永続経営を守るための遺留分対策(基本編)

相続遺産分割#円滑に承継を進めるための相続対策

先祖から受け継いだ不動産と家業を次世代に承継させていきたいという地主・家主にとって、親や自身の認知症発症は大きなリスクだ。本連載では認知症などによる承継リスクに備えた対策について解説。不動産オーナーの「円満家族」 と「永続経営」の実現へ向け、家族信託をはじめとした事前にできる対策を紹介する。


後継者に多くの不動産を引き継ぎたい地主・家主にとって、遺留分は必ず知っておくべき知識です。なぜなら、遺留分は遺言者が唯一コントロールできない、相続人の権利だからです。後継者に経営を承継するには、不動産だけでなく、不動産を守っていくための財産も併せて後継者に引き継ぐ必要があります。

しかし、後継者以外の相続人から突然の遺留分侵害額請求を起こされると計画が崩れ、後継者に金銭的な負担がかかります。最悪の場合には不動産を売却して遺留分の資金を用意しなければならなくなります。今回は、この遺留分の特徴や注意点について解説します。

知っておきたい遺留分の四つのルール

遺留分とは特定の相続人が最低限もらえる相続の取り分のことです。

遺留分について、知ってほしいルールがあります。①遺言は必須②遺留分額は金銭で支払う③請求されない限り、支払う義務はない④遺留分にも時効がある、これら四つです。それぞれ解説していきます。

 

①遺言は必須

遺留分の心配をするなら、まず遺言をつくるべきです。「後継者に多くの財産を引き継がせたい」「相続人の中で特定の人に渡したくない」と思っていても、実際には遺言をつくっていない家族がとても多いことに問題を感じています。なぜなら、遺言がなければ、相続人の権利は法定相続分となり、相続手続きを進めるためには相続人全員の話し合いが必要になるからです。これにより、後継者への経営承継が遠のきます。

一方で、遺言をつくることによって、後継者を指名して相続させることができ、相続人の権利も法定相続分から遺留分に引き下げることが可能です。具体例を、相続人が配偶者と長男、次男の3人のケースで紹介します。相続財産が1億円の場合、次男の法定相続分は2500万円ですが、遺言があれば遺留分1250万円と、半分まで下げることができます。この場合の遺言の経済効果は1000万円以上です。

 

②遺留分額は金銭で支払う

遺留分は金銭で支払うルールに変わりました。不動産が多く、金融資産の割合が少ない傾向にある地主・家主にとっては準備が必要になったといえます。

具体的には、地主・家主は次の三つの用途の金銭を用意しなければならなくなりました。一つ目は後継者が財産を守っていくための経営資金、二つ目は相続税の納税資金、そして三つ目は遺留分の支払い資金です。

 法改正前は、資金不足の場合には、遺留分相当額の不動産を渡すことで解決していましたが、法改正後は遺留分を不動産で支払おうとすると所得税や不動産取得税などが課税されることになりました。

 

③請求されない限り、支払う義務はない

遺留分は、請求されてから支払い義務が生じます。そのため、必ず遺留分額を渡す遺言が必要というわけではありません。

 

④遺留分にも時効がある

遺留分は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年以内に請求しないと、時効により消滅します。実際の現場では、相続発生時に、相続人全員に遺言の写しおよび財産目録を郵送します。その際に配達証明や書留など到達日の記録が残るようにし、1年の時効を起算します。

 

親の思いを伝えて争い防ぐ遺言の付言事項

遺留分侵害額請求を思いとどまってくれるよう、遺言に付言事項を載せるのは効果的です。付言事項とは遺言に載せるメッセージのことで、遺言作成の理由や相続人への思いを記載することができます。

付言事項の活用で、自分の死後でも「なぜ財産をこのような分け方にしたのか」という理由を自らの言葉で届けることができます。その結果、たとえ遺留分額に満たなくても、遺言書どおりの分け方で着地することもあります。

付言事項については「家主と地主(2023年7月号)」で例文とともに解説しています。

 

遺留分を減らす目的の贈与無効になる可能性も

相続時の財産額で遺留分の計算をすることから、遺留分を減らす目的で、後継者への生前贈与を実行している人もいます。しかし、これは危険です。遺留分を侵害する目的で贈与したと認定されると、贈与した分を相続財産に持ち戻されたうえで、遺留分を計算されることになるからです。

では、遺留分を減らすにはどのような対策があるのでしょうか。次回解説します。

 


司法書士法人ソレイユ(東京都中央区)

司法書士 友田純平 氏

不動産オーナー、会社経営者の認知症・相続対策に向き合い、法人での累計資産額は100億円以上。依頼主は50筆超の土地を所有する地主をはじめ多岐にわたる。「経営をストップさせない」視点からの家族信託提案を行う。


▲司法書士法人ソレイユホームページ内動画

友田先生が本記事の内容をわかりやすく解説しています

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