【連載】円滑に承継を進めるための相続対策:1月号

相続権利調整

わが家に合う対策はどれ?家族信託の目的別対策3選

 先祖から受け継いだ不動産と家業を次世代に承継させていきたいという地主・家主にとって、親や自身の認知症発症は大きなリスクだ。本連載では認知症などによる承継リスクに備えた対策について解説。不動産オーナーの「円満家族」 と「永続経営」の実現へ向け、家族信託をはじめとした事前にできる対策を紹介する。

 家族信託の対策にも選択肢があります。賃貸不動産オーナーにとっての家族信託は、いわば家督相続を助けるための仕組みです。家督相続の実現には、「相続人の間に争いを発生させない」「健全経営の状態で引き継ぐ」という二つの要素が重要です。

 特に後者には、認知症対策の視点も欠かせません。なぜなら不動産賃貸オーナーが認知症などにより意思表示が難しくなると、預金や不動産賃貸経営が凍結するばかりか、第三者の専門家の後見人が不動産経営に入ってくる可能性があるからです。

 家族以外の専門家の後見人が通帳や実印を管理することになると、健全な経営ができなくなり、不動産価値の悪化につながる危険があります。次世代の子どもも困ることになります。そうならないための、目的別対策3選を解説します。実践的情報ですので参考にしてください。

①土地・建物を家族信託する

 一つ目は、土地と建物の両方を家族信託する対策です。家族信託は、生前から子どもに不動産経営を託すことができる仕組みです。所有権を「名義人となり管理・運用する権利」と「その財産から利益を受ける権利」に分け、前者だけを子どもに渡します。

 この対策の最大のメリットは、コストが抑えられることです。本来、不動産を動かすときにかかる贈与税や不動産取得税が非課税となり、登録免許税も低くできます。「今、不動産を渡したいわけではないが、認知症などになっても子どもが管理できるようにしたい」というニーズにマッチした仕組みです。

 そして、土地と建物両方の家族信託が向いているのは、将来、銀行融資のために土地に担保設定を予定している家族(※)や、資産の組み替えで建て替えまたは売却を行う可能性がある家族です。土地の所有者が重い認知症になると、担保設定や売却することがができなくなるからです。

②建物のみを家族信託する

 二つ目は、建物だけを家族信託するパターンです。アパート経営は守りたい、一方で不要な支出は抑えたいという場合に向いています。

 土地を家族信託すると登録免許税などの負担が生じますが、建物だけであれば、負担を少なくアパート経営を子どもに託すことができます。入居者への対応(賃貸借契約の締結含む)や建物の修繕も子どもの判断で可能です。土地は、相続トラブルを避けるために遺言で対策します。

③建物を生前贈与する

 三つ目は、認知症対策と相続税対策を併せた方法で、建物だけ生前贈与するパターンです。

 建物は減価償却により毎年評価が下がります。一方で家賃収入は建物の所有者に入るため、このギャップを利用するのです。築年数が古くキャッシュリッチな建物を子どもに生前贈与します。これにより、子どもがアパート経営を継続できます。

 また、家賃収入は子どもの貯蓄になるので、相続税の納税資金として活用することも可能です。土地は遺言や家族信託で対策します。

 建物の生前贈与には、贈与税や不動産取得税、登録免許税の負担が生じるので、発生するコストと対策の効果を比べる必要はあります。さらに、敷金相当額の金銭を建物と一緒に贈与しないと、固定資産税評価額ではなく時価評価額で課税されるなどの落とし穴もあります。ですが、家族の状況によっては非常にマッチする方法です。

 以上、目的別に対策を三つ紹介しました。不動産を担保に入れている場合は事前に銀行に確認するなどの注意点はあるものの、賃貸不動産の家族信託は、家督相続を助ける仕組みです。有利な相続を実現するための選択肢を知って、それぞれに合った方法を実施する、そのヒントになればうれしいです。

司法書士法人ソレイユ(東京都中央区)
司法書士 友田純平 氏

Profile:不動産オーナー、会社経営者の認知症・相続対策に向き合い、法人での累計資産額は100億円以上。依頼主は50筆超の土地を所有する地主をはじめ多岐にわたる。「経営をストップさせない」視点からの家族信託提案を行う。

※子ども(受託者)が債務者として受けた融資が、委託者である親の相続時に債務控除できるかは明確な基準が示されていないため、注意が必要です。

友田先生が本記事の内容をわかりやすく解説しています
▲司法書士法人ソレイユホームページ内動画

(2024年1月号掲載)

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