【連載】教えて!弁護士さん 賃貸経営お悩み相談
賃貸経営に関する法律のポイントをQ&A形式で解説します。
Q. 退去後の部屋の壁紙や床の修繕に、入居者から預かっていた敷金を使ってもいい?
経営している賃貸アパートで、ちょうど10年住んだ入居者が退去しました。壁紙や床が古くなってきていたので、次の入居者を募集するためにはそろそろ取り換えなければなりません。入居者の皆さんには敷金を預けてもらっているのですが、この入居者の敷金を使って、壁紙や床を取り換えて入居者が入居した10年前の状態に戻してもらおうと思うのですが、問題ないですか?
A. 単に「古くなった」という理由だけで敷金は使えない。入居者の原状回復義務の対象かどうかを判断する。
不動産の賃貸では、入居者から家主に対して敷金(地域によっては保証金と呼ばれているかもしれません)を預けていることが多いと思います。敷金とは、家主が入居者からお金を回収し損ねないようにするために、入居者に預けてもらうお金のことです。そのため、賃貸が終了した後には、入居者が家主に支払わなければならないお金を除いて、敷金は家主から入居者に返金されることになります。
入居者が家主に支払わなければならないお金の代表は家賃ですが、それ以外にも入居者が賃貸物件を傷つけたり汚したりしてしまった場合に支払うべき費用があります。入居者が負担するのは、家主に対して物件の「損傷」を元に戻して返還するという義務(原状回復義務)を負っているからです。
もっとも、入居者が元に戻さなければならない「損傷」には「通常の使用及び収益によって賃借物に生じた損耗」や「賃借物の経年変化」は含まれません(民法621条)。原状回復とは「入居者が入居した時と全く同じ状態に戻す」ということを意味しないので注意が必要です。
原状回復の対象にならない通常損耗や経年変化に該当するかどうかの判断は難しいのですが、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」にその目安が示されています。
具体的には、入居者の不注意による引っかき傷やたばこなどのヤニ・臭いは、入居者の原状回復の対象です。日照による壁紙・床の自然変色や壁紙のポスター跡などは通常損耗や経年変化であり、入居者の原状回復の対象には該当しません。そのため、「壁紙や床が古くなっている」という理由だけで敷金を使って取り換えることはできません。
また入居者の最終的な負担金額は、修繕範囲や修繕方法による負担割合や修繕対象物の経過年数を考慮して算出されます。特に、壁紙は6年で残存価値1円となるように計算されます。
そのため、今回の場合は、質問者が敷金を使うことができる部分は、ほとんどないのではないでしょうか。
敷金を修繕費に使えるかどうか?
●入居者の不注意による傷やたばこの臭いなど
→原状回復の対象
●通常損耗や経年変化
→原状回復の対象外
私たちが答えます
TMI総合法律事務所(東京都港区)
- 野間敬和弁護士
- 辻村慶太弁護士
野間敬和弁護士:1995年、同志社大学大学院法学研究科修了。97年、弁護士登録。2003年、バージニア大学ロースクール修了。04年、ニューヨーク州弁護士資格取得。同年、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に出向。08 ~11年、筑波大学大学院ビジネス科学研究科講師、12年、証券・金融商品あっせん相談センターあっせん委員。11~14年、最高裁判所司法研修所民事弁護教官。
辻村慶太弁護士:2014年、一橋大学法科大学院修了、15年に弁護士登録。
(2025年7月号掲載)
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