<<著者インタビュー>>
その土地、貸すか 売るか買うか
地主のための黒田不動産鑑定士事件簿
地主の抱える複雑な問題を“小説”で読み解く
――なぜ不動産の事例を「小説形式」で描いたのですか。
読んでもらうためです。不動産の悩みを抱える人は、必ずしも法律や税務に詳しいわけではありません。むしろわからないから困っている。その人たちに届く形にしたいと思ったとき、よくある解説書では間口が狭いと感じました。特に地主の抱えるような土地の問題は、相続人の数や権利関係、税金や規制などが絡み合って、とにかく複雑です。専門家でも整理に時間がかかるような話を、一般の人にそのまま説明しても伝わりにくい。だからこそ、物語として読める形にしたかったのです。
――エピソードは多岐にわたりますが、実話なのでしょうか。
実際にあった事例がベースになっていますが、そのままだと判例紹介のようで登場人物に個性がなく、感情移入ができません。そこで登場人物の背景を掘り下げて脚色し、キャラクターとして再構築。読んでみたくなるエンタメ性を加えました。ただし、エンタメに寄せすぎてもいけない。リアルと物語のバランスを考える際には「一般化」と「取捨選択」が重要でした。実際の案件には、事情が特殊すぎるケースも多くありますが、それをそのまま書くと読者が理解しづらくなる。そこで極端な要素は削り、違和感なく読める形に整えています。一方で、土地の価格や権利関係といった重要な部分は、現実に即した形で描いています。リアルさと読みやすさ、その両立を意識しました。
――本書全体を通じたテーマは何でしょうか。
「対決」と「合意」です。不動産の問題は、多くの場合、人と人との対立から始まります。親族間の感情のもつれや、利害の衝突です。ただ、最終的にはどこかで合意点を見つけなければなりません。本書では、そのプロセスを描いています。
――本書はどんな人に一番読んでほしいと思いますか。
まずは地主と、その家族に読んでほしいです。相続は準備が遅れがちな分野です。問題が起きてからではなく、その前に「こういうことが起こり得る」と知っておくことが大切です。その一方で、不動産に直接関係のない人が読んでも「面白い」と感じてもらえたらうれしいですね。特別な設定があるわけではなく、日常の延長線上にある話なので「自分の身近にもありそうだ」と感じてもらえると思います。
著者プロフィール
大野徳明(おおの・のりあき)

行政書士。1963年、埼玉県生まれ。90年、早稲田大学大学院法学研究科前期博士課程修了。資格試験予備校の法律科目講師およびライターを経て、不動産投資関連雑誌の記者として、書籍の制作や執筆活動を行う。不動産投資会社の企業法務担当の経歴も持つ。
その土地、貸すか 売るか買うか
地主のための黒田不動産鑑定士事件簿

原案:三原一洋
著者:大野徳明
出版社:リアルエステート・マネジメント・パブリッシング
価格:1200円(税込み)
概要
「その土地、貸すか売るか買うか」—地主の悩みは、いつの時代も変わらない。本書は、実話を基にした12篇の短篇小説集だ。例えば、借地の建て替え承諾を巡る兄弟の奮闘。売るか守るかで対立する姉弟など。借地借家法、相続、遺留分、等価交換、寄与分、底地……難解になりがちな不動産・相続の知識を親しみやすく紹介する。
(2026年6月号掲載)






