<<ビルオーナー物語>>
再開発を追い風に資産を組み換える
商業ビルにたどり着いた不動産経営
東京都小金井市を中心に5カ所の不動産を所有する、大嶋の大嶋幸治社長。酒類販売事業を営んでいた父親の相続発生後に本格的に乗り出した不動産経営は、駅前の再開発が後押しとなってその資産価値を大きく高めることができた。
大嶋(東京都小金井市)
大嶋幸治社長

JR新宿駅から中央線で西に向かって25分のところに位置する武蔵小金井駅。南口駅前には駅ビルが立ち並ぶ一方、少し歩けば自然も感じられるエリアで、特にファミリー層には子育てしやすいと人気の街だ。
大嶋社長はその武蔵小金井駅南口から徒歩2分の場所に、5階建ての商業ビル「大嶋ビル」と「OSビル」を所有している。同駅近くに所有する約300坪の土地には、定期借家で貸し出すコンビニが建つ。その横にある2階建て事務所、そして同線西国分寺駅にあるマンションも合わせると、現在1億2000万円ほどの年間家賃収入を得ている。
だが、大嶋社長の不動産事業は最初から億超えの家賃年収を上げてきたわけではなかった。最初は若い頃に購入した100坪の土地1カ所からスタート。その後、資産組み換えや駅南口の再開発というまちの大きな変化の中でその価値を上げていった。
特に2000年から2010年ごろにかけて進んだ再開発により地価は急激に上昇した。
「駅前開発のおかげで、当社が保有している不動産の価値は大きく跳ね上がりました。もっとも支払う固定資産税も10倍ほどに膨れ上がっていますけどね(笑)」(大嶋社長)
そう話す大嶋社長が武蔵小金井駅前に初めて不動産を購入したのは今からおよそ50年前、26歳の時だった。
酒屋の倉庫向けに購入 休みなく7年余りかけて返済
その100坪の土地は、家業である酒屋の倉庫として購入したものだった。
戦前に富山から出てきた父親が武蔵小金井で酒屋を始めた当初は、直接生産者から買い取った商品を小売りする形態だった。そのため、現在大嶋ビルが立つ土地に自宅兼店舗があれば賄うことができていた。
しかしその後、酒類卸しの免許を取得。酒のみならず、みそやしょうゆを小金井市と周辺150店の酒屋に卸すようになり、商品を保管しておく倉庫が必要になった。

大嶋のオフィスが入る大嶋ビル
「父親には何も相談せずに、自分の判断で購入。その後で100坪4500万円の契約書を見せました。父には『大丈夫か』と聞かれましたが『自分が休みなく働いて返す』と言い切りました」(大嶋社長)
当時は金利が7%という高金利時代。だがその言葉どおり、大嶋社長は元旦の1日を除き毎日働き、7年近くかけて完済した。結果として、身を粉にして働いて購入したこの倉庫の土地が、その後の資産組み換えで役立つことになった。
父親の相続発生がきっかけ 不動産事業に本腰を入れる
大嶋社長が本格的に不動産事業に参入したのは1999年、父親の相続が発生した後だ。
大嶋社長は5人きょうだいの末っ子だったが、長男は20代前半で渡米。アメリカに骨をうずめる前提でかの地でのキャリア、そして生活を築いていた。あとの3人はすべて姉ということもあり、父親は事業や資産を大嶋社長に任せることを決めていた。

武蔵小金井駅目の前のOSビル
そのため、相続では自宅兼店舗、自宅の「離れ」のように利用していた駅前90坪の戸建て、倉庫の不動産資産と一部の現金を受け継いだ。これを元手に大嶋社長は不動産事業に乗り出したわけだが、まず手始めに行ったのは倉庫として所有していた土地の売却だった。2本の道路に面しているものの、前面道路の一部に別の所有者の戸建てがあるため、旗ざお地のような格好だった。今後の活用を考えると地形が良くないことから売却を決めた。
その売却益を充てて購入したのが、東京都福生市にあった10戸のアパートと現在も所有するマンション「チェイファー国分寺」が立つ土地だ。
「福生市のアパートは、新五日市街道バイパス工事でいずれ道路収用になると見込んで購入しました」(大嶋社長)
というのも、売却時に「道路収用などに伴う5000万円の特別控除」で非課税となるからだ。
「道路は公共的なものですから、都としても早く買収を進めたいわけです。そこで、売却する地主にもメリットをとの理由で、譲渡益から最大5000万円は非課税で対応するというのがこの特別控除です。福生市の物件も最終的には3000万円ほどもうけが出ましたが、非課税でした」(大嶋社長)
倉庫の土地購入後、積極的に不動産購入を進めなかった大嶋社長だが、不動産に関わる相談を受けることは多かった。
「30年ほど前、不動産会社に土地を売却したものの約束の金額が一向に振り込まれないと相談に来た農家の長男がいました。調べると、元締めは別の不動産会社。その会社に直談判してきっちり支払うべき金額を支払わせました」(大嶋社長)
その際、相談者からは一銭も受け取らなかったがそれが相手からの信頼の獲得につながった。相談者の死後、その弟から「大嶋さんなら悪いようにはしないのを知っている。購入してもらいたい土地がある」と言われたのが、現在コンビニに貸し出している、駅近の300坪の土地だ。
「純粋に人助けと思ってやったことが巡り巡って自分の利益になるということです」(大嶋社長)

相談事が縁で購入に至った土地だ
魑魅魍魎がうごめく再開発 戦いながら得た地権者の権利
相続発生と前後して、武蔵小金井駅南口の再開発が始まった。大嶋社長は「武蔵小金井駅南口第1ブロック街づくり推進会」の専務理事として、地権者側の中心的な役割を担うことになった。
「再開発は地主にとっては大きなメリットがあります。どんな築古の物件を所有していたとしても、一から新しい物件が造られますからね」(大嶋社長)
一方で、不動産事業に疎い地権者は、ともすると再開発を進める市やデベロッパーの「食い物」にされてしまうという負の側面も経験した。それが市と開発事業者による強制的な権利変換だった。
「駅前再開発においては、道路がないにも関わらず『壁面の位置の制限』を適用したり『公共スペース』と称して地権者の土地を無償収用したりといった見過ごせない問題が山積していました。ですが、地権者には納得のいく説明がなされなかったのです」(大嶋社長)

チェイファー国分寺は現在唯一の賃貸住宅だ
市と再開発事業者はさらに強制的な権利変換を行った。これは「権利変換期日」において、再開発区域内の土地・建物の所有権は再開発事業者へ移り、地権者は自動的に新しい建物の床へ権利が変更されること。たとえ反対意見があっても、3分の2以上の同意が得られれば強制的に従わせることができる。
こうした理不尽な再開発計画に対して、大嶋社長は街づくり推進会の会長と共に裁判を起こして抗戦した。
再開発の初期段階から関わっていた地権者の裁判を受けて、最終的に、再開発を担当した事業者は、武蔵小金井駅前再開発以降の強制的な権利変換を行わないという流れをつくり出すことに成功したのだと大嶋社長はいう。
10年以上かかった駅前再開発の完了後、大嶋社長はOSビルの土地、そしてタワーマンションの区分所有14戸という資産を得る結果となった。創業時に自宅兼店舗のあった土地と新たに購入した隣地に、大嶋ビルを建設した。
「近辺のビルが1坪あたり2万円〜2・5万のところ、同ビルは4万円という賃料設定ができています。角地に立っており、視認性の良さもあると思いますが、周辺の賃料をけん引する存在になっているのではないでしょうか」(大嶋社長)
こうして、都市の構造変化の中で得た新しい不動産により、大嶋社長の所有する不動産資産の価値は相続時の7倍、そして面積は5倍にまで成長した。

ビルや商業施設が立ち並ぶ武蔵小金井駅前
住宅を手放し商業ビルに集中 最後の事業は三鷹駅前再開発
武蔵小金井駅南口の再開発が決着を見て以降、大きく不動産の入れ替えを行ってこなかった大嶋社長。
だが、3年前に区分所有マンション14戸をすべて売却した。理由は管理の煩雑さだ。
商業ビルとして貸し出している2棟はスケルトン貸しのため、内装や設備などのランニングコストはかからない。機械・設備の償却を考えずに済むメリットは大きいという。また住宅と違って水道の不具合や下水の詰まりといったクレームに対応し修繕する必要がなく、経営上のストレスがない。
「同じ賃貸事業でも住宅はとにかく管理の手間がかかる。賃料の金額を考えると割に合わないと感じます。今後は、商業ビルに特化していこうと思います」(大嶋社長)
区分所有マンションを売って得た売却益で「最後のプロジェクト」に挑む予定だという。それがJR中央線三鷹駅で進む再開発プロジェクトだ。
「武蔵小金井駅前の再開発では、光も闇も経験しました。この経験を生かして、地権者もまちの住民も皆が納得して幸せになる本当の再開発に携われるという自信があるのです」(大嶋社長)
再開発に組み込まれる予定地に、旧知の酒屋があった。大嶋社長はその酒屋の店主に声をかけ、彼が所有する一部の土地と建物の借地権を購入した。購入した割合は大きくはない。だが地権者になることで増床を請求する権利を持つことになる。そのため、再開発においては投資をすれば資産を増やせる可能性があるという。
これは、再開発で建築される新しい物件の床において、地権者が所有する「権利床」の広さ以上を求める申請ができる権利だ。等価交換ではないため、増床分は自己負担とはなるものの、再開発後の資産性の高い物件をより広い床面積で所有することができる。三鷹の再開発には5〜7億円規模の資金を投入する予定だ。
「三鷹でも、もちろん商業ビルを手がける予定です。すでに付き合いのある事業者からは、医療モールの出店の提案などを受けています」(大嶋社長)
そして、この三鷹の再開発を最後にする理由はもう1つある。それは相続税対策だ。
「私も今年で77歳です。毎年、税理士に相続税を試算してもらっていますが、このままでは1億7000万円ほどの相続税がかかることが見込まれています。そのため、この三鷹の再開発に資金を投入することで相続税を圧縮しようと考えています。負債を次の代に渡すことにはなりますが、再開発の土地でのビル開発であれば『負動産』にはならないでしょう」(大嶋社長)
最後のプロジェクトを前に、大嶋社長は自身の不動産事業をこう評する。
「商売成功の大原則は『地の利、人の和、天の時』この3つがそろうことだといいます。振り返ってみると、私の不動産事業はこの3つがそろっていたのでしょう」(大嶋社長)
地の利―所有する不動産が駅前にあったこと。人の和―駅前再開発にあたっては、地権者の代表者としてまとめ役になったこと。天の時―再開発というまちの構造が大きく変わる節目にあたったこと。この三つを三鷹の再開発プロジェクトでも生かしていく考えだ。
大嶋社長が作成するウェブサイトには「大嶋仏像コレクション」として69体の仏像の写真が掲載されている。これらの仏像は、ある借地人の作品だという。
小金井市の別の地主から「長年、地代を払わない借地人がいて困っている」という悩みを相談された大嶋社長は、借地人に会いに行った。過去には家業を持っていたという借地人だが、すでに閉業し、引きこもりのような生活をしながら仏像を作っていた。
借地人が地代を支払うことは難しいと判断した大嶋社長は自分が地代を肩代わりすることを提案。
「地代は支払うが、地主も困っているので退去をしてほしい」と伝えたところ、仏像を託されたのだ。
「捨てるわけにもいかず、リスト化してウェブサイトに公開しています。たまに、購入したいという人が出てきますよ」(大嶋社長)


(2026年5月号掲載)




