうネット無料とは、アパートやマンションなどの賃貸住宅において、有線もしくは無線で全戸にネット回線が届いており、入居者は自身でネット接続事業者(ISP)と契約することなく、無料で利用できるもの。導入費用や利用料金は家主が負担し、ISPとの契約も家主が行う。

 同ランキングのうち、「この設備がなければ入居が決まらない」ランキング(23年)において、ネット無料はファミリー向け物件で7位、単身者向け物件で4位といずれも上位にランクイン。また、「この設備があれば周辺相場より家賃が高くても入居が決まる」ランキング(同)では、ファミリー向け物件、単身者向け物件の双方で1位になっている。これは実に8年連続のことだ。

 個人がアパートやマンションでネットを利用した場合、月額で3000~5000円かかるのが一般的だが、それが無料になるのは入居者にとって大きい。家主にしても、入居付けの強みになるし、退去抑制にもなる。また、ネット無料をうたうことで、その分家賃を高くしたり、後々も家賃を維持しやすかったりするメリットがある。

 

光ネット設備で無料化実現 全国で27万戸以上に

 ランキングにあったように、ネット無料の賃貸住宅は実際に広がりを見せている。

 イーブロードコミュニケーションズ(大阪市)は、「e-Broad(イーブロード)光マンション」のブランド名で賃貸住宅に光ネット設備を構築し、全戸のネット無料化を実現している。アパートやマンションを所有する家主に提案し、契約を結ぶ。導入実績は直近でも前年比で10%伸びており、現在は27万戸以上まで拡大している。

 e-Broad光マンションの導入先を新築と既存の建物に分けて見てみると、5年前は新築2割、既存が8割だったが、現在は新築が4割、既存が6割となっている。新築が増えてきた理由は、「新築物件を建てるうえで、ネット無料はもはや外せない設備になっているからです」と、同社の渕上功営業本部マネージャーは話す。

 一方、既存物件の場合は、空室が増えてきたことをきっかけに、導入を決める家主が多いという。

 e-Broad光マンションを導入するには、家主が同社と契約して設備を導入する。費用については、無料の現地調査が行われ、戸数に応じた詳細な見積もりが提示される。また、導入にかかる期間の目安は、共用部の工事で1~2日程度だ。最新のIPv6対応の通信方式による1Gbps光回線とWi─Fi6により、通信の安定性を確保する。

「ネットは今や電気、ガス、水道に次ぐ第4のインフラです。これからも品質のいいネット環境を提供していきたいです」と渕上マネージャーは意気込む。

 

利便性・安全性が向上 ネットで変わる賃貸住宅の暮らし

スマートロックで鍵要らず

 賃貸住宅にネット環境が整えば、住宅設備ともネットでつながり、今までとは違った住生活を送ることができる。以下、付帯設備ならびに生活シーンごとに見ていこう。

 まずはスマートロック。物理鍵を用いずに、スマートフォンを使って遠隔からでも開閉が可能な点が最大の特徴だ。スマホ内のアプリなどを使って、ドアに取り付けた機器と通信して開け閉めを行う。

 物理鍵が要らなくなるため、「鍵をなくす」ということがなくなる。オートロック機能が付いているものも多く、自動で施錠されるので、鍵を閉め忘れることもない。自宅に誰もいないときに親族の誰かが訪ねてきた場合には、スマホを使って遠隔で鍵を開けることができる。

 従来だと当たり前だった入退去時の鍵の交換も必要なくなるため、家主や管理会社の経費や負担が軽減される。

 ドアに取り付ける機器は、既存ドアに穴を開けて加工するタイプと、加工せずに既存の錠前部分にかぶせるタイプのものがある。

遠隔から応対可能なIPインターホン

 IP(インターネットプロトコル)ネットワーク対応型のインターホンも、スマホアプリと連動させることができる。

 外出していて自宅に誰もいないときに来訪があったとしよう。すると手元のスマホに通知が来て、アプリを通じてインターホンのモニター映像(訪問者の映像)を確認することができる。もちろん、スマホから遠隔で応対することも可能だ。必要ならば解錠すればいい。

 来訪がない場合でも、外にいながら自宅の玄関前をモニター映像で確認できたり、自身の不在を知られたくない場合には遠隔で応対することができるため、セキュリティーの側面からも役立つ。

荷物が届けば知らせてくれる宅配ボックス

 もはや賃貸住宅には欠かせない設備となった宅配ボックスも、ネットとつながっていれば、入居者が在宅中でも外出中でもスマホに通知が来るので、後から荷物を取りに行くことができる。

宅配ボックスは数に限りがあるため、荷物の取り忘れによって、ボックスが空かずにほかの入居者が使えなかったり、配達事業者が荷物を再配達しなければならなかったりする事態が生じることもある。

 届けられた荷物を忘れずに取りに行き、宅配ボックスが効率よく利用されることで入居者の「使えない」という不満が軽減される。また、再配達を減らして、人手や輸送能力の不足が懸念される「物流2024年問題」に対応できるので、配送事業者のためにもなり、社会にも貢献できるのが魅力である。

見守りカメラで安心と癒やし

 最近は、見守りカメラのニーズも高い。自宅内の様子を撮るために設置するカメラのことで、留守番中の子どもや同居中の高齢者の様子を外出先や勤務先からスマホを通じて映像で確認することが可能だ。

 その中には、飼っているペットの様子を勤務先で映像で確認して癒やされている人もいる。また、不在中の自宅を撮影し、不審者の侵入がないかなどを確認する防犯カメラとしても活用できる。

ⅠoTで実現するスマートホームの生活

 

 賃貸住宅がネット環境になることで味わえる醍醐味だいごみがⅠoTだろう。ⅠoTとは、Internet of Things(インターネット・オブ・シングス)の略でモノのインターネットといわれる。ここでは、自宅内のさまざまな住宅設備がネットでつながっている状態をいう。

 例えば、仕事を終えた夕刻の家路を想定してみよう。手元のスマホから自宅内の設備に向けていろいろな操作をすることができる。暗い部屋に帰りたくなければ照明をつけておけばいい。冬場はエアコンの暖房や床暖房のスイッチを入れて、部屋を暖めておくことができて、反対に、夏場はエアコンの冷房を入れておくことも可能だ。給湯器のスイッチを操作して、風呂の追いだきもできる。

 また、外に出かけた際に、カーテンを閉め忘れていたら遠隔で閉めることも可能だ。もちろん、前述のスマートロックやIPインターホン、見守りカメラといった設備とつなげることもできる。

 このように、住宅設備や家電がネットでつながって操作できるような住宅は、「スマートホーム」と呼ばれている。外からスマホで操作した内容を室内の設備に伝えるためには、Wi─Fiやブルートゥースといった無線通信を利用する。無線の中継・ハブ機能を果たす機器も各メーカーから販売されている。

※イーブロードコミュニケーションズ提供素材を基に地主と家主で作成

 

在宅時間の充実がポイント

 これまで付帯設備とその利用シーンに合わせて、ネットを活用した賃貸住宅の新しい生活を紹介してきた。これらに加えて、近年は電子書籍や漫画が読み放題になるという入居者の趣味・嗜好をターゲットにしたサービスも生まれている。

 入居者にとって、ネットを使った生活が今以上に当たり前になった際、ネットが未開通の賃貸住宅は、入居対象の選択肢にも入らない恐れが出てくる。

 自身の所有物件にいまだネットが敷かれていない家主は、導入を検討してみてはどうか。

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