永続経営を守るための遺留分対策(実践編)

相続遺産分割#円滑に承継を進めるための相続対策

 先祖から受け継いだ不動産と家業を次世代に承継させていきたいという地主・家主にとって、親や自身の認知症発症は大きなリスクだ。本連載では認知症などによる承継リスクに備えた対策について解説。不動産オーナーの「円満家族」 と「永続経営」の実現へ向け、家族信託をはじめとした事前にできる対策を紹介する。


 前回の記事では遺留分対策の基本編として、遺言の作成が重要であることを伝えました。そのうえで「遺留分を金銭で支払うのは負担が大きすぎる」という悩みを相談されることもあります。

 また、確実に相続の計画が実現できるようにしたいというニーズも耳にします。例えば、生前の家族会議にて、相続の分け方を決めて合意していても、実際に相続が起こったときに、合意を撤回して遺留分を請求することは法律上できるため、不安が拭えないといった相談です。

今回は、具体的な遺留分対策を解説します。

 

①生命保険

②家庭裁判所での遺留分放棄

③養子縁組

④遺留分相当額の資金の調達計画を立てる

 

の四つです。これらを一つずつ見ていきます。

 

①生命保険

 簡単に導入することができ、裁判例(最高裁 平成17年10月29日)でも認められた効果的な遺留分対策は、生命保険の活用です。遺産を預金で渡す割合を減らして、死亡保険金として渡す方法です。

 預貯金のまま遺言で渡す場合と、生命保険を活用して死亡保険金で後継者に渡す場合とでは、遺留分の額が変わります。遺留分の計算方法は被相続人の遺産を基準に計算しますが、この遺産には生命保険の死亡保険金は含まれないためです。また、死亡保険金は「現金で」「すぐに」渡せるため、遺留分を支払う原資として使うこともできます。

 ただし、生命保険金が財産に占める割合が高すぎると、遺留分の対象に含めるとされた裁判例(東京高裁 平成17年10月27日・名古屋高裁 平成18年3月27日)もあるので注意が必要です。

 一方、広島高裁令和4年2月25日決定では、相続財産額を超える生命保険金だったにもかかわらず、遺留分の対象に含めることを否定しました。生命保険と遺留分の関係は、今後の動向にも注目です。

 

②家庭裁判所での遺留分放棄

 推定相続人のうち、遺留分の権利を持つ本人が同意しており、協力的であれば、生前に将来の遺留分を放棄する手続きをすることもできます。ただし、家庭裁判所を関与させることが必要です。

 この遺留分放棄を活用することで、将来遺留分を請求される心配がなく、遺言者の描いたとおり、後継者への相続を実現させることができます。おすすめは、特定の人だけが放棄するのではなく、できれば家族全員で放棄するなど、複数の人が行うことです。それにより、手続きに対する心理的なハードルも下がると思われます。

 

③養子縁組

 養子縁組して養子を増やすことにより、相続人が増えるため、1人あたりの遺留分相当額を減らすことができます。相続税法上は、養子縁組は1人まで(実子がいない場合には2人まで)しか相続税の基礎控除が認められないという制限がありますが、民法上は人数に制限はありません。

 ただし、養子縁組することによって相続人が増えるため、思わぬ争いが生じることもあります。一度、養子縁組を行うと簡単には解消することができません。また過去に、遺留分を減らすことを目的とした養子縁組が無効とされた裁判例(東京高裁 昭和57年2月22日)もあります。そのため、実行する場合には注意が必要です。

 

④遺留分相当額の資金の調達計画を立てる

 遺留分相当額の金銭をあらかじめ準備しておく方法です。まずは、相続で承継する資産の中に、現金や預貯金、上場株式などの流動資産の割合がどのくらいあるかを確認します。もしも遺留分に十分に足りる流動資産額があるならば、後継者も遺留分の支払いができるため、安心することができます。

 一方で、不動産の割合が高く、流動資産が遺留分の金額と比べて不足する場合には、不動産の一部を売却して捻出する、もしくは銀行から融資を受ける方法もあります。融資を受ける場合には担保を求められるため、相続が発生する前に、銀行に融資可能かどうか、および融資額を確認しておけると安心です。

 不動産経営をしているならば、その利益の一部を将来発生する遺留分のためにためておくという方法も考えられます。

 ところで、遺留分対策は遺言をつくることが前提です。後継者以外の相続人へ全く相続させないのではなく、金銭の一部をあえて渡すという遺言をつくり、愛情を示すことで、遺留分請求に至らなかったという家族もいました。

 今回の内容が円満相続の実現に役立てば幸いです。

 


司法書士法人ソレイユ(東京都中央区)

司法書士 友田純平 氏

不動産オーナー、会社経営者の認知症・相続対策に向き合い、法人での累計資産額は100億円以上。依頼主は50筆超の土地を所有する地主をはじめ多岐にわたる。「経営をストップさせない」視点からの家族信託提案を行う。


▲司法書士法人ソレイユホームページ内動画

友田先生が本記事の内容をわかりやすく解説しています

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